見出し画像

夏の終わりを詰めた小説「花火が終わる時」

これだけでも読めるように工夫はしたけど、出来れば前から読んで欲しいんだな。

なぜなら、頑張って書いたのが「寄り道」だから。
こっちは手癖で書いたBL
もうほんまに鼻くそを小指で追いながら白目剥いて書いた、企画外のものなんで、お題もなんも関係ない。

充時みつじと別れた後の有時ゆうじとリキのその後の話。
簡単に話すと、彼らは同じプロバスケットチームのチームメイトで大学の先輩と後輩。
盆休みにちょっと「寄り道」をした後の暇を持て余したお兄さん達の戯れです。

あらすじ

実際のBLとはこういう作品で、物語に教訓や生き様などを求めず、ただ人生の輝いた瞬間だけを切り取って書いたもん。
名台詞は口説き文句。
「次は法廷で会おう!」より「俺のものになれ!」それなんです。

良く言って刹那的!
悪く言って駄文!
お盆休みの最終日、家でのんびり頭を使わず、ぼんやり読んでね。



花火が終わる時


盆休み、花火と聞いて、何を連想するだろうか?
家族サービス、帰省、渋滞、デート・・・大体こんなところかな。
俺の後輩のリキは少し異なっているようだけど。


一日遊び疲れてホテルに戻ると、カウンター係が「ちょうど部屋から花火大会見えますよ」と教えてくれた。
それならば、と急いで部屋に戻って2人で窓側のベットに座ってビールをあける。
少し離れた河原で開催されているらしく、防音加工の壁越しにも籠った音がボンボンと聞こえ、窓枠がちょうど縁になる。
まるで大型テレビで鑑賞しているようだな。
エアコンが効いて、混雑する帰宅の心配もない環境は有難いが、ここに現地の風情はない。
かと言って、一度きりの風情を求めて人混みに戻る気力もなく、俺は上唇の窪みに乗ったビールの泡を舐めた。

「俺、盆休みのデート苦手なんですよ」
つまみに開けたナッツを拠りながらリキがポツッとこぼした。
「デートが?どうして?」
「俺の父ちゃん、高校の時に死んだじゃないですか。でも、盆って死んだ人帰ってくるじゃないですか」
「まぁ、そういう時だもんな」
「帰省中の父ちゃんの視線が気になって、エッチできない」
吹き出し笑いで鼻からビールが出た。
咽せてるのか、笑っているのか自分でも分からない俺を見て、リキはむぅっと下唇を突き出して腕を組む。
「それはその、物理的に視線を感じるの?」
「概念です!父ちゃんの視線の概念にもう12年間、悩まされてんです!」
「フハッ!考えたことなかった」
もう無理!とベットに突っ伏す俺の足を「笑い過ぎ!」とリキは蹴飛ばしてビールを一気にあおった。
「よく“故人はいつも家族を見守っている“と言うけど、それは大丈夫なの?」
「それは、もう、すいませんけど、仕方ないと思って夜を営みますけども。でもなんか、あるじゃないですか!あの〜葬儀の夜に未亡人が仏壇の前で〜系のAV!あれとかすっごい萎えるんですよ!」
「ハハハハ!」
「マジで笑い過ぎ!」
完全にツボに入った。
逆流したビールで鼻の奥が沁み、笑い過ぎもあいまって涙が滲む。
枕元のティッシュに手を伸ばすが、体を支える左手がシーツで滑ってまた突っ伏す。
「あ!ハートの花火!・・・ってもう有時さん!」
呆れたリキに思い切り尻を叩かれベットが軋むと、それすら面白くなって。
履いたままのサンダルをそのまま脱ぎ落として文字通り腹を抱えて笑った。
ふうふうと、息が出来るようになった頃にはベットメイクされていた上布団のシーツが剥がれ、酒と笑いで熱くなった体にシーツの冷たい部分が気持ちいい。
こっちはリキのベットだった。
チラリと見上げた視線にリキはビールを飲む手を止めた。
「なぁ、さっきの話だけど」
うつ伏せになって乱れた髪を手櫛で撫で付け、付いた肘に顎を乗せる。
「迎火に手紙を添えて、デートに合わせて墓参りを奥にずらすのはどう?」
「手紙に「エッチしたいから今年はゆっくり帰ってきて」って?」
「うん。ご先祖全員周知になるけど」
「新手の羞恥プレイ?」
「ふふふ・・・!」
また笑う俺に拗ねたような仕草で膝を抱えたので、さすがにそろそろ申し訳ない、と隣に座り直した。
「1年のうちの数日じゃないか、我慢なさいよ」
「でも、今!って時あるじゃないですか?相手にも失礼かな、って」
「そんなリキを笑って、側にいてくれる人が本当の人だよ?」
パチっと指を鳴らしてその指で俺をさす。
「それ!やっぱ年上ですよね!」
「いいかもね?リキは周りを気遣いすぎるから、それをカバー出来る器量の人がいい」
「そうなんすよ、焼いたお節介を燃料に生きてんですよ俺!自給自足で低燃費、お買い得ですよ!」
「迎火は13日?あと2日あるな」
「エッチするなら今ですね」

2人同時にビールを飲む。

ゴクっ、とリキの喉が鳴って喉仏が上下する。
廊下で子供が「もぉぉ、ハナビおわる!パパはやくぅ〜!」と声が響き、文句と地団駄交じりの足音がわざとらしく通りすぎ、遅れて父親らしき控えめな足音が続く。
背徳感のような、罪悪感のような。
少しリキの言葉の意味を理解する。
静かになってもしばらくビールの缶を口につけたまま聞き耳を立てていた。
「なぁ」
「はい」
「電気、消さない?」
俺の提案にゆっくり視線が泳ぐ。
「ぅへ?」
「その方がよく見えるだろ?」
花火、と外を指さすと、リキは少し遅れてコントみたいに拳で手のひらをポンっと叩いた。
「それな!消しましょう!」
ツインのベットの間にあるスイッチに手を伸ばしてベットに乗る。
「・・・てか、すいませんけど有時さんのがスイッチ近いし!」
柔らかめのマットが沈んで体が傾き、ビールをこぼしかけて慌てて体を捩る。
「立ってベットまわれよ」
「有時さんが消せばいいのに!」
わぁわぁ騒いでいると部屋が真っ暗になった。
目がシパシパして、ぎゅっと目を閉じゆっくり開けると、エアコンの電源の緑の光りと白い壁がぼんやり浮き上がる。
窓の外は花火も止み間か外もほの暗く、耳を澄ますと音楽が聞こえ、道路を挟んだ斜め向かいのマンションのベランダで男女がキスをかわした。
わお、エモーショナル。
じゃなくて。
「ベットサイドだけ点けて」
「文句!人動かしといて文句!てか、ホテルの電気ややこしくないですか?」
暗闇に浮かぶ白いスイッチをリキが出鱈目に切り替え、あっちこっち点いたり消えたり。
「エアコン切ったりするよな」
言った途端にすんっとエアコンが止まり、目を合わせ笑う。
そしてパッと窓から顔が照らされ同時に外を見た。
クライマックスが近いのか、連打する花火の白い光が弾けてこぼれ、パラパラパラと雨が傘を叩くような音がする。

「花火が終わる時」

声の方に視線をやると、半開きのリキの口から八重歯が白く光った。
「エッチしたくなんないですか?」
おっとり垂れた目に大輪の花火が広がり写る。こちらを見る気配がして俺は花火に視線を戻す。
「お父さんに言いつけますよ」
ドドンッと一際大きな最後の一発。
「やべ、父ちゃん怒ってる?!」

花火が終わる時。
俺は始まったばかりの休みが、夏と一緒に過ぎ去ってしまう気がする。

最後の花火が打ち終わり、ベランダの男女がもつれ合うように中に消え、カーテンがサッと閉じられた。
リキの言葉は正解だったな、と緩くなったビールを飲み干した。

先にシャワーを浴びて、しわしわにしてしまった窓際のベットに潜り込む。
シーツの冷たい部分に全身を預けて目を閉じ、しばらくうつ伏せたり、横になったり冷たい部分を求めて動いていると、早々にリキが浴室から戻った。
「ちょっと!すいませんけどそっち俺のベットだし!」
「空いてる所で眠りなさい」
「そんな、置かれた場所で咲きなさい、みたいに言われても。俺、窓側じゃないと寝れないし〜」
無理やり体を押し込まれ、俺の冷たい領土が奪われる。
反抗心でうっすら目を開けると、まだ髪も濡れたままのリキの顔がすぐ側にあった。
いつもと違うシャンプーで少し軋んだ俺の髪と同じにおいがする。
でも、濡れているせいか、リキの方が濃厚に鼻の奥までかおる気がする。
「久しぶりですね、こうゆうの」
ビールのにおいが混ざった呼気が俺の前髪を揺らし頬骨をくすぐった。
「ゆ、」
「お父さんに通報します」
「もう!教えるんじゃなかった!」
ちぇっ!と唇を尖らせて、肩にかかったタオルで髪を拭きながらリキが立ち上がると、マットレスが解放されたように揺れた。


いつの間にか眠っていたようだ。
起き上がると掛け布団がずり落ち、壁側のベットでリキが大の字でぐうぐうと寝息を立てていた。
はて?体の下にもう一枚掛け布団?
どうやら掛け布団の上で寝てしまった俺に、リキが自分のものをかけてくれたようだ。トイレに立った後、背中を掻きながらスウェットに手を突っ込んで寝るリキを見下ろす。
「壁側でも問題無さそうだが」
波打ち際でも寝そうだな、と半分に畳んで掛け布団を腹にかけてやった。
同じ部屋を使っていた頃は、弟にもよくかけてやった、まぁすぐ跳ね返されたけど。
案の定、リキも直ぐに右足を出して、のしっと掛け布団を挟んで寝返りを打ち抱き込む。
なんとなく腹がたって、スウェットのウエストの紐をぎゅーっと引っ張り、ギチギチに結んでやった。


翌日はのんびりと観光とトレーニング施設で汗を流し、13日の昼前に実家に戻った。
ちゃっかり寄り道したリキは、母の手料理を堪能し、父とバス釣りの話で盛り上がり、今は二つに折った座布団を枕にしてリビングの床で昼寝をしている。
母が言うには高校の時からリキはこんな感じだったそうで、早くに家を離れた俺の知らないリキのいる我が家という、不思議な空間に今いる。
うちの家族より家族で、弟よりも弟かもしれない。

そんな事より。

「何処でも寝れるじゃないか、ばか」
ついに昨夜、ベットに押し入られた事を思い出す。
侵入を許した自分も共犯か。
「リキちゃんとお兄ちゃんがいたら、エアコンが頑張り過ぎて寒いわ」
ソファでスマホを触る俺の後ろを通り過ぎ、母は嬉しそうにエアコンの温度をあげて、サーキュレーターを回した。
「充時も揃うとエアコン壊れるな」
俺の呟きに母はリモコンを持ったままサッと隣に座る。
「みつと話せた?」
「え?あぁ」
「リキちゃん、あんた達の仲直りのために色々してくれたのよ?」
言われてみれば。
「寄り道」の声をかけてくれたのは6月で、そこから色々と不器用ながら画策し、サプライズまでしてくれたのに、当たり前のように受け取るばかりだった。
兄貴面だけ一丁前で、俺の方がすっかり甘やかされていた事に気がつく。
もう少し要求を聞いてやればと、濃ゆいシャンプーのにおいが鼻を過ぎる、が。

これとソレとは別の話か。

夕方に迎火を焚いて、母が墓参りに出ている間に庭の木に水をやっていると、のそのそとリキが起きてきた。
「俺、二日連続で寝ぼけてスウェットの紐ガチガチに結んでて、トイレやばかったんすけど、なおってた」
「良かったな」
その犯人は俺だ。
「ママさんは?」
「墓に迎えにあがっているよ」
「そろそろ俺も帰んなきゃ妹に怒られる!」
「お父さん待ち侘びてるぞ?」
思い出し笑いを噛み殺していると、いつの間にか帰宅した父が廊下のサッシを開けて声をかけた。
「リキ、葡萄ぶどういるかい?」
「パパさん大好き!いただきます!」
「有時、百日紅さるすべりにもしっかり水をあげてくれよ」
「百日紅?」
「お前達が立っている所の花だ」
そう言って父は奥に消え、俺達はからからの木を見上げる。
優しさと同じで、近くにありすぎると気が付かないものだな。
百日紅の背丈はリキより大きく、濃ゆいピンクの花が固まり枝先を重そうに弛ませている。
小さな花弁がフリルのように波打って愛らしい。
だが、時期を過ぎると花弁の色は抜けるのか、足元に落ちた花びらは白かった。
リキはつるりと艶のある木の肌を撫で「猿が登れないからサルスベリ?」と首を傾げ、頭にかかった花を振るう。

「はぁ、あと数時間で父ちゃん強化日かぁ」
「たかが数日だろ」
「有時さんは知らないから言えるんすよ!」
木からずれて根元に水をかける。
奥からスーパーの袋を持ってきた父が、仏間で葡萄を選びながら声をあげた。
「リキ、お母さんはいるのか?」
「今年も妹と2人です!」
少しふざけてホースを上向けると、木に当った水がパラパラと降り、百日紅の花びらも一緒に花火のようにばらばらと落ちてきた。
ひゃっと声をあげて肩をすくめたリキに目を細めると、つられるように八重歯を見せて徐に仏間に背を向けた。
「今がチャンス」
父から俺を隠す。
熱に浮かされたリキの瞳がすっと瞼に隠れて、俺の唇に、息がかかる。
互いの息遣いに目を閉じかけた時

お父さんにも供えるんだよ!

不意に聞こえた父の声で、体がボワっと熱くなった。

「父ちゃんの視線、気になった?」

まだ父不在の不適なリキの声が重なって、不覚の俺の心臓が中から肋骨を叩いてる。
するりと手からホースが奪われ、俺は濡れた手でTシャツの胸をギュッと握った。

花火が終わる時。

風情よりも情熱が勝ることを、これから何度も思い出すだろう。


細かすぎて伝わらない設定

有時のお父さんが買ってきた葡萄は「デラウェア」です。
最初は桃にしたけど、今年は桃が不作で日持ちも悪いので葡萄にし、シャインマスカットは流石のリキも気を使うので、箱買い出来て分けやすいデラウェア。

リキの「父ちゃん」は殉職した消防士で、その話は次のお題企画で書いてます。

有時とリキは一度だけ関係があるが、先に進まないのは互いのキャリアの為と、このもどかしい鬩ぎ合いを楽しんでます。
団体競技だし、集団生活に近いので色々あるんよね〜


なんのはなしですか?

初めて読んだ人や、読み慣れない人はそう思うかもしれないけど、理由や大きな山を持たない、刺激の少ない読み物をだらっと読む時間は大切。

私の理想はそういう、優しくて読みながらのんびり寝るような、時にププっと笑うような、そんな話をnoteにも増やすことです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?