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「スラム街の真実」アフリカ大陸縦断の旅~エジプト編③~

*前回の物語はこちらから!!!!!


  2018年8月15日午後4時。人気のない、暗く細い裏路地。スラム街の入り口としては十分すぎる雰囲気に、圧倒される私たち。闇の世界に引き寄せられるように、奥深くへ。

 「明らかにさっきまでとは違う。太陽の光が少ない。もうすでに真夜中みたいだ。」

 考え出せばキリのない心配事から目をそらし、私たちは入り組んだ路地を歩き続けました。

 人がすれ違えることがやっとの道の真ん中で、ボロ着をまとって座り込む、痩せこけた喫煙老人。虫がたかった食べ物を、荷車に乗せて運ぶ老婆。家の窓から、私たちを怪しげに見る男性。すれ違う少年たちの冷たい視線。

 「引き返すことが最善策だ。」言葉を交わさなくとも、私たち2人が考えていたことは同じものでした。しかし、そう思うと同時に、「この先に、私たちの旅に影響を与える何かがある。」と感じ取っていたのです。

 
 そして歩き続けること20分、暗い迷路のような裏路地をようやく抜けた私たちは、とある明るく開けた場所に辿り着きました。

 大はしゃぎするちびっこ達の声。それを温かく見守って談笑する大人達。裸足でサッカーを楽しむ少年。それらを微笑ましそうに眺める老人達。
 隙間なく建ち並ぶボロボロの家。大量に干された洗濯物。そこら中に散らばった三輪車やボール。さきほどまで全く感じられなかった生活感と笑顔。

 「別世界に来たみたいだ。思っていた感じと違うな。どういうことだ。」

 打って変わって現われた突然の光の世界に、あっけにとられていた私たち。目の前の光景が理解できないまま、突っ立っていました。

 すると、そこに1人の男性が現われ、私たちに声をかけてきました。

 「日本人か?この辺りは危ない場所もある。僕が案内してあげよう。」

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 エジプト訛りの英語で話しかけてきた彼の名前は、おそらくガマル。彼はこの土地で生まれ育ってきたようで、知り合いも多く、街の事情も詳しいとのこと。私たちは訳も分からないまま、とりあえず彼の後について行くことにしました。

 彼が言うには、「ここは安全な場所。でも少し離れた場所では何が起きるか分からない。」とのこと。あの迷路のような裏路地を1本でも違っていたら、、、そう考えると恐ろしくてなりませんでした。「またあの道を通って帰るのか。」安全地帯に到着して早々に、帰りの不安が頭を離れることはありませんでした。


 しかし、この場所の人々は私たちの不安を全て掻き消してくれました。言語の障壁がありながらも、ガマルの案内のもと、私たちは様々な場所でたくさんの人と関わりました。

 食べ物や水を無料で差し出してくれたおばあちゃん。私たちが教えた日本語を楽しそうに繰り返す、ガマルの友人夫婦。共にボールを蹴った裸足のサッカー少年。初めは怖がっていたちびっこ達も、だんだんと私たちを受け入れ始め、一緒に追いかけっこや水遊びを楽しみました。

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 単発の工事現場での仕事や清掃業、食材やハンドメイド品を売ることで生活を送る彼らは、決して裕福ではありません。また、携帯、テレビ、ゲームなど、私たちが日本で目にする娯楽もほとんどありません。

 それでも、「私たちは貧しいけど、幸せだ。」と言って、笑顔を絶やさない彼ら。

 「何が彼らの心を豊かにしているのか。」私たちは、不思議でなりませんでした。


 そんな疑問を抱いたまま、ちびっこ達と遊ぶこと数時間。いつの間にか日が暮れ始め、そろそろ帰らなければならない時間。

 すると、ガマルは「帰る前に、家に遊びに来てよ。」と言い、私たちはガマル家に招待されることに。

 案内されたのは、6畳ほどの小さな部屋。カラフルな内装、壁に掛けられたディズニーグッズ、散らかったままのおもちゃ、ぬいぐるみと小さな布団。どう見ても、子供専用の空間でした。「次はリビングか?ガマル夫婦が使う別の部屋はどこにあるんだろう。」そう思っていた私たち。

 しかし、「他に部屋はないよ。ここに家族6人で住んでいるんだ。」
私たちのために、パンとジュースを振る舞う準備をしながら、笑顔でそう言ったガマル。



 「あなたにとって幸せとは何ですか?」

 「夫婦生活と子供たちだよ。」


 


 大量の物質で溢れた国、日本で生きてきた私たち。目に見えるモノでしか、心を満たせなくなっていた私たち。反比例する物質と心の豊かさ。

「いつの間にか貧しい心を持ってしまっていた。私たちは本当に豊かなのか?貧しさとは何なのか。」


 流れ着いたエジプトのスラム街。飛び込んだはずの暗闇の世界。襲いかかる恐怖と不安。しかし、目にした現実は、想像と真逆のものばかり。

 聞こえてくる子供達の笑い声。「これがこの街の全てなんだ。」

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 この光の世界は、私たちではとても抱えきれない多くのものを与えてくれたのでした。


 こうして、2018年8月15日午後7時、心が満たされた私たちは、笑顔でスラム街を後にしました。

 

 しかしこの翌日、精神を崩壊させる、とある事件が私たちを待っていたのです。


*続きの物語はこちらから!!!!!!




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