真っ青なシルクの透けるワンピース袖を通したわたしは風――東京に来て1年間 ふたりの人に恋をして詠んだ短歌23首
いい眺めと君が歩く そうだねと陽が落ち風に恋を託した
あの雲がいいと指さす帰り道君はシャッター押してくれました
オレンジのガーベラの茎へんにゃりとどうしてくれる明日の自分
どうします?今日も雨です 食べかけのポテトチップスがしけていました
淡く咲く花いえぬ間に雨に溶けて消えてしまって小雨ほほ濡らす
おやすみのあとのラインメッセージ 朝の光と雨、濡れたベランダ
まだ見ぬ君のやさしい手ざわりを知りたくて今メッセージを送る
二十二時君のしるしが灯れども声をかける資格はなくて
日曜日二十三時あらがいのブレンドコーヒー ミルクを入れる
会いたいと思うのは君 まだ見ぬ君 ここに居ぬ君 触れられぬ君に
カーテンのやわらかな朝 光 六時 消えぬしるしに静かな祈りを
シトシトと落つる水音窓際にかわいた指でアネモネを生けた
昔馴染んだカーペットの肌触り 思い出すのはあの時と君と
灰色のまるであなたのマグカップ 大きな取手わたしにあわない
喫茶店のドアを磨く人 チリンチリン深夜三時の風鈴の音
首を折り崖を飛び降りたアネモネ殺人事件 命取り止める
カプチーノをシナモンの棒でかき混ぜた 春の別れに穏やかな雨
うつくしきうつむき顔の君をみる どんなことばで泣いてくれるの?
春物の上着のポッケ失せ物のイヤホンの束 あのとき私は
それじゃあね 春一番が駆け抜ける レースカーテン大空を舞う
桜咲く 胸いっぱいにさよならを吸い込みたくて深呼吸した
春の雪 桜に触れて走り出すあなたは肩を震わせていた
真っ青なシルクの透ける
ワンピース
袖を通したわたしは
風
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