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アピアランスケアで患者様一人一人の気持ちに寄り添う治療を

―その人らしい人生を送るお手伝いがしたい

近年、日本の医療業界においてアピアランスケア*¹に対する取り組みが推進されるようになってきました。しかし、日本におけるアピアランスケアの認知度やがん患者の方々への配慮はまだ十分ではありません。東京・巣鴨にあるアピアランスビューティクリニックでは「その人らしい美しさ」をコンセプトに、がん患者の方に対する心身のケアをはじめ、外見に悩む全ての方がなりたい自分に近づくための治療を行っています。トライトのコーポレートアドバイザーであり、アピアランスビューティクリニック院長の堀口和美先生に、患者様一人一人の人生に寄り添うアピアランスケアへの想い、そして医療業界の発展を目指す今後のビジョンについて伺いました。
*¹:がんとその治療によって外見の変化が生じる患者さんに対して、身体的問題・心理的問題・社会的問題の3つの問題をアセスメントし、医学的・整容的・心理的・社会的手段を用いて、外見の変化から生じる患者の苦痛を緩和することによりクオリティ・オブ・ライフを改善する医療者のアプローチのこと。

-Profile-
堀口 和美(ほりぐち かずみ)
地元である熊本県で一般外科医として外科の基礎を学んだ後、都立駒込病院の乳腺外科で、延べ94,000例の診療と8,500例の外科手術を執刀し現場経験を積んだ。多くのがん患者との出会いをきっかけにアピアランスケアの重要性に気付き、患者の気持ちに寄り添った医療を提供したいと2020年アピアランスビューティクリニックを開院。

-乳腺外科医としてのこれまでのキャリアを教えてください。
医学部6年目の臨床実習で全ての科を経験した際に、患者様の努力で改善できることに加えて更なる治療をして差し上げられる「外科」に魅力を感じて外科医の道に進むことを決意しました。卒業後5年間は医局に所属して診療や外科手術に奔走していましたが、知識を深めるために大学院に進みたいと思っていた時に国内トップレベルの乳腺外科治療を提供する都立駒込病院乳腺外科とのご縁をいただきました。最先端の医療に触れたことで「この環境でもっと学びたい」という気持ちが大きくなり、以来乳腺外科医として、延べ94,000例の外来診療と約8,500例の手術を行ってきました。多くの乳がん患者様と向き合う中で、がん患者様を心身共に支援する、というアピアランスケアの根幹となる視点に気付きました。

-堀口先生がアピアランスケアの重要性に気付かれたきっかけは何だったのでしょうか?
かなり進行したがんを患っていたある患者様に、「私の乳がんを治してくれてありがとう。でも先生は私の人生を台無しにしたんですよ。」と言われました。抗がん剤治療や乳房全摘、放射線治療などの治療に耐え、長期にわたるホルモン療法を経て、再発なく経過観察に移行することになった時でした。私は「あぁ、これまでの治療と患者様の努力が報われて本当によかった」と安堵していたのですが、その言葉を聞いてまるで雷に撃たれたような衝撃を受けました。治療により髪の毛が抜け、肌が黒ずみ、乳房を失ってしまうことは、美しさを保ちたい女性にとって、人生そのものを台無しにするほど耐えがたいことだったのです。

命を救いたい、その一心で進めてきたこれまでの治療だけでは、患者様の気持ちや人生に寄り添う視点が不十分で、このままでは、患者様の心の底からの満足にはつながらないという事実に直面しました。

そして、そんな時に出会ったのが、まさにアピアランスケアでした。アピアランスケアは、「がんやその治療に伴う外見変化に起因する身体・心理・社会的な困難に直面している患者とその家族に対し、診断時からの包括的なアセスメントに基づき、多職種で支援する医療者のアプローチ」と定義*²されており、これこそが私がやっていきたい治療だ!と確信したんです。
*²:国立がん研究センター中央病院 「アピアランス(外見)ケアとは?」引用

-アピアランスケアに注力した「アピアランスビューティクリニック」を2020年に開業されました。開業までの道のりはどのようなものでしたか?
実は、アピアランスケアの道に進むと決めてすぐに開業を考えていたわけではありませんでした。当初は、治療からケアまでをワンストップで行えるアピアランスケアセンターをつくることを目標に、都立駒込病院で有志を募り浸透活動を行っていました。しかし、保険診療のみが行われている都立病院では、なかなかスムーズに進まず、これでは自分が理想とする医療を患者様に提供できない、と思い開業を決意しました。まずは、美容の知識と経験を習得するために、美容クリニックで様々な美容医療の技術を学びながら開業準備を進めました。そして、2020年にアピアランスビューティクリニックをスタートさせ、がん患者の方もそうでない方も、その人らしい美しさを追求できるケアをモットーに日々患者様と向き合っています。

がんにかかりたくてかかる患者様はいません。でも、患者様は皆さん、がん治療に前向きに取り組んでいらっしゃいます。だからこそ、新しい考え方や発見、これまでとは違う景色、知らなかった自分、がんにかかったからこそ知ることができた世界を、アピアランスケアによって患者様にお届けしていきたいです。

-今後、医療業界でアピアランスケアに対する取り組みがより促進されれば、世の中の認知も広がってくると期待します。堀口先生が描く今後のビジョンを教えてください。
がんにかかった瞬間からアピアランスケアは始まります。ただ、海外と比べると日本のアピアランスケアは遅れていて、まだまだ認知も低い現状があります。欧米には、そもそもアピアランスケアという言葉が存在しません。なぜなら、ウィッグを購入する際の補償やお肌のケアはがん治療の一環で、治療における重要な一部であると認識され、行われているからです。がんの治療が外見にどんな影響を及ぼすか、また、外見が変わることが患者様の内面にどんな変化をもたらすか等を、日本の皆さんにも広く知ってほしいです。外見は内面の一番外側にあるもので、その人の心の中を如実に表します。がんの診断を受けた患者様が、ただでさえ精神的に苦しい中で、治療によって見た目の変化が起こってしまうというのは非常につらいことだと思います。アピアランスケアが標準的な選択肢として認知され、がん患者様が安心して治療を受けられるような世の中になるといいなと思いますし、質の良いアピアランスケアが提供できるよう医療業界全体の成熟も後押しできたらと考えています。

*編集後記*
「心身共に支援し、その人らしい美しさを追求する」という言葉から、堀口先生が患者様一人一人の人生に寄り添う姿勢が伝わってきました。トライトが行う人材サービス事業もまた、利用者様が仕事を通してその人らしく輝けるよう人生に寄り添ったサポートを目指しています。業界は違えど、誰かの人生に寄り添うという堀口先生のお取り組みは、私たちトライトにも共通するエッセンスがあると感じ嬉しくなりました。堀口先生の更なるご活躍を心より祈念しております!

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