見出し画像

仮面の少年【天候術師のサーガ 3】

〜 イノリゴ島 外れ 雨の小屋 〜


 あ、ちょっと!
 ── イノリゴ島の少女、ナナミ


立て付けの悪いはずの扉が
この時ばかりは調子よく
するすると締まり
ナナミは気味の悪い
「雨の小屋」に
ひとり取り残されてしまった

しかし、
彼女は恐怖など
微塵も感じていなかった

幽霊や宇宙人などは一切
信じていないからだ

そんなことよりも
ここら一帯で起こる
奇妙な異常気象の
メカニズムが気になっていた

ただ、ミナミは
こんな島からは早く出て行きたい
と感じていた

魔法が使えないだけで
こんな地味なイタズラに
付き合わされるのは
正直、ストレスだった


 魔導デバイスを持ってない、
 魔法が使えないからって、
 なんだってゆうのよ。
 それ以外、
 何ひとつ変わりないじゃない。
 ── ナナミ


ナナミはこんなくだらないことで
怒りを露わにすることにも
飽き飽きしていた

小屋の中はただでさえ
ジメジメしているにも関わらず
外の湿気を受けて
さらにジメジメしていた

カビ臭いのと同時に
蒸し暑さもあり
それらがさらに
ナナミの苛立ちを加速させた

ナナミは
陰陽太極図が
手の甲に大きくついた
格闘技用のグローヴを
ギチっと両手に嵌め
小屋の中を散策しはじめた

心霊スポットに来ているにも関わらず
ナナミの足取りはいつもと変わらない

天候の変動は
自然現象なのか
はたまた
魔法による能力なのか
現時点ではわからなかったので
その点だけは警戒していた


 暗くてほとんどよく見えないわ。
 ── ナナミ


ナナミは島ギャルアガヴェたちの
「魔導デバイスがあれば余裕」
という言葉が頭の中で繰り返され
またもや苛立ちを覚えた


〜 イノリゴ島 外れ 雨の小屋に続く森 〜


そんな中
島ギャルたちは
奇声を上げながら
「雨の小屋」から離れ
来た道を走って戻っていた

しかし、
大粒の雨は一向に止まなかった


 ちょ、服べっちょしなんけど!
 このセーラー服、
 今日下ろしたてなのに、まぢサイアク。
 ── 島ギャル、メイプル

 雨、全然止まないね〜。
 こんなのスプラッシュマウンテンじゃん。
 ん?どしたのアガぴ〜。
 ── 島ギャル、マヌカ


島ギャルたちは走りながら
口々に文句をたれていたが
アガヴェだけは
怪訝な顔をしていた


 うち、やっぱ小屋に戻るわ。
 なんか、ナナミっち
 カワイソーになってきた。
 ── アガヴェ

 え〜?
 なにいまさらいい子ぶってんの〜?
 あんただってドッキリしたいって
 言ってたぢゃ〜ん。
 ── メイプル

 そうだよ。
 あんなに楽しみにしていたのに。
 ── マヌカ

 だって、こんなになると
 思ってなかったし…。
 なんか、扉閉めた時に
 ナナミっちと目、合っちゃって。
 すっごく悲しい目、してたんだ…。
 ── アガヴェ

 え、なに?
 ぢゃあうちらも来いっていうの?
 この後街でパフェるって言ってたよね?
 戻ってから行ったら店閉まっちゃうぢゃん!
 ── メイプル

 でも…。ナナミっちが…。
 オバケに襲われてたらどうしよう…。
 そしたら、うちらの責任ぢゃん。
 ── アガヴェ

 知らねぇよ!
 ぢゃあ勝手に助けに行けばいいぢゃん!
 そっち行ったらうちらもう
 エンガチョだからね!
 ── メイプル

 メイぷゆ、
 パフェ食べられなくなるからって
 それは言い過ぎくない?
 ── マヌカ

 うっせぇ!
 そんなこと言うなら
 てめぇも行けばいいだろ!
 うちは一人でもパフェ食べっから!
 ── メイプル

 あわわ…。
 ごめんて。
 わ、わかった、うちも行くよ…。
 ── マヌカ


アガヴェは涙を浮かべて
おろおろしながらも
森の奥にある
「雨の小屋」へ走って行った

ギャルメイクは
大雨のせいでぐちゃぐちゃになり
アイシャドウは
黒い涙のように頬に流れ
目の周りは殴られたように
真っ黒になっていた


〜 イノリゴ島 外れ 雨の小屋 〜


ナナミは
部屋のどこかに
電気の電源がないか探すため
壁伝いに歩いた

あるところで
スイッチらしきものを見つけ
押してみたが
明かりはつかなかった


 ここ、電気通ってないんだ。
 ── ナナミ


ナナミは
しばらく壁伝いに歩いたが
途中で蜘蛛の巣に引っかかった


 うわうわうわっ。
 ぺっぺっぺ!
 やだやだやだやだ!
 うぅ…。
 ── ナナミ


ナナミはクモが大の苦手だ
それに、昆虫の類も苦手なので
クモがいるとわかると
全身の寒気が止まらなくなった

もはや、
雨に濡れて冷えたからなのか
虫がいることに対する寒気なのか
彼女自身にもわからなくなっていた

暗がりを注意深く進むと
ナナミは足元に違和感を感じた

暗くてよく見えないが
踏んだ感触は
明らかに生き物だった

クマだったらどうしようと
不安が頭の中を駆け巡ったが
その不安は一瞬のうちに解消された


 うぅ…。
 ── 謎の声

 え…?
 幽霊…?
 ── ナナミ


謎の声の主は
乾いたうめき声を上げながら
ナナミの脚を掴んだ


 うそっ…、ホントに居るの?
 幽霊!
 ── ナナミ


ナナミは幽霊や宇宙人の類は信じていないが
今日、はじめて存在するかもしれないと思った


 離して…!
 このっ…!
 ── ナナミ


ナナミは掴まれた脚を
思い切り振り切った

すると、どがん!
という鈍い音とともに
何かが壁に打ち付けられた

それと同時に
壁のトタンの一部が壊れて
雨粒とともに
外の明かりが
部屋の中へ差し込んだ


 あ、幽霊じゃないかも…。
 ゾンビ?
 ── ナナミ


ナナミは引き続き警戒しながら
差し込んだかりを頼りに
壁に打ち付けられた者の
正体を確認した

どうやら
変わった模様のフードを纏っており
顔は隠れてよく見えなかった

フードをとってみると
不気味な笑顔の仮面が現れた


 わぁっ!
 ── ナナミ


普段あまり怖がらないナナミでも
この時ばかりはかなり心拍数が上がっており
仮面のデザインが
さらなる恐怖心を植え付けた

しかし、
ナナミは勇気を振り絞って
仮面を取ると
そこには
あどけない少年の顔があった


4へつづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?