BL作家やろうぜ!〜3つのお題小説 〜第1弾「寄り道」
見出し画像にいつも悩むんやけど、秀逸なのがあってめっちゃ安心した。
ソエジマケイタ様、いつもお世話になっています。
私は元〜ですが、企画の発案者、現役続行中の楓莉さんの小説、めっちゃ気になる👀
好きに対して常にクラウチングスタート!全力疾走するのがオタクって奴だ!
こちら楓莉さんの作品👀
以下は私のです、しっかりと水分補給をして、涼しいところで読んでください。
暑苦しいです↓
寄り道
「有時さん、俺と寄り道しませんか?」
トレーニングメニューを終えたリキが、体育館に残ってシューティングをしている俺に声をかけた。
「寄り道?今日?」
「いや、盆の帰省ついでに寄り道。ん?道草?」
リリースしたボールの放物線を追う。
シュパっと音を立ててネットが揺れ、ボールはワンバンでリキの手に収まり俺に返された。
今シーズンから移籍してきたリキは、高校バスケ部の弟のチームメイトだった。
初対面が実家だったのもあり、帰省するとやたらいる「弟の友達」の感覚がまだ抜けない。
「寄り道が正しいな」
手を止めてビブスの裾で顔の汗を拭う。
「新幹線とかは俺がアレしますんで!」
「こんな寄り道の誘われ方初めてだ」
「お初っすか?すいません、恐縮です!」
「前から気になっていたけど、リキは直ぐ謝るな?」
「すいません!有時さんに憧れ過ぎて枕詞になってます」
アシストしていたコーチが「もう兄弟みたいに見えるけどね」と言うと、リキはハハっと口だけで笑った。
リキは全て知っている。
「バスケ選手になって兄ちゃんとビックリマンシールになる!」
と豪語して俺の背を追っていた弟は、一言の相談も無く突然に進路を変えた。
恥ずかしながら、どこで道を違えたか俺は分からない。
弟の充時とリキは、高校でU-18日本代表に選出され、大学ではインカレで優勝に2回も導くバスケ好きなら誰でも知っているコンビ。
誰もがプロ入りを疑わなかった。
だが、鳴物入りでプロになったのはリキだけで、弟は一般企業に就職を決めてコートを去り、それを境に俺を避けた。
何か理由があるはずだが、無理に追うのは憚られ。
自然に話せる様にと、盆と正月の帰省は墓参り以外の予定を入れないで機会を伺っていた。
でも、いつも弟はいない。
「行こうかな、寄り道」
「決まりっすね!」
連休前に帰省する予定をずらし、先に「寄り道」を決行する事になった。
最後の練習を終え、早めの帰省で混み合うホームで新幹線を待つ間に母に電話し「迎火に間に合うよう、13日に帰る」と伝えた。
「今年は充時、帰るの?」
「盆明けに墓参りだけ来るみたいね」
「そう、か」
俺が肩を落とすと、隣にいたリキがスマホを突然奪う。
「ママ〜さん、ご無沙汰してます!」
「あら!もしかしてリキちゃん!」
漏れ聞こえる嬉しそうな母の声に俺が笑うのを見て、リキは目元のシワを深くする。
「13日俺も行っていい?パパさんいる?ママさんの唐揚げ食いたいな!」
通話を終えると新幹線がちょうど到着した。
車内は家族連れが多く、窓側の座席をとり合って怒られる幼い兄弟をぼんやり見ながら、ふと不安に駆られる。
家族に優しいのは嬉しいが、リキの距離は近すぎやしないだろうか?
本当はリキが充時を切り離して、弟に成り替わろうとしているのでは・・・
「有時さん!すいません、現金って持ってます?」
ポンポンっと太腿を叩かれ我に帰る。
「少しならある」
「明日が、500円と100円欲しいって」
「明日が?何の連絡だよ?」
「充時があし・・・あ、や、」
突然の弟の名前に俺は慌てて言葉を拾い集める。
「明日の寄り道に現金が必要でそこに充時も関わっているのか?」
思わずキツくなった口調にリキはしゅん、と眉根を下げた。
「すいません」
「いやこっちもすまない、大きな声で」
「へへ、フォーメーションミスでドッキリ失敗しました」
「リキの単独ミスだし、これはサプライズだろう。ある意味でドッキリは成功だけど」
そんな器用な男じゃないな。
⭐︎
ホテルで一泊し、早朝の満員の電車に揺られ、晩夏の蝉にけたたましく鳴かれながら一駅歩く。
トライアスロンみたいに辿り着いた場所は芋洗い状態の大型イベント会場だった。
一駅歩いたのも混雑を避けるためかと納得していると、人混みの中で頭一つ出た男がこちらに手を振った。
充時だ。
人を掻き分け近ずくリキの後ろから、俺はもう逃げられないように慎重に近づいた。
「充時、おはよう」
「お、お@%$」
弟の緊張感で肌がビリビリする、もう少しそっとしておこう。
見覚えのある大きな建物の前で列に並びながら、まだ自体が把握出来ず視線を泳がす俺の肩をリキが叩く。
「コミケ、って知ってます?」
「ニュースで見た事がある」
「ここがそれですよ」
「!初めて来た」
俺達のやりとりを聞いて慌てて弟が会話に混ざる。
「だ、だよね〜!最近はハリウッドスターも来るし、カメラ入る事あるから気をつけて」
キャップを深く被り直し、あらためて周りを見渡す俺に弟は顔を寄せて声を絞った。
「ど、同人誌って知ってる?」
「自費出版した書物だろう?」
「そ、そう!それの即売会!特にここは選ばれし人が集う・・・例えるとオールスターゲームだよ!」
「おぉ、なるほど!コンテストもあるのか?」
「それは無いけど、コスプレのスペースはある意味でコンテストかな」
後ろのリキも「へぇ」と関心している。
自分もよく分かっていない所に寄り道をサプライズする大胆さに2つの意味で感心した。
弟が受付を済ませ、関係者パスを受け取り首から下げる。
「兄貴達はボランティアの売り子って事になってる。チームにバレるとマズいから、顔は隠して」
「分かった」
「俺はやばいと思ったら変顔でのりきるから大丈夫!」
と、リキは顎をグッと前に出してふざけるが、それで済むなら警察は要らない。
弟は自分のキャップをリキに被せ、俺は予備のマスクを探す。
「いつも気遣いありがとう。だが、軽はずみな事をすると通報され退団になる。リキには自分の沽券とチームのゴール下をこれからも守ってほしい」
「すいませんした」
しゅんと顔を下げたところにすかさずマスクをつけた。
「やっぱ紙媒体は必須ですよね!サークルカットと一緒にチェックした日から新刊も全裸待機してました!」
皆さんのアドレナリンが、凄い。
会場内は、手作りの本の蚤の市と言ったところだろうか。
しかも作者が手売りして交流出来るので、ファンは気持ちをその場で伝えられ、何というか熱量が凄い。
俺達が任された役割は「会計」ひたすらに計算し、礼を言う事だけに専念し、リキが在庫を確認する。
本の値段は端数の無い綺麗な数字で、計算しやすいが偏った釣り銭が必要になり、500円と100円の減りが早く前日の言葉を理解した。
「終わりかけに客で来てほしかった」
緊張が解れたのか、弟が接客の合間に愚痴をこぼす。
「男3人でこのキャパ無理」
そうだな。
俺は190㎝、2人は2m超え、会議用テーブル一台分の陣地に俺達は狭すぎる。
しかも隣人問題を起こすと厄介らしく、少しでもはみ出ると「兄貴ライン割ってる」と審判より鋭い注意が飛ぶ。
インカレ優勝に導いたキャプテンを務めただけある、さすがだ弟よ。
「朝イチで売り子に店番頼んで新刊並びたかったのに」
ぶつぶつ言いながらも対応は怠らないし
「行けよ?俺達見てるし」
「それが無理。兄貴、ライン割ってる」
チェックも怠らず、スッと足を引いた俺に項垂れ
「でもさ、学祭みたいで懐かしいな!」
呑気なリキの笑顔に弟は溜息すら諦めた。
諦めること、それも、大切。
怒涛の午前中を終え、昼過ぎには一部を除いて客がまばらになった隙に、リキが遅い昼飯の調達に出てくれた。
2人でパイプ椅子に腰をかけ、会話の機会がうまれたが。
「・・・」
もう5分、真っ直ぐ前だけ見ている。
会話の糸口を探し、俺は目の前に並んでいる本を手に取った。
「これが充時の作品か?」
ノートくらいの薄さの本は、ツルッとした光沢のある表紙のものと、少し簡素で冊子みたいなものがあり、見る限りどこも似た様な品揃えだ。
ページをめくろうとすると「中はだめ!」とすごい速さでスティールされ、紙で指先が切れた。
なんでもない小さな傷だが、弟は慌てて俺の指の付け根を掴んで片手で鞄の中を探る。
「ごめん、怒ってる?」
「まさか。大した傷じゃない」
「それもだけど、その。俺が、何にも言わなかった事」
「・・・」
騒ついた黄色い声が響く会場内で、やはり俺達だけが静かだった。
「話す準備は出来たか?」
弟はギシッと椅子を軋ませて膝を閉じて座り直す。
話を聞く際、必ず相手の目を見るが、今はそうしない方が良いと判断して赤い線がスッと入った指先を見た。
血が出てないのを確認した弟は鞄から筆箱をだし、ペンライトみたいなイラストが入った水色のマスキングテープを見つけて、絆創膏代わりに応急処置で指に巻いていく。
「大学の先輩が、教員採用試験に落ちたんだ」
チラッと顔を見たので、相槌する。
「子供の頃から教師になりたかったって聞いてて、なんて声かけようかすごい悩んだ」
「非常勤で働きながら、また受ける選択もあるよな?」
「それ、俺も全く同じ事考えてた」
フッと鼻息が指先に当たった。
「だけど先輩「この仕事もやりたかったんだ」って、コンサルタント会社の営業職に就いたんだ、むしろラッキーくらいのノリで」
処置が済んでも握ったままの手が、ずっと冷たい。
前を少し通り過ぎ、俺達を二度見して立ち止まった女性の2人組が「このシチュ尊い」と座り込んだ意味も分からない。
「小学校の時さ、抜け道見つけたの覚えてる?通学路から外れた路地」
「え?あぁ」
「“こんな道もあったんだ“って俺、びっくりしてさ。先輩の行動は、あの時の気持ちに似てた」
弟からふうっと長いため息が出た。
「バスケばっかで、それでもいいと思っていたのにな」
俺もつられて、ふうっと吐いた。
「就活組は色んな会社を回ってて選択肢がある。でも俺は兄貴の背中をずっと追いかけてて他を見てなかった。
気づいたらバスケ以外の道を探したくなってて、もう無理だった」
自嘲気味に笑う弟のまつ毛が震えて、止まったままの唇が俺の返事を待っている。
バカだな、でも成る程な。
言い難いよな?でもまずは、
「ありがとう。チームやあちこち色々言われたろう?」
そう言うと弟の手に体温が戻った。
「そんなの引退してからでも良いだろ!って松永監督怖かった」
緩んだ頬を見て見て安心した。
隣に座ってくれただけで、俺はもうどうでも良かったのかもしれない。
「勇気のいる選択だったよな。でも、一言ほしかった。
だって、寂しいじゃないか」
「ごめん。兄貴もかなり周りに言われたよな」
「なんてない、済んだ事だ」
弟の顔にみるみる懐かしい幼さが戻っていく。
「本当、困るんだよなぁ兄貴は!思いっ切り喧嘩出来たら意地が張れるのに、なんでも受け入れるからつい見栄を張っちゃう。大変だった、ここまで来るの」
「うん、よく頑張った」
「・・・兄貴、俺達さ」
弟はスッと手を離し、椅子を倒さん勢いで立ち上がった。
「すっごい見られてる!」
仲直りを生暖かい視線で見守られた俺達のコミケは幕を閉じた。
⭐︎
帰り道、弟はスマホの裏に入れたカードを見せてくれた。
それは春に発売されたBリーグウエハースの選手カードで、リキがプッと吹き出す。
「ちょ、有時さんじゃん!」
「神引きした。うそ!リトル選手家に5枚ある」
「リトル5枚を合成したらエンヴィになるぜ」
「ならんわ!てか、チームメイトを合成素材扱いすな」
待受画面は見たことのない水色の髪のキャラクターで、指のマスキングテープの柄と同じペンライトを持っていた。
センシティブな事かもしれない、そっと裏返しで返した。
「俺を避けてたんでなく、コミケに参加する為にいなかったのか?」
「実は。盆と正月だし、抽選外れても委託販売とか色々と。
いつも待っててくれたんだよね」
ごめん、と下げた弟の後頭部を撫でると、リキが突然足を止めた。
「俺もお兄ちゃん欲しくなった」
はぁ?と俺達も振り返る。
「サイン入りレアの川村のカード持ってる?」
「ない、欲しい」
「よし!有時さんとトレードしようぜ!」
「兄貴と川村選手のカードを?」
弟はう〜ん、と首を捻って腕を組んで悩む。
弟よ。
俺は250円のお菓子のおまけと悩まれる程度の兄なのか。
立派なビックリマンシールになるから刮目していなさいよ。
おまけの続編「兄が兄である理由」
弟が、俺達の宿泊するホテルの近くで用があると言ってついて来た。
近くで祭りがあるのか、コミケ程でもないが人が多く、浴衣の人と何度かすれ違う。
「てか何でうちの兄貴なの?」
2人はまだ俺のトレードの話でもめていた。
「兄貴なんてそこらにウロウロしてるだろ?」
そんな、兄を公園の鳩のように言わないでくれ充時。
確かに、世界規模で見れば大体が誰かの兄だが。
「全然違う!例えばほら・・・」
リキは隣を歩く俺を上から下までじっくりと見た。
目が合ったので笑いかけると「へへっ」と後頭部を掻きつつ照れ笑いで目を細める。
「ほら、なんか・・・ほら、いいじゃん」
だが俺を兄にする理由は特になく、今一番近くに居た兄貴だから選出されただけかもしれない。
素直に悲しい。
「そもそもな?充時だってお兄ちゃん選んで弟になった訳じゃないじゃん?」
「まぁ、そもそもで無く、たまたまだけど」
「そもそもな・・・そもそもって何?」
2人が同時に俺を見る。
もうホテルの前に着いたし、悲しい俺はシャワーを浴びながら1人になりたい。
「最初って意味だ。接続詞として事項を説き起こす時の前置きに使う事もある」
「ほら便利じゃん」
「兄貴をYahoo!知恵袋みたいに言うなよ」
充時、お前は公園の鳩のように言ったがな。
「いいじゃん好きなんだもん」
「軽いんだよ理由が」
そもそも俺がどっちかの兄だったら何かが変わる訳でもない。
恐ろしくどうでもいい。
このどうでもいい論争を終わらせて俺はシャワーを浴びてビール飲みたい。
「折衷案だ。今から実家に帰るまで、俺はリキの兄になる」
2人はぴたりと論争を止め俺を見た。
「マジっすか!やった!」
「て事は、今から兄貴じゃなくて、有・・・時、さん」
「なんだ?」
返事をして顔を見ると、充時は真っ赤になって手と頭をすごい速さで横に振った。
「いや無理だわ、無理無理!俺、職場でも兄貴の事名前で呼んだ事ない。いつも背番号とチーム名だし」
「俺はお前にとって名前を呼んではいけないあの人なのか?」
真っ赤な充時を押し退け、リキが意気揚々と前に出て咳払いをする。
「俺は余裕!お兄ちゃん!」
「うん」
「すいませんけど、ここは「なんだ?」でしょ!?」
「てか、リキ兄貴いるじゃん?」
「チッ・・・バレちゃしょうがない!そうさ、俺は兄貴の弟さ!」
「うん」
「すいませんけど、もうちょい頑張って、お兄ちゃん!」
まだやれるぜ!って猛者に捧ぐ続きの本気BL
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