見出し画像

「恐怖と快感 ーエチオピアンミステリーー」アフリカ大陸縦断の旅~エチオピア編④~

*前回の物語はこちらから!!!


 2018年8月24日、夜7時半頃。私たちは5階の自室の窓から、アワサの街をぼーっと見下ろしていました。他者を信用できなくなってしまったエジプト。何とか自分のことだけでも信用できる人間に。そう願って取り組んだ情報収集。しかし、エチオピアの初日を振り返れば、あっけなく崩れ去る他者と自分。そして、頼るべきものが1つもなくなった私たちが感じたのは、初めて抱く類いの恐怖。

「もう外に出たくない。」

 と同時に沸々と、別の何かが自分の中で湧き上がってくる感覚に襲われました。全て失い、未知の世界に放り出された私の中に、恐怖とは異なるモノがありました。

「外に出るしかないな。」

 なぜか同時に現われた、真逆の思考回路。この時、自分でも全く意味が分かりませんでした。恐怖がいきすぎたのか。悔しさか、焦りか。変なプライドか、投げやりの精神か。いや、そのどれにも当てはまることのない変な快感が、確実に私の中に存在していました。

 そうは言っても、やはり恐怖は拭いきれませんでした。しかし、そこからにじみ出てくる謎の快感。『なぜ私は外に出たいのか』。とりあえずこの訳の分からない外出欲を正当化するため、「(恐怖に打ち勝つためだ。)」という薄っぺらい言語化によって自分を納得させました。こうして恐怖心に、雑に蓋をした私は、暗くなってきたアワサの街へ繰り出すため、部屋の扉を開けました。


 午後8時頃。特に何の当てもない私たち。相も変わらず、容赦なく近寄ってきては話しかけてくるアワサの人々。なぜか、一緒に写真を撮ってくれとの要求が絶えませんでした。そのデータが欲しいという訳でもないにも関わらず、順番待ちをする人々。それをクスクス笑いながら通り過ぎる人々。おそらくは、スリや強盗のリスクが伴う時間帯。向かいの道路から聞こえる、謎の怒鳴り合う声。先ほど私たちを追いかけてきたであろう少年たちが、遠くで私たちを見ていました。だんだんと街の音が大きくなっていくような感覚。しかし、不思議とそこに恐怖はありませんでした。写真撮影が進むにつれ、溢れ出す快感。何が起きても受け入れるしかない日常を、自ら迎えにいけるような気がしました。


 こうして、恐怖は徐々に、言語化できない快感に変えられていきました。


 そして、写真撮影を終え、帰路につきました。『なぜ外に出られたのか』。付け焼き刃の言語化で納得できるはずもなかった私は、アフリカ大陸縦断を通して、この答えを探すことになるのでした。


 2018年8月25日、早朝5時起床。私たちは眠たい目をこすりながら、私たちをアワサまで送ってくれた男性に教えてもらった、バス停へと向かいました。まだ薄暗く、少し肌寒いアワサの街を歩く私たち。とそこへ、1台のミニバンが停車しました。ドアから身を乗り出して、何かを叫ぶ男性の姿。

「albamin、、albaminch、、、Arba Minchー。」

「(ん、、?アルバミンチって言ってる、、?」

「おい、やっぱアルバミンチって言ってるて!このバス乗ったら行けるんじゃない?」

 そうです。偶然にも目の前に停車したミニバンは、私たちの目的地である、アルバミンチ行きを示していました。

「どうする?これに乗るべきか?」
「でも教えてもらったバス停の方が確実か?値段は?」

 今にも出発してしまいそうなミニバンを前に、一瞬の判断を求められた私たち。この瞬間、エジプトでの生活とエチオピアの初日を思い出しました。

「どうせなんも上手いこといかん。分からん!乗ってみよ!」

 この旅において、初めて自分の判断のみで行動を選択した瞬間でした。

 荷物を預け、ほぼ満席の車内にギリギリ乗せられた私たち。当然、私たち以外は見ず知らずの黒人の方々。何かあってはいけない、という思いから睡眠不可能が確定。出発してもなお、無言の車内。またも溢れ出す恐怖と、謎の快感。

 すると、助手席から金を請求してくる声が。

「1人150ブルだ!」

「(150?てことは600円ぐらいか。アルバミンチまで3時間、、。うん。いいでしょう!)」

 ほっと胸をなで下ろし、150ブルを支払った私たち。しかし、到着まで気を抜くことはできず、少しの緊張感と静けさが続く私たちを乗せて、ミニバンはアルバミンチへと進んでいきました。


 徐々に明るくなる窓の外。自然豊かな緑の景色と濃い霧、ガタガタの道路を抜け、ようやく街が見えてきました。砂の上で、食料販売の屋台が並び、そのそばではしゃぐ子供たち。とある男性を先頭に群れをなす、家畜たち。そして、出発からおよそ4時間後、午前9時半頃。ようやくアルバミンチに到着。

 ミニバンを降り、預けた荷物を受け取る私たち。空を見上げると雲1つない、晴天のアルバミンチ。しかし、周囲から感じる強烈な視線。話しかけられる訳ではない、でも何か漠然と気持ちの良くないものが伝わってきました。道行く人々から、嘲笑されているような、、、


「200ブル!!」
「荷物乗せてやっただろ!1人200ブル払え!!!」

「(は、、? 話違うやん。もうええてー。)」


「ほんでなんで人間より荷物の方が高いねん!」


*続きの物語はこちらから!!!







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?