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高齢者施設でのコミュニティガーデン~はじまり編~

1. こういう活動を、うちの施設でもやりたいんです!

高齢者施設のスタッフの方(Mさん)が、コーディネートしていた団地でのコミュニティガーデン活動中に通りかかり、「こういう活動を、うちの高齢者施設でもやりたいんです!」と相談されたのが最初の出会いでした。

小柄で可愛い感じのその女性は、「予算は?」「施設長のご理解は?」の問いに、「今は無いんです。でもやりたい!」と熱い想いを語られました。オープンして間もなくの施設で、彼女は開設準備のスタッフだったそうです。普通は、お話を聞くだけで終わる話なのですが、Mさんは想いの熱さが違いました。結果、コミュニティガーデンが実現し、今も続いているのは一重に彼女の想いのおかげと言っても過言ではありません。

多くの施設では、スタッフが業務に忙殺され、業務外の、それも外の植物のことにまで気を配る余裕がありません。そのため、一人のスタッフが「こうしたい!」と思っていても、「仲間を集められず実現できない」もしくは「ガーデンを作ったとしても続けられない」ということが多いのです。この時は、その上に「施設長の理解も得られていない」ということで、正直実現は難しいだろうと思いながらお話を伺いました。

しかしMさんは、施設内に信頼がおける仲間が何人もいて、Mさんがお願いをすれば協力をしてくれるネットワークを持っておられました。そして施設長にも「きれいにするなら植栽地の一部をいじってもいい」という許可を取り付けました。

そうなると、あと足りないのはお金です。「いいよ」とは言ったけれど「お金は出さない(出せない)」というのが施設のスタンスでしたので、どうしようか?ということになり、「助成金を取るという方法もありますよ」とアドバイスしました。すると、Mさんは「一人暮らしの高齢者が外に出るきっかけをサポートする団体の活動に上限50万円助成します」という助成金を見つけてきました。ここまで熱い想いを感じてしまうと、もうお金があろうが無かろうが協力するしかありません。一緒に申請書の内容を考え、施設の上司に内容をチェックしてもらったうえで申請をし、無事に50万円の助成金を得ることができました。(簡単に書いていますが、これだけでも1話分くらいのお話が書けます。)

さぁ、いよいよ高齢者施設でのコミュニティガーデンづくりのはじまりです!

2. みんなで考えるところから

施設長から「いじってもいいよ」…と言われた土地は、道路沿いの細長い植栽地。建物と道路の境界部分にありました。

見てみると、お世辞にも造園の知識がある設計者が考えたとは言えない植栽内容。こういった施設の開設時には、行政から緑化目標の指導が入るため、その数字を達成するために緑地を設けたけれども、こだわりも何もなかったのだろうなあということは容易に想像できました。

スマイルプラスでは、設計業務もします。設計者として絵を描いてしまうのは簡単でしたが、この場合はちょっと違うなと思いました。まず、この場所には、熱い想いを持っているMさんとそのお仲間のスタッフさんたちがいました。また、近くの公園で受け持っていたガーデン講座を卒業したみなさんが実践の場を求めてもいました。この場所なら人材が確保できそうだと予想し、ここでの私の役割は「デザインそのものもからみんなで考え、つくり、楽しむこと」全体を、コーディネートするのがよいだろうと考えて動き始めました。

自分たちで考えたものが実現していく過程は、誰もがわくわくする時間です。その過程を経ると、関わった人たちの中に「愛着」が生まれます。そんな物語をイメージしました。

SNSで募ったところ、デザイン作業に何人かの方が手をあげてくださり、プランが始まりました。

3. まずはガーデンのコンセプト

ただ「きれいな場所にしましょう」だけを目標とするデザインは、目的が見えづらく、複数人でプランをしているうちに、意見の食い違いが生じ、まとまらなくなってしまうことがあります。そのため、デザインの軸をしっかりとさせるために「コンセプト」を決めるところから始めました。

コンセプトを決めるためには、ガーデンを作る場所が持つ条件を整理するところから始めなければいけません。

デザイン作業に参加したみんなでやりとりをして、以下のような条件を洗い出しました。

条件の1つめは、この高齢者施設が複合タイプであること。サービス付き高齢者住宅とデイサービスとグループホームが1つの施設の中にあります。通いの方もいますが、ここを暮らしの場にしている方も多くおられるということです。またご家族が訪ねてこられることもよくあります。

条件の2つめは、ガーデンの場所が建物の南側に細長く広がる敷地であることで光や温度の条件はとても良さそうであることや、元は畑だった場所なので土もかなり良いということです。

条件の3つめは、日常的に施設のスタッフの方にメンテナンスを頼めるか…ということ。施設にヒアリングしたところ、予想通り、全く無理そう…ということでした。…ということは、必然的にローメンテナンスな植栽を考えないといけないことになります。

これらの条件をみんなで共有したうえで、コンセプトを話し合ったところ、「家族が来た時に、一緒に写真を撮れるガーデン」を目指していこうということになりました。

4. プランづくり

プランづくりは、平面図は用意しましたが、机上では無く、ガーデン予定地で地面に絵を描きながら、そしてそこで起きうる行動や物語をみんなで想像しながら行いました。

椅子を貸してもらい、実際に置いてみて、もしベンチをここに置いたら、どんな風景が生まれるだろうか?とシミュレーションしたり。

なぜかやたらとたくさん植えられていたソヨゴの苗木と低木のツツジが全体の雰囲気を壊しがちだったので、美しい風景が生まれるように配置しなおすにはどうしたらいいのだろう?と、メンバーに樹木になりきってもらって立ってみてもらい、別のメンバーがそこにできる風景を想像したり。

意見と笑いが飛び交うデザイン作業が進み、イラストのような「家族が来た時に、一緒に写真を撮れるガーデン」のデザインが決定しました!このイラストはこの時の参加者の大学生が描いてくれました。目指したい雰囲気がとても伝わってきます。

5. いよいよガーデンづくり

みんなで考えたガーデンプランは、もともとの植栽地の樹木を移植したり、通路を作ったりする内容になっていたので、ガーデンの骨格を整えるための大きめの作業が必要でした。プランづくりに参加してくれた人たちだけで行うには荷が重いと感じたので、この作業についても、広く参加者を募りながら作業を進めては?とMさんに提案したところ、快く応じてくださり、チラシを掲示したり、スタッフへの声がけをしてくださいました。

作業日は大きく2回を設定。高齢者施設の庭を作りたい!という奇特な人たちは現れるのでしょうか??

この続きは次のNOTEで!お楽しみに!


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