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「移動」を変革するスタートアップ1

皆様明けましておめでとうございます。(大変遅くなってしまいました…)
2023年もよろしくお願い致します。

前回までは「スタートアップとは」というテーマで概念的な説明が続きましたが、今回は具体的なスタートアップを紹介しつつ、どのようなビジネスを行っているのか、そして世の中にどのような影響を及ぼすのか、背景知識も交えながら解説していこうと思います。

そして今回のテーマは「移動」です。
筆者は前職では鉄道という交通インフラに携わった経験があり、公共交通を含めて、これから移動がどのように進化して行くのかについてよく考えていました。

このような背景から新年一発目、本テーマを取り上げました。

そして本記事では今後移動手段の中で最も変革が起きる可能性が高い「自動車」についてふれたいと思います。

自動車業界を取り巻く環境

自動車は移動手段としても非常に重要ですが、自動車製造に強みを持つ日本にとっては産業の一つとしても重要な意味を持ちます。

移動する際に自動車を使用することには

  • 目的地を柔軟に設定できる

  • 三密を避けて移動することができる

  • ファミリーなどの単位で見ると自動車移動の方が安い

などのメリットがあると思います。

また産業としての自動車はトヨタをはじめとした自動車製造、それを販売するディーラー群、自動車保険、整備工場など、その産業構造は複雑かつ巨大なものです。
日本においては現在自動車の台数が8000万台でありいまだに微増傾向にあります。

そして日本は高度経済成長期以来この自動車産業において世界をリードしてきた存在です。

ところが100年以上の歴史を持つ自動車産業に大きな変革が起きようとしています。
それは電気自動車の普及や自動運転技術の台頭を含んだCASEと呼ばれる業界の変革です。

自動車の変革:CASEとは

CASEとは今後の自動車に求められる標準のようなもので

C : Connected (コネクテッド)
A : Autonomous (自動化)
S : Shared (シェアリング)
E : Electric (電動化)

を意味します。

一つ一つ見ていきましょう。

  • Connected (コネクテッド)

    これは簡単にいうと、自動車がインターネットに繋がっているということです。 
    特徴はカーナビのような付属品のみがインターネットにつながっているわけではなく、自動車本体がインターネットにつながっていることです。
    例を挙げるとテスラの自動車は課金すれば長距離走行モードという航続距離が伸びるモードにアップデートすることができます。
    これはエンジニアがアップデートしに来るのではなく、ネットを通じてアップデート可能です。
    まるでスマホのOSやアプリをアップデートのようですね。
    このようにインターネットにつながっている状態にすることで柔軟なサービスを提供することが可能になります。

  • Autonomous (自動化)

    これは分かりやすいと思いますが、自動運転のことです。AIの発達によって近年急速に発展しています。

  • Shared (シェアリング)

    シェアリングは共有という意味で、自動車を所有するのではなくシェアする形式を言います。
    日本では法律上できませんが、アメリカでは乗り合いタクシーのUberが代表的です。
    日本で見られるのはレンタカーやTimesのパーキングに置いてあるシェアカーなどがそれにあたります。

  • Electric (電動化)

    自動車の変革の中で最もインパクトが大きいのはこの電動化、すなわち電気自動車の登場でしょう。
    近年脱炭素の動きが活発になるとともに、技術がそれにようやく追いつき、電気自動車が商用化しました。
    これまではガソリンを燃料にエンジンで自動車を駆動させていましたが、電気自動車は電池を用いて、モーターによって駆動します。

以上が、CASEの概要になりますがこれが社会にどのような影響を及ばすのかを見ていきましょう。

CASEがもたらす変化

  1. 自動車産業の構造が大きく変化する

    EVはこれまでのエンジン車とは主にその動力を司る部分が大きく異なるため、これまでの自動車を取り巻くバリューチェーンに大きな影響を与えます。例を見てみましょう。

    ■自動車製造卸の収益力の低下
    EVはエンジン車に比べてバッテリー等の原価が高く、これまでの構造では特に自動車製造においては収益が見込めないという見方があります。
    だからこそ、テスラは既存の自動車産業では当たり前のディーラー網はひかず、直販かつオンラインでの販売を重視し、少しでも安い値段で提供できるようなビジネスモデルを採用しています。

    ■業界内のプレイヤーの変化
    EVでは先の説明の通り、リチウムイオンを中心とした大容量バッテリー、インバーター、モーターなど、これまでの自動車には搭載されていなかった構成要素が存在します。
    つまりこれまでエンジンやトランスミッションの製造を行ってきた企業はこの変化の波に柔軟に対応しない限りは新たなプレイヤーに淘汰されてしまいます。
    このように既存では存在していなかったプレイヤーが業界に進出してきたり、逆にこれまでの安定して自動車業界で収益を上げてきた企業が淘汰されてしまうという現象が起こりうるというのが一つの大きな流れになっています。

  2. 社会インフラの変革
    自動車そのものの変化はここまでで説明してきた通りですが、それに合わせて社会インフラの整備も必要です。
    代表的なものは充電インフラです。
    EVはガソリンではなく、充電した電力を使用して駆動するため、これまでガソリンスタンドがその役割を担ってきましたが、今後は充電スタンドが主流になるでしょう。
    充電インフラが必要ということは大元の電力を作り出す電力会社もその構築に乗り出すのは自然な流れであり、ここにも新たな構造の変容が見られるでしょう。
    他にも自動運転が主流になると、道路の構造・標識・看板もAIが読み取るものに適したものにしなければならない可能性もありますし、事故の際の取り扱いや責任の所在などを規定する法の整備も必要になります。

  3. 新たなビジネスの創出
    ここまで述べてきたように業界を取り巻く環境が大きく変化するためにこれまでになかったビジネスが生まれるでしょう。
    これもいくつか例をあげると

    ■自動車製造業の車両シェアリングモデル
    これまで売り切りモデルではなく、車両の保有自体は自動車会社が担い、利用者は必要に応じて一定期間、希望する車両をリースという形で所有することができるというモデルが、主流になるのではないかと論じられています。
    これは自動車製造の収益力が下がる中で適切な価格設定で売り切りモデルよりも高い収益を得ることができるという点と、保守メンテナンスも適切なタイミングで行うことが出来る等のメリットもあります。

    ■廃バッテリーの利活用
    バッテリーはスマホのものと同様で充放電を繰り返すと劣化し、EVの1充電あたりの航続距離は徐々に減っていきます。
    一定以上の劣化が進むとそのバッテリーは廃バッテリーとして再活用されることが考えられます。
    例えば充電スタンド用の廃バッテリーです。劣化しても蓄電池としての役割を果たす廃バッテリーを充電スタンドに移送し、それを電源として充電スタンド化するというビジネスが考えられており既に海外では実用の域に達しています。

    ■Fintech(金融)の導入
    車両がネットワークに接続出来る状態なので車両自体にリーダーを取り付けて、例えばETCもカードはいらなくなるかもしれませんし、ドライブスルーなども車両が特定の場所を通過するだけで支払い完了するようなサービスも可能でしょう。
    個人的な所感ですが自動車製造業はカーシェアリングのパックにこのようなドライブスルーを要する飲食業とのアライアンスも可能かもしれません。例えば支払いシステムのオプションをつければクーポンが付いてくるなどマネタイズの仕方は色々あると思います。

ここまでで見てきたようにEV化は自動車産業のあり方を大きく変えるだけではなく、社会インフラに変革や新たなビジネスの創出などその影響力が非常に大きいことがわかります。

その大きな流れに対応しようと大企業をはじめとした企業群は急速な対応を求められています。

そしてそれはスタートアップにおいても同様です。この巨大な市場のプラットフォーマーになるために、多くのスタートアップがこの市場に乗り出しています。

ここからは
「Mobility Technologies」
「ニーリー」
「TURING」
というスタートアップを紹介しながら、どのようにEV化という大きな流れの創出に貢献しているのかについて説明していこうと思います。

EV化を推進するスタートアップ

Mobility Technologies(MoT)

これを読んでくださっている方々は社名を聞いてもピンと来ないかもしれません。でもそのプロダクトを見れば「知ってる!」と思うはずです。

そうです、タクシー配車アプリの「GO」を運営しているスタートアップです。皆さんも使ったことがあるのではないでしょうか??(めちゃ便利ですよね)

MoTはDeNAとJAPAN Taxiが2020年に事業統合することによって設立されました。
ご存知の通り「Go」はアプリ上でタクシーを予約、場所を指定することでタクシーを探すことなく配車することが可能です。
このアプリは使用者だけではなく、タクシー事業者にもメリットがあリます。

これまで属人的に行われていた「流し」と呼ばれる、タクシーを走らせながら客を探すという行為を、車内にある「Go」専用の端末を用いて、近くのユーザからの配車を受け取ることによって、より効率的にタクシーを稼働させることが出来るというメリットがあります。

ちなみにユーザーとタクシーのマッチングはただ一番距離が近いタクシーとマッチングさせるという単純なものではなく、より迅速で効率的なマッチングを実現するために、全体最適を前提として刻一刻と変わるタクシーの位置や空車・貸走などの状況をトレースしながら、AIなどの技術を使用するなど複雑な論理が必要だそうです。

他にもMoTは「AIドライブチャート」と呼ばれるドラレコのサービスも提供しています。
これはAIドライブチャートが走行中に看板や標識を読み取り、道路の状況を把握、その際の運転者の目線なども記録し、これまでの急加速や急減速等の危険行為そのものだけではなく、危険運転の予兆も記録することが出来るため運送業者などの法人を中心に広がっているサービスです。

そんなMoTですがどのようにEV化に貢献するのでしょうか。
最近こんなプレスリリースがありました。

ここから分かる通りMoTはタクシーのEV化を主導します。
以下抜粋です。

提供内容
リース車両:トヨタ自動車「bZ4X」、日産自動車「リーフ」「アリア」などを2031年まで最大2,500台 (GI基金交付により1車両あたり最大2/3が助成、対象車種は今後拡大予定)

充電器:急速充電器400台と普通充電器2500台(合計で最大2900台)を各営業所へ提供、設置 (GI基金助成金等を活用することにより事業者の実質負担なし)

MoT公式サイトより抜粋

EV化は自家用車だけではなく、当然ですがタクシーのような事業者用の車両に対しても求めらます。
しかしながらタクシー会社は中小企業が多く自社でEVを購入するのは、経営の上で重荷になります。
そこでMoTがリースという形でタクシー会社にEVを提供します。
さらにタクシーの営業所に充電器も設置することにより、タクシー業界のEV化を推進します。

このプロジェクトでは、まずはタクシー車両2500台が対象です。それでもそのCO2の削減量は約3万トンと大きな効果があります。

タクシー業界全体にこのプロジェクトが適用された場合の影響はさらに大きいでしょう。

このようなプロジェクトを推進していることから、EV化が活発化している世の中においてMoTは大きな存在感を示していると言えるでしょう。

ニーリー(Nealle)

ニーリーは月極駐車場の申し込み、契約、決済等をオンラインで完結できるようにしたサービスである「パークダイレクト」を運営するスタートアップです。

皆さん月極駐車場を借りる時ってどうしていましたか?

ネットを調べても出て来ず、現地にある看板などから管理会社の電話番号を知り、連絡をしたというご経験がある方がいるのではないでしょうか?

契約に関しても紙ベース、支払いも銀行振り込みなどオンライン化が遅れている分野でした。

駐車場は住宅に比べて、収益が見込めないため不動産情報サイトなどに掲載するのは割に合いません。
そのためネット検索をしても、その情報は出て来ないことが多いです。

この月極駐車場における課題を解決するのがパークダイレクトです。

実際に見てみると、月極駐車場の情報を駅検索やマップ上から閲覧することができ、予約や空き待ち予約等も可能で、支払いもクレジットカードの使用が可能です。

そんなサービスを提供するニーリーがどのようにEV化に貢献するのかというと

そうです、駐車場への充電器の設置です。

EVを所有し、月極駐車場を借りた場合そのに充電器があれば便利ですよね?
駐車場に充電器があれば常に満充電の状態で、乗車することが可能になるからです。

ニーリーは全国の月極駐車場と密な連携をとることによって、充電インフラ創出の立役者になるようなスタートアップなのです。

TURING

皆さんはTURINGの事業内容を聞くと驚くかもしれません。ぜひ下記のリンクを見てみて下さい。

お分かりになりましたか?
TURINGはEV製造のスタートアップです。

私も初めて知った時は驚きました。
スタートアップはITを中心としたプロダクトが主流であるという印象があったからです。

TURINGはEVしかも完全自動運転EVをソフトレベルだけではなく車両も製造し、生産体制を確立すべく研究開発に力を入れています。

そのミッションも明確で
「we overtake Tesla」
      一テスラを超える
です。

CEO(最高経営責任者)である山本さんは、AIを用いた将棋プログラムPonanzaの開発者です。
このような背景からTURINGはAI技術に強みを持ち以下を、競争優位性として挙げています。

強力なソフトウェア文化
最初のTURINGの優位性はソフトウェア文化が強みになっている車会社という点です。創業者を含め国内最高レベルのソフトウェアエンジニアが集まっています。車作りの文化とソフトウェアの文化を融合させることができれば、日本からもっと良い車を作り出せると確信しています。

ベンチャーファイナンス
次の優位性はベンチャーファイナンスの成功です。投資家から資金を集め急成長するベンチャーファイナンスはアメリカで発明され、近年極めて多数の有力で巨大な企業が生まれました。Teslaもこのうちの一つです。TURINGは創業10ヶ月で10億円調達という非常に良い速度感で成長しています。今後も資金調達を加速させていきます。

エンジニア採用の強さ
最後の優位性はマクロ視点での話です。アメリカと中国で現在何百ものEV・自動運転スタートアップがある一方、日本でこの分野のスタートアップは数えるほどしかありません。しかしこれはTURINGの視点に立てば非常にポジティブです。米中に比べて優秀なエンジニア人材を集中させることが可能です。実際に本社のある千葉県柏では自動運転の実証も行っており、試験走行に使用した車両は購入可能であるとともに、2025年には100台生産体制を確立するという計画です。

TURING公式サイトより引用

もしかしたら2030年台のEV市場を席巻しているのはTeslaではなくTURINGなのかもしれませんね。

まとめ

いかがだったでしょうか。
今回は自動車を取り巻く巨大な変革CASEについてそして、それが社会に与える影響を理解してもらえたかなと思います。
そして今回例に挙げた3社をはじめとしたスタートアップも大きな影響力を持つポテンシャルがあることも知ってもらえたかなと思います。
今回は以上です。

次回は「移動」にまつわるもう一つの重要なワード
MAAS
について考えていこうと思います。

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筆者は何者??
島内 道人(しまうち みちひと)
北海道大学大学院 情報科学研究科 修了
化合物半導体のナノ構造形成に関する研究に従事
→成果論文
学位取得後、インフラ系企業に新卒で入社。大規模システム改良に従事。
その後for Startup, Inc.に入社。スタートアップ支援に尽力しています。

for Startup, Inc.について
for startupsについて 弊社for Startupsは国内有力VCと連携し、有望スタートアップへのヒトの支援(ヒューマンキャピタル)を中心に、CxO・役員クラスのハイレイヤー層を数多く輩出してきました。 また、2017年よりベンチャー投資を始めるなどヒトだけではないハイブリッドキャピタルとして国内の成長産業への支援を行っております。

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