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シェアリングエコノミーで「人生の選択肢を増やす」辻本果歩さんの挑戦

豊かな生活に慣れていると見落としがちですが、世の中は「もったいない」であふれ返っています。もったいないのは、モノだけではありません。空き家や人のスキルなど、有効活用できるものは、まだたくさんあります。

このような問題の解決策として、注目されているのがシェアリングエコノミー(以下、シェアエコ)です。

シェアエコとは、インターネットを介して個人と個人の間で、使われていない「モノ・場所・スキル」などを貸し借りするサービスです。

この活動に尽力しているのが、滋賀県長浜市の地域おこし協力隊として活動する辻本果歩さんです。シェアエコによって何が実現できるのか、お話を伺いました。

「当たり前」が変わった限界集落での時間

大学時代に過ごした限界集落での様子

辻本さんは、兵庫県第3の都市といわれる西宮市出身。大学時代に授業の一環で、限界集落に1ヶ月間滞在した経験が「価値観をガラリと変えた」といいます。滞在中は、ご近所さんから育てた野菜をおすそ分けしてもらったり、お祭りのときには地域総出で夜通し山車(だし)を担いだりしました。どれも都会で過ごすだけでは知り得ることのない経験ばかりだったそうです。

【参考記事】

大学卒業後の勤め先は、縁があって大阪の民間企業に入社しました。恵まれた職場環境ではありましたが、社会人として働くなかで限界集落での経験がずっと心の中に残っていました。

そして2023年、辻本さんに転機が訪れます。

「縁あって滋賀県長浜市から、地域おこし協力隊のお話をいただきました。地域おこし協力隊の活動内容は、『シェアエコの普及活動』でした。

当時の私は、シェアエコに関する知識はまったくありませんでしたが、長浜市からの説明に対して真剣に耳を傾けました。そのうえで、地方に関わる仕事ができるかもしれないと思い、挑戦してみることにしたんです」

長浜市がシェアエコを進める背景には、市内では担い手不足や空き家などの増加、中小企業の廃業による地域経済の縮小といった人口減少にともなう問題がありました。

これらの課題の解決を図るため、そして公共サービスを補完する新しい社会の仕組みとしてシェアエコの活用に取り組みだしたのです。長浜市の取り組みに共感した辻本さんの挑戦がここから始まりました。

シェアエコとは?

シェアエコとは、インターネットを介して個人と個人の間で、使われていない「モノ・場所・スキル」などを貸し借りするサービスです。例えばマイカーを他人に貸し出すカーシェアリングや、自宅を旅行者に貸す民泊などがあります。

実は、すでに私たちの生活には「シェアエコ」が当たり前のように溶け込んでいます。

例えば、スキルマーケットの「ココナラ」の場合、自分が持っているスキルとスキルを欲しいと思っている人がインターネット上のプラットフォームでつながってスキルを共有します。それによってお金が循環して経済が回るシェアエコです。

辻本さんのInstagramのアイコン、友人に描いてもらった似顔絵。これもスキルシェアの一つ

さらに認知度が高いシェアエコといえば、フリマアプリの「メルカリ」があります。不用品を出品して、それを欲しいと思っている人とインターネット上のプラットフォームでつながり、個人間で売買するおなじみのサービスです。モノをシェアすることは、不要になったものを誰かが引き継ぐことであり、持続可能な社会を作る一助となりえます。

シェアエコの基本は地域の声に耳を傾けること

シェアエコ普及のミッションを受けた辻本さん。着任当初は、シェアエコの事例を知るために、本やインターネットの情報を読み漁ったそうです。

しかし、情報収集を目的として地域の事業者が主催するイベントでヒアリングしたときに、知識ばかりをインプットして情報発信するだけでは足りないことに気づきました。それならば「私自身がシェアする人間になろう」と辻本さんは考えました。

そして、地域の事業者とのつながりをキッカケに、地域住民にヒアリングを展開。そうしたなかで、空き家の活用方法に困っている方に出会います。

「地域には、シェアしてほしい人とシェアできる人がいます。しかし、シェアエコに発展させるためには、お互いの存在に気づかなければいけないという課題があります」

こう語る辻本さん。自分が果たすべき役割は、シェアを希望する人同士のマッチングのお手伝いだと気づいたといいます。そこで、SNSでシェアできる資源を発信する活動も始めました。

地域におけるシェアエコの可能性を探る

長浜駅前に登録してあるカーシェアリング

辻本さんは車の免許を取ってから長浜に移住してくるまでの間、車を所有したことがありませんでした。その状況を活かし、複数人が車を共有するサービス「カーシェアリング」を試してみようと思ったのです。

「カーシェアリングを使用することで、ガソリン代や駐車場代、維持費に税金など諸々の費用が車を購入するよりも安くなりました。好きなときに借りて、好きなときに車を返却できますし、登録から配車までの流れもスマホ1台で完結できるのでスムーズです」

車を所有しない選択をすることで、さまざまなメリットを感じたという辻本さん。現状、カーシェアリングできる車の台数が少なく、長浜駅前にしか貸し出しする場がないため、普及への課題はたくさんあります。インフラを整えることも必要ですが、まずは「車をシェアする」という選択肢に気づくことが大事だと話します。

「長浜市に住んでいると車を所有して当たり前と思いがちです。しかし、テレワークが増えた市内在住の方のケースですと、車の使用頻度が少ないため、『2台あるうちの1台はカーシェアでもいいかもしれない』という声を聞きました。カーシェアリングという選択肢があったからこその発想だと思います。選択肢を増やすことができるのが、シェアエコの意味だと思っています」

スペースシェアで人と人をつなぐ

鍋パーティーの様子

次なるシェアエコの実践は、スペースシェアです。辻本さんは、地域住民とのヒアリングで知り合った空き家の所有者に、スペースシェアを提案しました。空き家を有効活用して、人がつながる交流の場にしようと思ったのです。

「長浜市はエリアが広く、人とのつながりを持ちにくいと感じていました。それならば、私が人と人が出会う機会を作ろうと考えたんです」

そして開催したのが、鍋パーティーです。初対面の人同士が集まりましたが、美味しい食べ物を囲むことで盛り上がり、それぞれが魅力的なスキルを持っていることに気づきました。この会をきっかけに、デザインを得意とする人とつながったそうです。

スキルを持つ人、それを必要とする人がつながり化学反応が起こることで、新たなシェアが生まれていく――このポジティブな連鎖が続いていけば、きっとまちは豊かになるはず。そんな想いを巡らせながら辻本さんは活動を続けています。

シェアエコの力で暮らしの選択肢を増やしたい

現在、一人でシェアエコ活動を行なっているという辻本さん。しかし、これからは多くの人を巻き込んでいく必要があると考えています。

「これから私がやるべきことは、まちに『人と人が出会う場』を作っていくこと。地域の人たちが交流することで、お互いのスキルやアイデアをシェアし合い、自然とシェアエコを行う状態が生まれていくのが理想です」

そのほかにも、辻本さんはさまざまなシェアエコを知り、地域の人たちに向けて発信していきたいと考えています。そのうちの一つが「フードシェア」です。フードシェアとは、閉店間際で売れ残りそうな商品を、割引価格で提供するもの。スマホを使えば簡単にサービスを受けられます。

まだあまり知られていない取り組みですが、購入者にも販売者にも大きなメリットがあり、ダイレクトにシェアエコの魅力を感じられそうです。

「『モノを所有する=生活の豊かさ』という考え方が長く続いてきました。しかし、これからの時代は、どれだけシェアできるかが、心の豊かさにもつながると思います。よりよい生活をするために『こんなシェアエコがありますよ』と提案し、広めていきたいです」

辻本さんはこの活動を通して、まちの人たちの選択肢を増やしたいと願っています。挑戦はまだまだ始まったばかり。シェアエコを地域に根付かせようと奮闘する辻本さんの今後の活動に注目です。

【辻本果歩さんSNS】


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