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ひとり出版社をつくる⑨「サンクチュアリ出版」

新型コロナウイルスの影響が広がるなか、うちは娘が通う小学校が春休みまで臨時休校となり、3月2日から4月の始業式までどうやって仕事をしていくのか……という問題を抱えております。。

さておき。

先日、出版社設立の準備の一環でサンクチュアリ出版にお電話しました。

サンクチュアリ出版は出版流通機能を持っていない出版社に対して「営業代行」「販促代行」「流通代行」の3つをセットで提供しています。出版社は、この出版サポート業務を利用することで、取次会社に口座を開かなくても全国の書店に書籍を流通できるようになるだけでなく、新刊時の営業から取次対応、企画提案までトータルでサポートを受けられます。

当マガジンのシリーズで、取次の口座貸しをしている星雲社に連絡した一連のやり取りを記事(ひとり出版社をつくる⑥「星雲社」)にしました。その星雲社以外の取引条件も知りたいと思い、今回、サンクチュアリ出版に問い合わせをしたのでした。

対応してくださったのは営業の方です。突然お電話したにもかかわらず、とても丁寧に、そして分かりやすく説明していただきました。書籍の流通は複雑でわからない点も多く、見当違いの質問もたくさんしたに違いないのですが、30分くらいも時間を割いて流通の流れから金額的な面まで詳細に教えてもらいました。本当にありがたいことです。「仕事はやっぱり人だなあ。こういう人と一緒に仕事がしたいなあ」と思いました。

どんな話を伺ったのか、具体的な内容はここでは差し控えます。

が、伺った結論としては、小資本でスタートするようなひとり出版社にとっては、取次会社を介した書籍の流通はやはりリスクが高いということ。(サンクチュアリ出版のサポートは素晴らしく魅力的なのですが……)

そのリスクとは、具体的には財務です。より焦点を絞れば、支払いサイトと回収サイトのズレの期間が大きすぎる点です。自社の持ち出しで本をつくり、取次を介して書店に流通し、お客様に買っていただいた結果の売り上げを取次から回収するまでの期間が長すぎるということです。

これは売上債権の回転率が極端に悪くなることを意味しているわけで、それでも経営を成り立たせるためには潤沢な運転資金が必要になります。

さらに問題があって、取次会社から売掛金を回収するためには次作の新刊を出す必要があるということ。

取次を介した書籍の流通の流れに足を突っ込むということは、イコール、ランニングマシンに乗って走り出すようなものであり、走り出したからには常にお金を先に出しながら本をつくり続けない限り、売掛金を回収できずにランニングマシンから振り落とされるという、なんか恐ろしい世界を垣間見た気がしました。ようするに自転車操業です。

ビジネスで強いのは前受商売といわれます。つまり支払いよりも回収のほうがタイミングが早いということ。そんなビジネスがあるのかというと案外あって、例えばアマゾンはキャッシュ・コンバージョン・サイクルという、商品やサービスを何日で現金化できるかを表す指標がマイナスだそうです。このマイナスの意味するところは、仕入れの支払いより先に回収が完了しているということです。アマゾンが他社の追随を許さないのは、先に回収した莫大なキャッシュを投資に回しているからといわれています。

この前受商売がビジネスで最強とすれば、先にお金が出ていくばかりでその回収は極端に先になる取次経由の出版ビジネスは最弱、という見方もできる。

その最弱の出版業に小資本で挑むことが何を意味するのか……。

繰り返すようにサンクチュアリ出版の出版サポート業務は魅力的で、もちろん料金的な負担は上乗せされるにしても、力を貸してもらいたいなあという思いはあります。でもそれ以前の問題として、取次を経由するしくみ自体が小資本出版社にはなじまないような気がしました。

取次を軸とした日本の出版流通のしくみは賛否がありますが、僕自身は、そのしくみ自体は素晴らしいと思っています。理由のひとつは、小出版社にとってのメリットです。名もなき小さな出版社、営業力のない出版社がつくる本でも、取次会社を介することで全国の書店にそれなりにまんべんなく流通させることができるからです。

取次の歴史は古く、戦前からの雑誌卸ルートと書籍卸ルートが戦時下に統合され、戦後に解体されて整理されたのち、現在の取次のしくみができたそうです(『HAB 本と流通』参考)。以降、書籍の流通のしくみは大きくは変わらず現在まで続いてきたわけで、取次会社が出版文化を支える重要な役割を担ってきたのは紛れもない事実だと思います。

小出版社にとってもメリットの多い書籍流通のしくみですが、出版社を経営しようとする当事者の立場になったとたん、財務という決定的な問題が目の前に立ちはだかってくる。立つ場所によって見晴らしは大きく異なります。

さてどうするか……。

ひとり出版社の立ち上げに向けた準備と情報収集は続くのでした。

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