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「移動ばっかりもうええて!」アフリカ大陸縦断の旅~エチオピア編⑩~

 2018年8月25日、カイヤファールへ向かうバスの車内。ピーナツと覚醒植物を渡され、たくさんの乗客の前で見世物となっていた私たち。何とかこの差別的状況を自虐的に捉え、笑いとなり、打ち勝ったところで一件落着。しかし、それも束の間。今度は、とある女性が私に「好きだ。」と伝えてきたのでした。直前に見世物にされていた私は、彼女の告白を素直に受け取ることができませんでした。「(これも何かトラブルに繋がるんじゃないか。)」と、もはやそちらの方が嬉しいとさえ思っていた私。ハニートラップ差別か、純粋な告白か。私が抱いていたその疑念は、時間が経つほどに、彼女の態度、他の乗客の雰囲気を感じ取るほどに、強い反省の思いへと変わっていったのでした。隣の席で恥ずかしそうに座る彼女、私がお土産として渡したタオルに喜んだ姿、別れる際に見せた悲しそうな表情。「(ぁぁ、申し訳ないことをした。」差別に勝利したかにように見えたのものの、実際のところはしっかりと翻弄され、完敗の事実を思い知った私たち。振り回されてすり減った精神を何とか保ち、答えの出ない複雑な思いを抱いたまま、窓の外を眺めていました。

 どれほど時間が経過したのか、日が沈み始めた頃、私たちはいつの間にかカイヤファールに到着していました。少しの肌寒さを感じる中、バスを降りると、見渡す限りの自然。険しい山道を抜けてきたバスは、建物の一切ない森の中に、強引に広がるバスターミナルに停車していました。

「(何にもないな。カイヤファールって街じゃないんか?ここからどうすればいいんやろう。)

 時刻はすでに17時を過ぎていましたが、カイヤファールに宿泊できるような場所があるとも思えませんでした。次に目指す場所はディメカ。進めるところまでは進んでおきたい、と何となく焦っていた私たち。ジョンに相談してみようとしましたが、ジョンは何やら別の車の運転手と話し込んでいました。

 そして数分後、運転手と話し終えたジョンはこちらを振り返り、この車に乗れとのジェスチャー。移動したい一心だった私たちが、急ぎ足で後部座席に乗り込もうとしたその時、私たちを追い抜く速度で数名の女性たちが車へと駆け込んできました。訳も分からず、ミニバンに詰め込まれた私たちは、おそらく定員オーバーでカイヤファールを出発しました。

 どのように座っているのか、目の前の助手席には3名の女性たち。そして気付けば私は女性2人に挟まれた中央の座席。無意識にもカイヤファールへ向かうバスで起きたあの女性との一件を思い出していた私は、身の縮む思いでディメカへの到着をじっと待ちました。

 そこからいくつかの山を越え、ようやく見えてきた街のような場所。建物がちらほらと並んでおり、道路脇には家畜の群れ。そして、服装や髪型からして、明らかに~族という呼び名であろう人々が行き交っていました。

「(やっとそれっぽいところまで来られた。後もう少しのはず。)」

 目の前を通り過ぎる部族に胸の高鳴りを感じながら、ディメカの街に降りた私たち。辺りに広がる全てに目を輝かせ、うろうろと歩き回っていました。

「ごめん。もうバスがないかもしれない。宿があるかも分からない。」

 ジョンは私たちのはしゃぐ姿を見て、申し訳なさそうに告げました。

「(ここで一夜を過ごすのも、楽しそう。でも、明日は朝一からカロ族の住むゴルチョ村に向かいたい。まだここからやと距離があるしな。)」

 どうするべきかぴょんすとジョンと3人で話し合った結果、日没まで粘ってみようという結果に。目指すべき場所はトゥルミという街。ここからはヒッチハイクしかない。

 しかし、中々に辺鄙なこの場所。ヒッチハイクの成功以前に、車が通る気配すらありませんでした。辺りも暗くなり始め、街を行き交う人々も徐々に見えなくなってきました。とてつもなく長く感じた30分が経過した頃、1台の車が通りかかりました。

「(たぶんこれが最初で最後。お願いします!)」

 そう祈りながら、交渉開始。かと思いきや、私たちの疲れ困り果てた様子を察してか、陽気な運転手が乗っていけとのジェスチャー。彼の目的地は全く別の場所であったにも関わらず、トゥルミまでの送迎を快諾してくれました。

 しかし、重たい車内。ほぼ2日間に渡る長時間の移動と、度重なる感情の起伏から、私たちは心身共に限界を迎えようとしていたのでした。何1つ予想できない日々に恐ろしさを感じなければならない一方で、わずかに滲み出る快感。エチオピアに到着してから高まる未知への好奇心。

「(明日はどうなるんやろう。)」


 ぼーっと暗い荒野を眺めながら車に乗り、約1時間が経過した19時頃。私たちはトゥルミに到着しました。運転手に礼を言い、のろのろと歩き出した私たち。街灯がない真っ暗な街。わずかに光る建物の灯を頼りに、人がいない砂利道を進みました。

「(腹減ったな。飯屋はあるんか?そもそも泊まれる場所あるかも分からんな。明日のカロ族への行き方は?)」

 聞きたいことはたくさんあったものの、質問する気力さえ失っていた私たちは、ただジョンの後に付いていきました。

 すると、薄暗いボロ建物の前でジョンが立ち止まりました。建物の前には汚いプラスチックの机と椅子。

「ここで晩飯を食べよう。宿はいくつか知ってるから、その後で案内するよ。」

 頼もしいジョンの姿に、ひたすら頭を下げることしかできなかった私たち。

「(せめてここの晩飯だけでも奢らなければ。)」

 そして、面倒くさそうに出てきた店員に、エチオピア人のソウルフードであるインジェラを注文。そして、奢る気満々で開いた財布。

「全然金ないやん!やばい、どうしよう。」

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