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踊らにゃ損を実感した日

先日、100年ぶりくらいにジムの扉を開けた。

小一時間ほど体を動かしたあと、休憩しながら壁に掲出されたスタジオプログラム(ヨガとかボクササイズとか)のスケジュール表を何の気なしに眺めていると、「あなた、この後のレッスン受けるの!?!?!」と、めっちゃめちゃ元気なマダムに話しかけられた。年の頃は私の母親くらいだろうか。鮮やかなピンクのTシャツにブルーのトレーニングパンツを履いている。

元来こういう場で知り合いをつくるのが苦手な私は、普段ならこんな場面は愛想笑いでスルーだ。けれどなぜかこの日は、知らないマダムのペースに乗っかってみたくなった。そのまま話を聞いていると、なんでも週6でこのジムに来て、いろんなクラスのレッスンを受けているという。どうりで体がスリムで、肌も髪も若々しいわけだ。「このあとのクラス、すんごい楽しいわよ!あなたも一緒に受けましょうよ!!!」と力強くおすすめしてくれた。

結果、流されるまま直後のレッスンを受けることにした。ダンスエクササイズのクラスらしい。時間は45分。

ダンスかぁ。やったことないな。

でも、こう言っちゃなんだけど、ここのスタジオプログラムの参加者は年齢層がやや高めだということを横目に見て知っていた。さっきのマダムだってそう。だから、初心者の私でも大丈夫だろうと、少し軽く見てもいた。

レッスンが始まる前にインストラクターさんが簡単な動きのレクチャーをしてくれ、「間違えちゃっても全然大丈夫です!最初は足のステップだけでも真似してみてくださいね!」と笑顔とアドバイスをくれたのも心強かった。「間違えてもいい」という言葉の心理的安全性よ。

しかし蓋を開けるとこの日の初参加者は私だけで、総勢30名くらいのほかの参加者のみなさんは、何度も通っている常連組だった。準備運動からして、軽くステップしたり腰をくねらせたりして、上級者っぽい動きをしている。

まじか。ついていけるか不安だな。

そしていざレッスン開始。スタジオの照明がほの暗くなり、アップテンポな音楽が流れ始める。さきほどのマダムを見やると、最前列のセンターでキレッキレのパッキパキでステップを踏み始めた。

えええええええええ?!??

おそらくクラス最年長なのだろうけれど、誰よりもかっこよく、終始キレッキレのパッキパキで、何より自信たっぷりで楽しそうだ。

いっぽう私は、インストラクターさんの動きを目で追うだけで精一杯。次の動きが予測できないからワンテンポ遅れるし、手と足を同時に動かすことができない。頭と体が連動しない。「ステップだけでも」といわれたステップすら足がもつれ、日頃の運動不足がたたり途中から右膝が爆弾化していた。

ちょ、みなさんこんな動きが自然にできるの?身体が覚えてらなの?

それでも、徐々に動きのパターンがなんとなく掴めてきて、順番も覚えた。手と足を同時に動かすことはいったん諦めて、ステップだけは間違えないことを目標に、最後まで踊り(といえたかは別として)きった。とにかく必死で体を動かしていたから、余計なことを考える隙がなく、終わる頃には後頭部にべったりと張り付いていた嫌な思考も汗と一緒に流れていた。

え、楽しい。気持ちいい。またやりたい。右膝は痛いけど。

来週のレッスンも予約しちゃいました。
マダムにそう告げると、嬉しそうに笑いながらも、「でも無理しないでね、嫌だと続かないから」言ってくれた。私よりも上がっていない息。すご。「習慣が人生を作る」を体現している人だ。

期せずして知らない世界に片足を踏み入れ気分が高揚していた私は、完全にハイになっていて、「なんで踊ってこなかったんだろう」と不思議な後悔の仕方をしていた。

スマホを開けば、有名無名問わず誰かのダンス動画が流れてくる時代。それらを見かけるたびに、「踊らない人生だったな」と思ってた。これだけ体を動かせたら気持ちいいだろうな、とも。

踊るなんとかに見るなんとか。同じなんとか踊らにゃ損そん。

1000年ぶりに扉を開けたジムで、どうやら別の新しい扉も開いてしまったようだ。

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