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ゲンコツ祭り【天候術師のサーガ 4】

 子ども…?
 ── イノリゴ島の少女、ナナミ


仮面をとった少年の顔は
雨粒で艶やかに濡れていた

ナナミはしゃがみ込んで
少年の顔をペチペチ叩いた


 おぉ〜い。
 生きてるぅ〜?
 ママとパパは?
 ── ナナミ


少年に呼びかけてみたが
反応はない


 仕方ないなぁ。
 こんなとこに
 置いてくわけにもいかないし…。
 ── ナナミ


ナナミは少年を背中におぶった


 お、意外と軽い。
 ── ナナミ


床に落ちていた仮面が気になったので
拾い上げて持ち帰ることにした


 それにしても、
 ホント不気味な仮面ね。
 魔除けかなんかのつもりかしら。
 逆に魔物にでも
 なりそうなデザインだけど…。
 ── ナナミ


ぶつくさ文句を言いながら
ナナミはジメジメしてカビ臭い
雨の小屋を小走りに後にした


 あれ?
 雨が止んでる…?
 ── ナナミ


来るときは
あんなに土砂降りだった雨は止み
現在は雲間から
太陽が顔を出していた


 結局、雨の正体はなんだったのか
 わからなかったなぁ。
 ── ナナミ


ナナミは背中の少年を起こさないように
ゆっくり歩いていると
向こうから誰かが息を切らして
走ってくるのが見えた


 お〜い、ナナミっち〜!
 ── 島ギャル、アガヴェ


その呼び方で正体は誰か
一瞬で判別ついたが
恐ろしすぎる外見に絶句した


 え…、だれ…?
 ── ナナミ

 う、うちだよ!
 アガヴェ!
 まさか、オバケに取り憑かれて
 記憶喪失になっちゃった系?
 ── アガヴェ

 あぁ、アガヴェちゃんか。
 どうしたの?
 戻ってきたりなんかして。
 他のふたりと一緒じゃないの?
 ── ナナミ

 いや、さ…。
 まぢ、ごめん、置いてって。
 ドッキリしようと思ったんけど、
 なんかナナミっち
 カワイソーに思えてきて
 戻ってきちゃった。
 ── アガヴェ

 いや、いいよ、別に。
 気にしてないし。
 私のことは気にしないで、
 他のふたりと遊んできたらいいじゃん。
 ── ナナミ

 わぁ〜…、怒ってるよねぇ〜。
 そりゃ、そうだよね〜。
 どうしよう。わっ!
 ── アガヴェ


アガヴェはナナミの首元に
何者かの手があるのを確認して
仰天した


 え、ナナミっち…。
 やっぱり、取り憑かれてんぢゃん…。
 ── アガヴェ

 違うよ。
 彼は人間だよ。
 今は気絶してるけどね。
  ── ナナミ

 どこの誰かも
 わからない人を助けるなんて
 やっぱ、ナナミっちはかっこいいなぁ。
 ── アガヴェ

 そう?
 あと、別に怒ってないよ。
 くだらないなぁって思っただけ。
 ── ナナミ

 そうだよね。
 がきんちょみたいだったよね。
 もうちょっと、
 大人しくしなきゃだよね…。
 ── アガヴェ


ふたりと
ナナミの背中の少年は
来た道を戻った


 ナナミっち、
 いまどこに向かってる?
 ── アガヴェ

 ん?
 私のうち。
 ── ナナミ

 あ、じゃあ魔導デバイス魔デバ開くからさ
 道案内するわ。
 ── アガヴェ

 え、いいよ。
 来た道覚えているし。
 ── ナナミ

 え、そう?
 ん〜、そっかぁ…。
 なんか、うち、できることない?
 ── アガヴェ

 ないよ。
 うち来る?
 ── ナナミ

 え、いいん?
 ── アガヴェ

 いいよ。
 いいけど、おばあちゃんには
 見つからないようにしてね。
 多分、びっくりしちゃうから。
 ── ナナミ

 う…、ナナミっち…。
 まぢ感謝…。
 ── アガヴェ


アガヴェの崩れたメイクが
さらに崩れて
顔の半分以上は真っ黒になっていた


〜 イノリゴ島 海岸沿い ナナミの家 〜


 ほぇ〜、
 ナナミっちのうちって、
 結構デカいんねぇ〜。
 ── アガヴェ

 そうかなぁ。
 二階とかない
 ただの長屋だよ。
 ── ナナミ

 いや、
 めっちゃ歴史感じるわ。
 ── アガヴェ


アガヴェは
真っ黒な顔で
ナナミの実家を褒め称えた

ナナミは
木の塀に開いたわずかな穴から
庭の様子を見ると
ナミナおばあちゃんが
物干し竿に洗濯物を干していた

辺りはすっかり
夜になっていた


 あちゃ〜、忘れてた。
 洗濯物、
 そのまんまで来ちゃったんだった。
 ── ナナミ


 うち手伝おうか?
 ── アガヴェ

 だからダメだって。
 アガヴェちゃんは
 この子連れて私の部屋に行ってて。
 ── ナナミ


ナナミは背中の少年をアガヴェに託し
自分の部屋へ向かわせた


 私がおばあちゃんを引きつけるから
 その間にアガヴェちゃんは
 今の奥の襖の部屋まで行って。
 後でご飯持ってくから。
 ── ナナミ

 り、りょ!
 ── アガヴェ


アガヴェは静かに玄関を開けて
ナナミの家の中へ侵入した

全身びしょ濡れだったので
少し困ってから
靴下などは脱ぐことにした

背中の少年を
一旦玄関の小上がりに置き
脱いだ靴下を着ていたフーディーの
ポケットに押し込んだ

足を拭くものがなかったので
それほど濡れていなかった
少年の衣服で拭った


 ごめん、ちょい我慢して。
 ── アガヴェ


再び背中に少年を背負い
しゃがんだついでに
靴も一緒に掴んだ

玄関から見て
居間は左側にあり
その奥がナナミの部屋らしかった

ただし、
右側はすぐ縁側で
おばあちゃんが洗濯物を取りに
庭と縁側を何度も往復していた

そこへナナミが
おばあちゃんのもとへやってきた


 こらぁ〜、ナナミ!
 洗濯物を干せと言っただろ!
 こんのバカタレが!
 ── ナミナおばあちゃん


ナミナおばあちゃんのゲンコツが
ミナミの小さい頭に炸裂した

アガヴェは
気のせいか一瞬
ナナミの頭が凹んだように見えた

その隙を見て
アガヴェは少年を背負い
一目散に居間の奥の
襖の部屋へ走った

少しでも音を立てると
床の板木がギシギシ
音を立てた


 いったぁ〜。
 ごめん、おばあちゃん。
 この通り!
 悪い子だから、もう一発殴って!
 ── ナナミ

 う、えぐ…。めっちゃ痛そう。
 よくあんなに身体張れるよなぁ…。
 そんなトコもカッコいい。
 ── アガヴェ


ゲンコツ地獄を自ら買って出る
ナナミを横目に
アガヴェは無事に
襖の部屋にたどり着いた


 あ、あぶねぇ〜。
 心臓止まるかと思った…。
 がちスリル半端ないんですけど!
 ── アガヴェ


アガヴェは畳の床に
少年を静かに寝かせ
自身もへたり込んだ

ナナミの部屋は和室ではあるが
自身の趣味に
とことん改造されていた

そのほとんどが
ナナミが纏っているような
中華風のアレンジが加えられていた

衣装箪笥には
夥しい量の服がかけられており
中には
際どいレオタードのようなものまであって
どれも彼女のお手製のようだった


 こんなのいつ着るんだろう?
 外で着たら捕まりそうだけど…。
 ── アガヴェ


アガヴェが室内を物色していると
後ろで少年のうめき声がした


 うぅ…ん。
 ── 仮面の少年

 お、目ぇ覚めたか?
 ── アガヴェ


アガヴェが
期待に胸を膨らませていると
少年は彼女を見るや否や
叫び声をあげて号泣した


5へつづく

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