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泣き虫オロロン【天候術師のサーガ 5】

 うわぁぁぁぁぁあ!
 ── 仮面の少年


 え、え?
 ちょちょちょ、
 静かに!
 バレちゃうってば!
 ── 島ギャル、アガヴェ


泣き叫ぶ仮面の少年の口を
アガヴェは必死に押さえつけた

その間仮面の少年は
アガヴェの手を噛んだり
暴れたりしていた


 痛っ!
 まぢかよ!
 頼むからそんなに暴れないでってばぁ!
 ── アガヴェ


アガヴェはナナミのおばあちゃんに
見つからないかドキドキしていたが
ナナミがなんとかしてくれると
信じていた


〜 イノリゴ島 海岸沿い ナナミの家 縁側 〜


 おや、動物かい?
 なんか鳴き声が聞こえた気がしたが…。
 ── ナミナおばあちゃん

 きっと気のせいだよ!
 おばあちゃん、
 最近耳が遠くなったって
 言ってたじゃん?
 だから、
 風の音が動物の鳴き声にもでも
 聞こえたんじゃない?
 ── イノリゴ島の少女、ナナミ


ナナミは仮面の少年が
泣き叫ぶ声を確かに聞いた

内心、
家に連れ込んだのがバレるのは
時間の問題だと思った


 風の音かい?
 残念ながら
 今は風なんか吹いてないんだよ。
 全くもって無風だね。
 あんた、
 ワシに隠しごと
 してるんじゃなかろうね?
 ── ナミナおばあちゃん

 隠しごと?
 な、なな、なぁ〜んにも
 してないよ!
 ── ナナミ

 ウソがヘタクソだあね。 
 あんたが隠しごとしている時はね
 大体目が泳いでいるんだよ!
 ── ナミナおばあちゃ


ナナミは
おばあちゃの言った通り
目が泳ぎまくっていた

おばあちゃんは
叫び声のした
ナナミの部屋に向かって
ずかずか進んだ


 あ、おばあちゃん!
 待って!
 まだ開けちゃ…。
 ── ナナミ


ナナミの制止を振り切り
おばあちゃんは
ナナミの部屋の襖を
勢いよく開けた

おばあちゃんの後ろで
ナナミは顔を抑えた


〜 イノリゴ島 海岸沿い ナナミの家 居間 〜


ナナミとおばあちゃん、
アガヴェと仮面の少年は
四人で食卓を囲んでいた

仮面の少年は
よほど腹が減っていたらしく
目の前に並んだ料理を
吸い込むように貪った


 勝手に入ってすいません。
 ── アガヴェ


 正面から入ってくりゃあ
 しっかりもてなすのに
 どうしてコソコソ
 隠れたりするんだい。
 ── ナミナおばあちゃ

 いちおう、
 正面からは入ったんスけどね…。
 ── アガヴェ

 口答えするんじゃあないよ。
 大体、なんだいその顔は。
 ぐっちゃぐちゃじゃないか。
 ご飯食べたら
 さっさとお風呂入りな!
 ── ナミナおばあちゃん

 えっ、でも。
 ご飯までご馳走になっちゃったから、
 食べたら帰りますよ。
 ── アガヴェ

 何言ってんだい!
 外は真っ暗じゃないか!
 女子おなごひとりで
 こんな海沿いを歩くなんて
 危ないったらありゃしない!
 いいから今日は泊まってきな!
 ── ナミナおばあちゃん

 え、いいの?
 ナナミっち。
 ── アガヴェ

 うん。
 おばあちゃんが
 いいって言ってるなら、
 いいよ。
 服も私のやつたくさんあるし。
 ── ナナミ


アガヴェは衣装箪笥で見た
際どい衣装が頭をよぎったが
正直、帰るのは億劫だったので
泊めてもらえることになり
嬉しかった


 ありがと。
 この子、どうすんの?
 ── アガヴェ

 う〜ん。
 しばらくは家で預かりかなぁ。
 落ち着いたら警察にでも…。
 ── ナナミ

 だめだ!
 ── ナミナおばあちゃん


おばあちゃんは
声を荒げて言った


 警察なんかに
 連れて行ってみろ
 この子は尋問されて
 利用されるよ。
 ── ナミナおばあちゃん


おばあちゃんの声でびっくりしたのか
仮面の少年は泣き出してしまった


 あらら、びっくりしたね。
 よしよし。
 利用されるって
 どうゆうこと?
 ── ナナミ


ナナミは不思議そうに
おばあちゃんに聞いた

おばあちゃんは
顔を外に見やると
アガヴェとナナミも
外へ視線を移した


 あれ、雨が降ってる。
 さっきは止んでたのに。
 ── アガヴェ


ナナミは仮面の少年を
なだめていると
雨は徐々に降り止んだ


 もしかして、
 この子が泣くと
 雨が降るの?
 おばあちゃん、
 なんでそんなこと
 わかったの?
 ── ナナミ


おばあちゃんは
ご飯を食べながら
少し沈黙して話を逸らした


 ほら、
 早く食べちゃって
 お風呂に入りな。
 ドブくさいったらありゃしない。
 ── ナミナおばあちゃん

 じゃあ、三人で入ろっか。
 ── ナナミ


ナナミがそう言うと
仮面の少年は
アガヴェの方を見やって
ナナミの服をぎゅっと掴んだ


 あ〜、わぁたわぁた
 んじゃ、
 うちはひとりで入るよ。
 ── アガヴェ

 多分、その顔だと
 この子ずっと
 怖がったままだから
 アガヴェちゃん
 先入っていいよ。
 ── ナナミ

 では、
 お言葉に甘えて。
 ── アガヴェ


アガヴェは先に浴室に入った

アガヴェが上がるまでの間
ナナミは居間で仮面の少年に
疑問に思っていることを聞いた


 きみ、名前は何てゆうの?
 ── ナナミ

 オロロン…。
 ── 泣き虫オロロン

 へぇ〜、
 変わった名前だね。
 なんであんな場所にいたの?
 ── ナナミ

 わからない…。
 ぼくは、自分の名前以外
 何も覚えていないんだ。
 海に打ち上げられて、
 森を彷徨ってたら
 あの小屋に着いた。
 それから、
 どれだけ時間が経ったのかも
 わからない…。
 ── オロロン


オロロンは
またもや泣き出し
外では大雨が降った


 泣いただけで雨を降らせるなんて
 神様なのかもしれないね。
 私はナナミ、よろしくね。
 んで、ナミナおばあちゃん。
 いまお風呂に入ってる子が
 アガヴェちゃん。
 きっとお風呂から上がったら
 顔、怖く無くなるよ。
 ── ナナミ


オロロンは
ナナミの優しい声色で
少しだけ泣き止んだ

それとともに
外の雨も少しずつ
降り止んでいった


6へつづく

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