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『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』に行ってきました

東京・六本木にある国立新美術館が開館15周年記念の展示として『李禹煥(Lee Ufan:リ・ウーファン)』展を行なっていたので行ってみました。

元々、私は、瀬戸内国際芸術祭で李禹煥美術館を数回訪れていました。李禹煥美術館は、香川県の直島にある李禹煥と安藤忠雄のコラボレーションによる美術館です。そこで作品を見た時は「(金属板と石を使った作品が多かったので)人工物と自然の対比を表現するアーティストなんだろうな。」という印象でした。

しかし、国立新美術館の『李禹煥』展は李禹煥さんがどういったアーティストなのかが非常にわかりやすく構成されており、これまでの印象を改めて李禹煥さんの作品を解釈し楽しめるようになりました。

李禹煥さんの作品を一言で表すと『関係性』です。李禹煥さんは、グループ『幻触』や関根伸夫さんの影響を受けた『もの派』と呼ばれる作家です。関根伸夫さんの《位相 – 大地》がわかりやすいのですが、以下の写真を見ると人は自然と「あの穴を抜き出してできたのが、あの土の円柱だ。」と関係性を導き出してしまいます。李禹煥さんも、そういった人が勝手に関係性を導き出してしまうことを逆手にとった作品を多く作られています。

画像引用元: 関根伸夫 「位相 – 大地」の再制作

『李禹煥』展のメイキング映像の最初で登場している《現象と知覚B 改題 関係項》は、そんな典型的な作品だと思います。割れたガラス板の上に大きな石がのっている作品なのですが、その作品を見ると人は「のっている石がガラス板に落ちて割れたのだ。」と関係性を導き出してしまいます。しかし、メイキング映像を見てみると、確かに石を落としてガラスを割っているものの、ガラスを割った石とは別の石をガラスの上にのせ替えていると分かるのです。

《関係項(於いてある場所)I 改題 関係項》《関係項(於いてある場所)II 改題 関係項》(作品画像はリンク先を参照)は、同じサイズの鉄板や木の柱が、どう置かれているかで印象を変えるということをわかりやすく表現していますし、

《風景I》《風景Ⅱ》《風景III》(作品画像はリンク先を参照)は、1つのキャンバスを超えて、作品間(「各作品で色味が異なっている」)そして作品と展示空間(「作品の色が空間に反射している」)にある関係性を意識させることで、作品の境界を曖昧にし作品の外にある余白すらも作品にしてしまっています。

こういった作品を見てきた上で、李禹煥美術館で過去に見たことのある作品を見ると随分印象が変わって見えてきます。《線より》シリーズ(作品画像はリンク先を参照)は、悪く言えばキャンバスにほぼ均等に直線が描かれているだけの作品なのですが、この関係性(パターン)は意図的に認識させられているということに気づきます。それが更に、直線が一部抜けることがあったり、ランダムな曲線になったりすると、パターンの変化から見る側が、作品に描かれているものを超えて関係性を読み解き作品を味わうことに繋がっていきます。

最終的に、《対話》シリーズ(作品画像はリンク先を参照)に至ると、グラデーションになっている点がいくつか描かれているだけなのですが、その少ない内容で非常に様々な奥行きを勝手に想起させられるのです。

『李禹煥』展は、李禹煥さんの過去から現在にかけて作品間の関係性を認識させられ、展示そのものが一つの大きな作品と思わせる素晴らしいものになっていました。流石、展示構成を李禹煥さん自身が監修しているだけのことはありました。

最後に、これは完全に私の妄想なのですが、『李禹煥』展の最後の展示は《関係項−サイレンス》(作品画像はリンク先を参照)でした。キャンバスの前に石がぽつんと置いてあり、石とキャンバスにライトが当てられている作品です。私は、この石が李禹煥さんの背中に見えました。『李禹煥』展は、李禹煥さん自身とアート(キャンバス)というメタな関係性をも表しているのではないかと感じさせてくれ、非常に満足度の高い展示でした。

この展示は、2022/11/07までやっています。写真だけでは伝わらない体験があるので、興味を持たれた方は是非足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。

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