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むかしむかし【天候術師のサーガ 1】

〜 ヤスメヤセン・丘陵地地帯 ミミナおばあちゃんの家 〜


 これはむかしむかし、
 おばあちゃんから聞いた話じゃ。
 ミナミのおばあちゃんの
 そのまたおばあちゃん。
 大大ばあちゃんの話。
 ── ミミナおばあちゃん


ミミナおばあちゃんはゆっくり話し始めると
ベランダに映る青空を遠目に見つめた

ミナミはおばあちゃんの視線に導かれるように
どこまでも続く青空に目を移した  


 天候術師たちが
 この惑星ほしの天気を操っていた頃…。
 ── ミミナおばあちゃん

 そのいつも出てくる天候術師って、
 魔法使いみたいな人たちなの?
 ── ヤスメヤセンの少女、ミナミ

 むかしはみんな魔法が使えたんじゃ。
 天候術師はその中でも強大な魔法使い。
 天候すらも動かしてしまう
 大魔導士なんじゃ。
 彼らは天に浮かぶ船に乗って、
 世界各地を移動しておったそうじゃ。
 ── ミミナおばあちゃん

 へぇ〜。
 時を経て不便な世界になったものね。
 (天に浮かぶ船って、
 ウィードの意思号みたいな
 船のことかしら?)
 うん、それで?
 ── ミナミ

 これは250年ほど前の話──。
 ── ミミナおばあちゃん


〜 250年前 ターン列島 イノリゴ島 〜


 ナナミ、洗濯物取り込んどいて。
 もうすぐ雨が降るよ。
 ── ナミナおばあちゃん

 えぇ〜、今から肝試し行く約束あるのに。
 ── イノリゴ島の少女、ナナミ

 洗濯物取り込んでから行ってちょうだい。
 それでないと、びしゃびしゃになっちまう。
 ── ナミナおばあちゃん


 ナナミはおばあちゃんに言われてもなお、
 この状況を抜け出す準備をしていた

 ナミナおばあちゃんは
 台所で夕食の準備をしているらしく
 こちらまで来ないところを見ると
 どうやら手が離せない状況のようだ


 (チャ〜ンス。)
 ── ナナミ


ナナミは不適な笑みを浮かべた

木造造りの長屋の縁側を
物音立てずに颯爽と滑り
手始めに玄関へ向かった

玄関の佇まいに不釣り合いな
鮮明な赤色が特徴的な
近未来的なデザインのスニーカーを拾い上げた

ナナミは
身にまとうものにこだわりがあるらしく
ショートボブの金髪の上の方を
両サイドでお団子にまとめ
中華風のヘアカバーをつけている

中華服の丈を詰めたような
紅いジャケットを見にまとい
ヘソだしの
黒いタートルネックシャツを着ている

タイトスカートには
黒い竜の柄が入っており
ジャケットと同じく紅色である

手には格闘技でしようするような
メリケン付きの
黒い皮グローブを装着している

タイトスカートから延びた
程よく肉のついた脚は
またも紅いタイツに包まれていた

それでいて
何やら中華柄が刺繍されている
独特なものだ

このイノリゴ島では
こんな格好をしているのは
彼女だけに違いない

玄関から縁側に戻り
物干し竿を取り出し
わざと大きめに取り付けた音をたて
それからナナミは
身の丈以上ある木の柄から
ひょいと軽い身のこなしで
家の敷地から
外へ出て行ってしまった

もちろん洗濯物は
カゴに入ったままだった


2へつづく

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