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「詐欺事件勃発ーエジプトの洗礼ー」アフリカ大陸縦断の旅~エジプト編⑨~

※前回の物語はこちらから!!!!!





 2018年8月16日、午後6時頃。休憩所で出会った、反キリスト教老人。その思想を継ぐ、ムーディたち。彼らの偏ったイスラム信仰を目の当たりにした私たち。徐々に募る、不安と恐怖。そして、案内された砂漠の出口。コンクリートの壁の下方。人の手で破壊された抜け穴。その狭い出口を通り抜けた私たちを、出迎えるムーディの言葉。


「今からピラミッドに登るから、先払いで12万な」

「・・・・・・・・・・。」


 まばたき1つせず、こちらを見る彼の目つき。

(分かってるな?今更、お前らに断る権利などない。はやくよこせ。)

 鋭い目線から聞こえる心の声。まるで刃物を突きつけられたかのような感覚。


 言葉を失い、何も考えられないまま、立ち尽くす私たち。これまでの出来事を偶然という言葉で片付けてきたことによって、諦めに変わっていたはずの不安や恐怖。しかし、この現実は私たちの恐怖心だけを再び引き上げたのでした。



「車が到着した。こっちに来い。」

 いつの間にか、すぐそこまで来ていた白いボロボロの自家用車。私たちの意見など聞くこともなく、車に向かうムーディ。


 今逃げないと。


 しかし、私たちはムーディについて行くように、車の方へと歩き始めていました。抱いてきた違和感から目を逸らし、何となくムーディの言葉に従ってきた私たちは、すでに彼の手の中。そして、私たちの考える行為に、立ちはだかる恐怖心。もはや、ムーディの支配下にいた私たち。そこには明らかな上下関係が存在していました。


 こうしてムーディの言葉通りに動き、車に乗り込んだ私たち。運転手とムーディ、そして後部座席の私たち。窓の外には、手を振るあの謎の親子の姿。徐々に遠くなる彼らを見つめたまま、車は走り出しました。

 砂埃が舞う、蒸し暑い車内。ようやく、刺すようなムーディの視線から解放された私たち。それと共に今度は、諦めに変わっていたはずの不安が一気に込み上げてきました。


「(さっき12万て言ってなかったか?さすがに高すぎる。そんな金額払えない。いや、払わなくてもいいはずだ。そうか。これが詐欺か。事件に巻き込まれてしまったんだ。どうやってここから、逃げだそう。これから、どこに連れて行かれるんだ。検討もつかない。命だけは守らないと。でも、何とか金を払わずに済む方法はないのか。)」


 底知れぬ恐怖と不安に襲われる中で、必死に頭を回した私たちは、ついに口を動かしました。


「12万円もの大金は、今持っていないよ。1度ホテルにお金を取りに帰ってもいい?また戻ってくるから。」

 何とも無様で、弱々しい発言。支払えないことと、この場から逃げること。最優先であるこれらを、何とか伝えたかった私たち。しかし、今の追い詰められた精神状態では、このハリボテの答えを産み出すことしかできませんでした。


「いいよ、いいよ。とりあえずATMに行くから今ある分だけもらうわ。」


「(はぁ、、、。そりゃ、そうなるよなぁ。)」


 今更、カードを持っていない、なんて嘘はつけない。無理矢理にでも、全てを奪われるかもしれない。極限まで引き上げられた不安と恐怖に、支配された私たち。そんな私たちに、逃げられる前に、根こそぎお金を奪う。

 反論できる余地のない、完璧なムーディの言葉。それは一瞬にして、私たちが捻り出したハリボテの発言を崩壊させました。



 そして数分後、ATMに誘導される私たち。もはや私たちの行動は、ムーディの意のまま。彼はじっと目を光らせ、私たちがお金を引き出す様子を後ろから監視していました。


「(こんなところで12万円も支払うわけにはいかない。何か、何か方法はないか?)」


「とりあえず、これだけでいい、、、?」


 私たちは引き出した2万円を片手に、怯えながらムーディを見上げました。


「別のカードにお金が入っているから。でもそれは、ホテルに置いてきたんだ。」


 ここでもまた、咄嗟に出たハリボテ発言。私たちは、嘘をつき続ける、という選択肢以外は残されていなかったのです。


「ああ、分かったよ。」


 意外とあっさりと、納得してくれたように笑顔を見せるムーディ。


「(良かった、、、。これで解放される。)」



 そう安心して、緊張の糸が緩んだ次の瞬間。彼の手が、私の胸にかけていたポーチに伸びてきました。

 凄まじい勢いであけられたチャック。目の前に迫る、無表情のムーディ。反射的に体をのけぞらせた私。一瞬にして奪われた財布代わりのジップロック。中から札を抜き取った彼。道路に投げ捨てられた空っぽのジップロック。それを拾いに行く私。


「これだけか。まぁとりあえず今は、これでいい。」


 一銭も入っているはずのない、空っぽのジップロック。それを見つめ、拾い上げようとする私に、響き渡るムーディの声。


「(何が起きた、、、?)」



「(とりあえず今は、って、、、?)」

※続けの物語はこちらから!!!



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