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人を変える、密やかな甘味の力

ある海辺近くにある古民家風のカフェに、風鈴が1つついていた。

その海辺はそんなに有名ではなかったけれど、風鈴の音がときおり

「ちりん、ちりん。」

となるカフェは風鈴の音の心地よさのせいなのか、車で立ち寄るお客さんは途切れずによっていくのだった。そして、もう一つ人が立ち寄る秘密には・・・

そのカフェの店主が作るプリンがなぜか、懐かしく、でも1回食べたらやみつきになり、また食べたくなる味であるということなのだ。店主はレシピをよくお客さんに聞かれるのだが秘密にしていた。

実は、そのプリンのレシピにはカフェの前にある海からとってきた海水と祈りの言葉を込めて作られたものなのだ。その祈りは日によって違って、その日の祈りの言葉にまさにピッタリの人がやってきて、プリンを食べ帰っていくのだった。

例えば、店主がその日

「食べた人が元気になりますように。」

と祈りを込めて作ったら、1人の男性が元気がなさそうにカフェに入ってきた。その彼は、何もしゃべらないけれど店主が注文を聞くと、

「噂で聞いたここのプリンと珈琲をください。」

とつぶやいた。

店主はまさに今日自分が祈りをこめたにふさわしいお客さんだな、と思った。あまりしゃべりたくなさそうだったので、敢えて声はかけなかったけれどプリンと珈琲を食べ終わり、お会計を済ませてから

「ありがとうございました。」

と見送った。

後日、そのプリンと珈琲を食べた男性から手紙がきた。

「○○カフェの店主さま

こんにちは。

先日そちらでプリンと珈琲をごちそうになったものです。

あの時は、何も聞かずに見守ってくださりありがとうございました。実はそちらを訪ねた時、仕事を失ってしまい、落ち込んでいたのです。まさか、真面目に働いてきた自分が会社から辞めてくれと言われるなんて思っていなくて・・・

それで、ふと旅に出ようかなーと思っていた時に友人に

”○○に不思議なカフェがあるらしいよ。時間があるなら行ってみたら。”と軽く勧められたので行ってみたんです。海の風景にも癒されましたし、何よりそちらで鳴っていた風鈴の音と食べたプリンが印象的で、その旅から帰ってきたら不思議と元気になっている自分に気づいたんです。

それから、少しのんびり過ごした後に仕事を探していたら丁度いい仕事に巡りあい、今は元気に働いています。また、行きたくなったら伺います。ありがとうございました。

                         ○ ○ より」

と書かれていた。

店主は手紙を読みながら、笑みがこぼれた。

自分の作ったプリンでまた1人前を向いて歩こうと思ってくれた人が出てきたことに・・・・・

手紙を読み終わってから、また店主は祈りをこめ、プリン作りに励むのだった。風鈴の音がちりん、ちりんと鳴った。

おしまい

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