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Book Log:4 Permission to Feel (Marc Brackett, Ph.D.)

出会いはBrene BrownのPodcastだった。
ゲストとして登場したMarc Brackettはこんな主旨の発言をした。

「子どもたちが挫折してしまうのは、能力が低いためではない。ネガティブな感情とどう向き合うか、周囲からの厳しい反応にどう対応するのか、その方法を知らないからなのだ。」

この言葉を聞いた時、能力はあるのに、厳しい競争の中で息切れしてしまい、「自分なんてだめだ」と自信をなくしてしまった生徒の顔が何人も浮かんだ。そして、彼の本は読まなければならないと思った。


Permission to Feel

このタイトル自体がショッキングではないか。
感情を感じる許可、感情を感じていいんだよということ。
裏返すと、いかに毎日の生活の中で
私達がいかに感情にたいして無関心なのか、感情を感じてはいけないと思っているのか、感情を押し殺してきたのか、それを如実に表すタイトルだ。

この本は、いわゆるEQ(Emotional Quotient)の大切さを説いている。EQは日本語で「心の知能指数」と呼ばれたりするが、ダニエル・ゴールマンが1995年に出版した「EQ」という本が有名だ。

Marc Brackettは、まず、人間は古代哲学者の時代から、感情を理性や認知の邪魔をするもの、劣ったものと、とらえてきたと述べる。それ故、理性や認知に関する研究ばかり先行し、感情の研究は後回しにされてきた。しかし1990年以降、感情へフォーカスがシフトしてきており、現在、感情は記憶、学習、意思決定、人間関係、健康、想像力、生産性…と、人間の日常生活のありとあらゆる場面の行動に影響を与えているということが研究から分かっている。

いかに感情を蔑ろにしてしまいがちなのか、それを端的に表すエピソードが前書きに語られている。彼が、EQ普及トレーニングを教育関係者に提供していた時のこと。その研修に乗り気でなかった男性校長が、トレーニングの最後に彼にこう言う。

"I realize now that I didn't know what I didn't know. The language of feelings was foreign to me. (中略)So,thank you for giving me the permission to feel."

自分が何を知らないのか、それすら知らなかったことを今ならわかるよ。感情を表す表現なんて自分にとっては外国語のようで、なんにも分からなかったんだ。だから、僕に、感情を感じてよいんだよと許可してくれて、ありがとう。

(p.4)



この本のエッセンスは、こうだ。
Be an emotion scientist!

私達は常日頃emotion judgeになってしまうことが多い。
これはいい、これはダメ、と、感情に判決を下す裁判官。
そして悪い感情と判断した場合は、
例えば、「嫉妬」を感じてそれを、「悪い」と判断したとしたら、
きっと「ああ、嫉妬している自分はなんてだめな人間だろう」なんて思っていないだろうか。

Marc Brackettは、裁判官でなく、科学者になれ、と言う。

An emotion scientist has the ability to pause even at the most stressful moments and ask: What am I reacting to? We can learn to identify and understand all our feelings,  (以下省略)
感情の科学者は、最もストレスを感じる瞬間でさえも立ち止まって、自問するんだ。「私は何に対して反応しているんだろう。」と。どんな感情でも、それを識別して理解することができるようになるんだ。

(p.50) 

The emotion scientist has a genuine desire to understand and acknowledges that all emotions are information.  Until we understand the causes of emotion, we'll never really be able to help ourselves, our kids, or our colleagues.
感情の科学者は、理解したいという心からの願望を持っているし、全ての感情は情報なのだと認識している。感情の原因を理解して初めて、自分を助けることができる。そして、子どもたちも、同僚もね。

(p. 100)

では、どうすればEmotion Scientistになれるのか?彼はRULERというスキームを開発する。これらのスキルを順番に見につけていけばよいのだ。

  1. R: recognizing (認識する)

  2. U: understanding (理解する)

  3. L: labeling (名前をつける)

  4. E: expressing (表現する)

  5. R: regulating (調節する)

そして、Mood Meter(タイトルにあるカラフルな表)を使い、自分の感情と向き合うトレーニングをする。自分の感情を記録できるアプリもある(日本で使えるかどうかは未確認、失礼)。


Permission to Feelは、様々な研究データだけでなく、さまざまなストーリーが含まれており、それがこの本をとても深みがあり豊かなものにしてくれている。また同時に、感情が豊かであることと、理性的であること、は共存できるものなのだと教えてくれる。

学校でいじめられていた幼いMarc Brackettが希望を見出せたのは、Uncle Marvinというおじさんのおかげだった。おじさんだけは、How are you feeling?と聞いてくれた。そして、自分の話をジャッジせずにただただ、聴いてくれたと。

Brackettの実体験がみずみずしい言葉で語られているからこそ、説得力のある著作になっていると感じた。


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