四十六話「奇譚-その7-」
その1
若いOLのYさんが実家で片付けをしていたときのこと。
作業をしている途中でふっと意識がなくなった。
気づけば実家の車のなか、電柱に正面衝突していた。
タイヤ痕一つなく猛スピードで突っ込んだものの、死者はおらず、なぜかYさんは軽いむち打ちで済んだ。
そして事後処理云々で慌ただしい日々がすぎたあと。ようやく片付けの続きにとりかかったとき、Yさんは一冊の本に惹き付けられた。
それはなんともないオカルト系の児童書で、いわゆる『いま流行りの○○占いは~』といったものである。
ただ、それはYさんが事故を起こした日、間違いなく意識を失うまえ、最後にみかけたものだった。
(そうそう、馬鹿みたいに占いにハマってたなあ~)と、懐かしい気持ちで本を手に取ると、ぱらっ・・・と本の間からなにかが落ちた。
四つ折りになった古い紙を広げると、カレンダーの一部を切り取ったものだった。
そして真ん中に、占いにハマっていた当時の自分の筆跡で大きく『死』と書かれていた。
そのうえ、鉛筆書きの文字の周りを、これまた鉛筆でぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐるぐる・・・と何重にも○で囲っていたそうだ。
「ここまで話したら察しがつくと思うけど、それね、私が『事故を起こした日』と同じ日にちの切りぬきだったの・・・」
「覚えてないけど、なにかとんでもないことを占ったんじゃないかなあ・・・」
その後、実家にあった占い本の類いは全て中身をみることなく処分し、占いの類いとは縁を切っているという。
その2
Gさんという男性の体験。
当時のGさんは好奇心旺盛で、いまから考えると「行動力のある馬鹿」だったという。
放課後になると、当時流行してハマりこんでいた『こっくりさん』をよくやっていたそうだ。
その日も性懲りもなく『こっくりさん』をしていると、誰かがおふざけ半分で「みんないつ死ぬのか聞いてみようぜ」と言い出した。
それはいわゆるタブーの一つであった。
ただ、昨今のこっくりさんがはなつ、意味のない言葉の羅列に飽き飽きしていたGさんは(どうせ今日もそうだろう)と鷹をくくっていた。
他のメンバーも同じだったようで大変乗り気だった。
しかし、いざこっくりさんを始めると、誰がその質問をするか押し付け合いになった。
そこでなんだかんだいって「行動力のある馬鹿」だったGさんに白羽の矢がたってしまったという。
誰もが十円玉に指をおいて黙りこむなか、いつもの自分からは想像できない震えてうわずった声で「こっくりさん…こっくりさん…ぼくたちはいつ死にますか?」と呟く。
すると十円玉はひとりでに
「く」
「る」
「し」
「ん」
「で」
・・・と軽やかに動くと、そのまま「し」「し」「し」と、『し』の周りをぐるぐるぐると回りだした。
そのままずっとぐるぐるぐるぐる回り続けるだけで止まる様子がない。
みな一斉に叫びだし喚くなか、誰かが急に動いた弾みで机が倒れ、十円玉から指を離してしまった。
ひらひらと舞い落ちた五十音の紙。
その『し』の部分は、まるで鉛筆で強くぐるぐるぐると○印で囲んだところを、十円玉でかき回したようになっていた。
なんだこれはと一同が喚くなか、Gさんは手に違和感があった。
それは十円玉においていた利き手の方ではない。
そのまま視線を逆手の方におろすと、見覚えのない女児ものの鉛筆を握っていた。
「もう頭がパンクしそうでしたよ。だって、当時のぼく、女子から嫌われてて誰も一緒にこっくりさんやってくれませんでしたもん」
もはや声も出せずにGさんは「あ…あ…」と握りしめたえんぴつを皆にみせた。
しかし、誰もがそれをみても無視するので、さらに怖くなったGさんは二度とこっくりさんの類いには手を出さなくなり、今日までこの話は胸にしまいこんでいた。
その3
これまた先述のGさんの体験。
仕事終わり、帰路についていたとき。
溜まりに溜まった疲れからか、その日に限ってGさんの足取りはふらふらしていた。
あー。自分ももう歳かなあ。
そんなことを心のなかで嘆いていると、足がもたついて倒れかかった。
足取りがおぼつかないなか、ふと自分の足元が目にはいる。
小学生や運動するおじさんが履きそうなくたびれたランニングシューズ。
「あれ?これ俺の靴じゃないぞ」
そう思った途端に、車道に飛び出しそうな足取りが急にピタッと止まり、目の前を自動車が猛スピーチで突っ切って電柱に衝突した。
急いで救急車を呼んでいる最中、自動車から若い女性が降りてきて、ふらふらと倒れこんだそうだ。
結局、いままで履いていた革靴はみつからず、覚えのないランニングシューズだけが残った。
気味が悪くてその靴はお焚きあげしてもらったという。
決して靴をはきかえることのない職場で働くGさんと、事故を起こしたYさんから聞いた話。
奇譚-『無意識』-
各原題『うら“ない”』『ぐるぐるぐる』『俺の靴』