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芸術の秋におすすめの本「千住家にストラディヴァリウスが来た日」

読書の秋ということで、私が折に触れて読み返す本をご紹介したいと思います。
それは、「千住家にストラディヴァリウスが来た日」という本です。

巨匠ストラディヴァリによって製作された幻のヴァイオリン、デュランティが売りに出された。幸運にも試奏を許されたヴァイオリニスト、千住真理子は、この名器に運命的なものを感じる。どうしても手に入れたい。だがその値段は億単位。途方にくれる真理子と母の背中を押したのは、画家と作曲家である二人の兄だった――。芸術家兄妹を育て上げた母親による、家族の愛と奮闘の記録。

この本は、ヴァイオリニスト千住真理子さんの母親である千住文子さんの著作。千住真理子さんといえば、日本画家の千住博氏と作曲家の千住明氏の2人を兄にもつ、「千住三兄妹」の末っ子としても知られています。そういったジャンルの違うアーティストである子供たちをどのように育てたのかという世間の関心から、千住文子さんは数冊の書籍を出版されています(でもどうやら上記の本は廃番になっているようで、上のリンク先も中古本の販売ページになります)。

私がこの本のどんな部分を好きなのか、順番にお話しますね。

自分とは違う道を行く子供を見守る

この著者は専業主婦で、亡くなった配偶者は慶応大学で教鞭をとる大学教授でした。けれど子供たちは三人とも、親とは全く違う芸術に従事する生き方を選ぶのです。子育て系のエッセンスは、この書籍ではない千住さんの他の書籍のほうが強いですが、この本にも「自分独自の道を行く子供たちにどう接するべきか」という戸惑いが綴られています。

「よく考えてごらん。あの子は、これから、道なき道を一人で歩くんだよ。我が家にとっては、パイオニアなんだよ。(中略)芸術の道が、そんなにたやすいものだとは、僕にだって思えない。我が家にとって、いままで誰も経験したことのない道なんだ」

「僕たちが死んだら、いったい、彼らは誰に助けてもらうんだい。その時、満足に歩けなかったら、その方が、よっぽどかわいそうじゃないのか。心配じゃないのか。」

上の言葉は、千住真理子さんたちのお父様(千住文子さんの夫)の言葉です。

私の子どもはまだ12歳ですが、このオランダの土地で育つという、母親である私とも父親である夫とも違う人生を歩みつつあります。我が家のパイオニアとして歩む娘を見守る気持ちが、千住家の両親の気持ちとリンクします

けれどよく考えてみると、現代ではどこのご家庭でも子供はパイオニアですよね。パソコンやスマホが各家庭に(ほとんど)無かった子供時代を過ごした親世代と、デジタルネイティブ世代では全く違う育ち方をしています。そして10年後、どのようなテクノロジーが発達してるかなんて、誰にも正確に分かりません。コロナ禍のせいで、学び方もどのように変わるのか予測不可能です。そんな道なき道を行く子供たちを見守る私たちの想いは、千住家のご両親の気持ちとそう変わらないと思うのです。

人生には、説明不可能な奇跡が起こる

この本のメインは、千住真理子さんが幻のヴァイオリン、ストラディヴァリウス作の「デュランティ」を手にするストーリーです。
約300年前にストラディヴァリウスによって作られた後、ほとんど誰にも弾かれることなくスイスの貴族の邸宅で何世紀も眠っていたヴァイオリンの「デュランティ」。持ち主のスイス貴族が亡くなったことで世に出ることになったのですが、その貴族の「純粋な演奏者に渡って、現役の楽器として音楽を奏で続けること」という遺言があったのです。
そこから5名の「持ち主候補者」が手を上げるのですが、不思議な縁と偶然で千住真理子さんもその中に加わっていくのです。

この本を読むと、「セレンディピティ」や「シンクロニシティ」と呼ばれるような不思議なことは本当にあるのだなと思わされます。

千住真理子さんは4番目の候補者で、前の3名は欧州在住者でした。しっかりとしたパトロンもいる演奏者たちだったようで、本来なら千住さんの手に渡る可能性は非常に低かったのです。それでもその都度何らかのアクシデントが起こり、他の候補者とは契約には至らなかったのだとか。
そして千住さんが試し演奏するために日本に持ち込まれてからも、まるでヴァイオリンに意志があるかのように書類不備が発生し、ヴァイオリンの日本滞在が長引くのです。この一連の流れは、本当に鳥肌ものです。

いざ契約を決行してからも、契約から1か月以内に数億円(正確な金額は不記載)の代金をスイスに送金しなくてはいけないという難題が千住家に立ちはだかりました。その資金集めのために一家総出プラス会計士が奔走するのですが、会計士の方がとある「キーパーソン」に出会う場面では、「本当にこんなことあるんだな」という感想をもちました。

人生の奇跡を信じたくなるような、素敵な偶然の連続が綴られていました。
けれどそういう奇跡を呼び起こしたのは、ひとえに千住真理子さんが、常人をはるかに超越した努力家だったからだと思います。そういうヴァイオリニストだったからこそ、ストラディヴァリウスの「デュランティ」に選ばれたんでしょうね。

実は私、千住さんが「デュランティ」を手にしてからのコンサートに行ったことがあるんです。全くの素人の私ですが、千住真理子さんの演奏は素晴らしかったですし、「デュランティ」の音色に心が震えました。

まだまだ大ホールでのコンサートは難しいかもしれませんが、早くそういった芸術を楽しめるようになってほしいと思います。

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