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「コイブチさんのような建築家がいてもいい」という言葉でラクになれた。 | 株式会社暮らし図 鯉渕健太 × TRUNK

TRUNKのブランディングは、すべてお客さまとの共創によってできあがったものです。課題を解決するための進行過程で得られた気付きや、制作の裏側にあるストーリーをお伝えしていきます。

建築家 鯉渕健太さんが代表を務める日立市の建築事務所 暮らし図。Webサイトのリニューアルの依頼から約1年のやりとりを経て、2021年春にサイトが公開となりました。当時のプロジェクトを振り返り、その後の変化などについてお話を伺いました。

鯉渕 健太(こいぶち けんた)
株式会社暮らし図 代表。一級建築士。茨城県日立市を拠点に住宅から店舗幅広いデザインを手掛ける。自身が納得するまで何度でもスタディを繰り返す。無類の建築好き。


サイトの相談段階で、すでにお問い合わせが増えていた。

笹目:サイトが公開になりましたが、何か反応はありましたか?

鯉渕:お客さまからすぐにご連絡いただいて、「コイブチさんらしさ全開ですね」と言っていただけたのがうれしかったです。

笹目:それは良かったですね!プロジェクトを振り返ってみていかがですか?

鯉渕:やって良かったと思います。じつはサイトづくりが本格始動して2~3ヶ月頃から、新規のお問い合わせが急に増えたんです。まだサイトは完成していない段階ですが、TRUNKさんとの相談を通じて僕の頭の中身が変わってきていたのかもしれません。これからサイトで伝える内容が、SNSなどで発信する情報にすでに染み出していたんだと思います。あくまで仮説ですけど、そうでなければいきなりお問い合わせが増えることはないので。

笹目:もともと今回のミッションはお客さまに肩をたたかれる回数を増やすことでしたが、早い段階で達成されていたんですね。当初はSNSで何を書いていいかわからないと悩んでいらっしゃいましたが、途中から我々も「コイブチさん、書けてるじゃん」(笑)と思いながら拝見していました。

鯉渕:TRUNKさんとのやり取り通じて、何を伝えたらいいのかがはっきりしたんだと思います。結果、サイトを公開する頃には驚くほどお問い合わせが増えていました。正直、今回のプロジェクトは自分自身が変化できたという成果が大きくて、さらにおまけで素晴らしいサイトがついてきたという感覚です。

「建て主座談会」で、骨組みはほぼ出来上がった。

笹目:サイトの方向性を探る上で、建て主のお客さまにお話を聞く機会を設けましたが、いかがでしたか?

鯉渕:まさにやって良かった取り組みのひとつです。ふだんお客さまと家づくりの話はしますが、自分のことをどう思っているかを聞く機会ってないじゃないですか。これがなかったら、僕自身が思うコイブチらしさを一方的に伝えるサイトになっていましたが、お客さまが思うコイブチらしさという他者視点を取り入れることができたのが良かったです。

笹目:我々も実際の建物を訪れて、建て主さんの生の声を聞くことで、自然と「コイブチさんに仕事を頼んだら楽しいだろうな」という気持ちになれました。だから今回は、お客さまたちがおっしゃっていた、コイブチさんとの家づくりの楽しさを表現したいと考えたんです。建築の見方がわかったり、自分の考え方が深まったり、お客さま自身が能動的に家づくりに関われる面白さが伝われば、新たに肩をたたかれることも増えるだろうと。

鯉渕:そんなふうにデザイナーの方に、建て主の視点になっていただけたのもうれしかったです。お客さまから良い言葉がたくさん聞けたので、そこで骨組みはできたという感覚でしたね。伝えたいと思っている本人だけでなく、エンドユーザーにも話を聞く座談会は、僕自身も店舗の建築ディレクションでぜひ真似したいと思っています。

自分なりの建築家像を見つけられたのが一番の収穫。

笹目:最初にお声がけいただいたときは、「建築家と呼ばれたくない」「不動産の取引資格を取得するから、その仕組みを整えたい」と、ずいぶん迷われていた様子でしたね。

鯉渕:そうなんです。じつは今回のプロジェクトの結論って、「コイブチさんはそのままでいいんじゃないですか」ってことなのかなと思っていて。ご相談する前は自作のサイトで自分なりに発信もしていたんですが、“建築家とはこうあるべきだ”という考えに捉われていて、自分で書いた言葉なのに自分ではないような感じがしていたんです。いわゆる建築家像をトレースしようとしてもできない自分がいて、どちらに進めばいいかわからずにあがいていたんですね。そんななかでTRUNKさんに「コイブチさんは、いろいろなバリエーションがある建築家のひとり」「コイブチさんみたいな建築家がいてもいい」と、自分を認めていただけた気がして、すごく気持ちがラクになったんです。

笹目:土地探しから相談に乗ってくれることや、建て主も一緒になってアイデアを出しあえる打ち合わせなど、現在の暮らし図は、迷いの果てにたどりついたスタイルですよね。そこが他にはない建築家として、鯉渕さんの個性だと思ったんです。

鯉渕:以前は自分をいかに加工して見せるかばかり考えていましたが、TRUNKさんに素でいいと言われたことが、価値の大転換。自分なりの建築家像を見つけられたことが、今回の一番の収穫かもしれません。迷ってもここに戻ってくればいいんですからね。 今では、更に仕事が楽しくなりました。素の自分で仕事して良いと、いうなれば、肩を叩かれることを目的としたWebサイトが、背中を押してくれるWebサイトにもなり、肩や背中にいつも何か良いものを感じながら仕事に励ませて頂いております。
いつも肩や背中のあたりに笹目さんや助川さんが「良い背後霊」のように居ります(笑)

最初の15分で、任せて大丈夫だと確信。

笹目:依頼した時点で、こうしたプロジェクトになることは予想されていましたか?

鯉渕:過程については全然イメージできていませんでしたが、良いものができるだろうという期待はありました。またこれはデザイン事務所へ依頼する際にいつも思うことなのですが、「(依頼主の)商売上のツールというよりも、(デザイン会社の)作品として扱われたらどうしよう」という不安は少しありましたね。

笹目:うちはどちらかというと、経営・商売につながるデザインに力を入れていると思っているのですが、なかなか伝わりにくいんですよね。

鯉渕:実際に話せば早いんですけどね。僕の場合、最初の相談から15分で不安は飛んでいきましたよ。

笹目:それは良かったです。コイブチさんはもともと経営にデザインを役立てようという考えでしたが、企業活動にデザインが有用であること自体がまだまだ知られていない状況なので、より多くの経営者の方に知っていただけるよう取り組んでいます。
「ウチはデザインは必要ない」と思ってこられた中小企業さんが、デザイン視点を取り入れてリブランディング※(注 するとかえって効果が出やすいんです。

鯉渕:デザイナーってなにか素敵なものをつくっている人、っていうイメージがありますもんね。でも笹目さんがよく「ユーザー側にとって有益かどうか」という視点についておっしゃっているように、ただ見た目が良いものをつくるのではなく、そういった提案ができるデザイン事務所は経営者にとって良いパートナーになると思うんです。その違いがなかなか伝わりづらいのは、僕ら建築事務所も同じかもしれません。気になっている方はまずは“体験入学”みたいな感覚で、一度相談してみることをおすすめしたいです。

笹目:おっしゃるとおり、実際に話してみてわかることは多いですからね。ぜひ暮らし図の今後の展開についても、伴走させてください。

※(注 リブランディングとは「ブランディングをし直す」こと。トランクの考えるリブランディングは、新しいものを外から持ってくるのではなく、今あるものから価値を見出して、よりその会社らしく自然体で(自分らしく)仕事ができるように軌道修正していく事であると考えています。

ライティング|平嶋さやか