庶民の生活

ワタヌキは朝食を作っていた
ザンパムとアイウェオは
まだ夢のなかだ
父親が起きてくる前に
ふたりを起こしたいが
話によると
結構な旅をして来たみたいだから
起こすのは気が引けた
おはよう
父さんおはよう
ふたりよりも先に
父親が目を醒ました
パンで良いかな父さん
珍しく気が効くじゃないかワタヌキ
たまには親孝行もしなきゃなぁ
なんて思ってさ
ははは
有難いが気持ちだけ受け取っておくよ
わたしは最近
朝ごはんは食べないことに
しているんだ
そうなんだ知らなかったよ
久々の会話には
所々ぎこちなさが漂っている
最近気まづくて
まともに話していなかったからなぁ
なんにも分からないや
リヴィングを包み込む
雰囲気を払拭するように
ザンパムとアイウェオが
元気よく入って来た
ワタヌキが目をまん丸くして
制止するよりも早く
ザンパムはワタヌキと
同じくらいの女性に姿を変えた
アイウェオを拾い上げ
おはようございますお父さま
父親も目をまん丸くしてたまげた
咳払いをひとつして
ワタヌキ
女性を入れるんだったら
一言くらい言いなさい
やけにかしこまった
ワタヌキも訳が分からぬまま
その場のノリに合わせて

そうなんだぁ
最近彼女が出来てさ
ははは
これも言っていなかったね
なんとか誤魔化した
わたしがワタヌキの父だ
なにもない家だが
ゆっくりしていきなさい
ありがとうございます
ザンパムはお淑やかに
頭を下げた
父親はそそくさとリヴィングを後にし
そこにはザンパムとワタヌキ
アイウェオの三人が残って
これまた妙な雰囲気が漂った
ちょっと用を足してくるわ
ザンパムと思しき美しい女性は
くるりと踵を翻し
便所へ向かった
ワタヌキは
火にかけていた
目玉焼きを焦がしながら

キレイだ
彼のハートも焦がれていた

◆ 戦利品 ─【一目惚れ】

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