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料理好きのための21世紀料理教室

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低温調理、エスプーマをはじめアルギン酸のカプセルなどの分子料理のテクニックを解説していきます
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白菜と昆布のミルフィーユ煮

白菜と豚バラ肉を層にして、蒸し煮にした料理ってよく見かけますよね。あれはあれでおいしいのですが、昆布と白菜の組み合わせも乙なもの。 こういった料理をつくるのに大事なポイントは鍋の大きさ。14cm〜16cmくらいの小さい鍋がつくりやすいようです。 昆布は早煮昆布を使います。早煮昆布は食べるための昆布の俗称で、種類は様々。ガッガラコンブ(厚葉昆布)であったり、ナガコンブであったり、日高昆布だったり、真昆布の若いものだったりします。写真は真昆布ですが、どれも出汁というよりは食べ

〈水で料理は変わるか?〉豚バラ肉を茹でる

硬水と軟水の違いが料理にどのように影響するか、というシリーズです。 シリーズとしては長くなりましたが、硬水と軟水でかなり味や仕上がりが変わってくるのがわかってきました。今回は豚肉を茹でて比較してみましょう。 豚バラ肉を半分に切り、軟水(東京都の水道水)と硬水(コントレックス50%+水道水50%)で茹でてみます。 沸騰するまでは強火、沸いてきたら弱火に落とします。水道水はいつもの状態。はじめのアクを取り除けばその後はアクがあまり出ません。 一方、硬水はアクがたくさん出る

カリカリにんにくのペペロンチーノ

久しぶりのパスタレシピです。イタリア料理のアーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノは日本では人気の料理。日本人的にはかけそば的なシンプルさにそそられるのかもしれません。 とはいえアーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノはシェフの数だけ作り方やレシピが存在します。 三つ星レストランのレシピになると、バジリコソースが添えられ、アンチョビが入り、グラノパダーノチーズが入り、トマトが入り、カリカリにしたパン粉……という具合にかなり複雑なもの。軽く鍋を煽ってクリーミーな仕上がりにするこ

塩、砂糖に続く白い粉末調味料〜酸粉末を使いこなす〜

今回の21世紀料理教室のテーマは「酸」。ちなみに何度か説明していますが、21世紀料理教室は一般家庭で役に立つノウハウではなく、きわめてギーク的な内容であることを先に述べておきます。白い粉末といっても危ない話ではありません。 キッチンで活躍する調味料といえば塩と砂糖ですが、モダニストキュイジーヌ(現代的料理)ではそこにもうひとつ酸を加えることが提案されています。 日本で一番手に入りやすいのがクエン酸です。クエン酸はレモンやライムなどさまざまなフルーツの酸味で、意外なところで

水で料理は変わるか〜野菜編〜

不定期に掲載している『水で料理は変わるか』シリーズ。 初回のテーマは『パスタ』でした。パスタは硬水で茹でるとマギーキッチンサイエンスにある記述どおりにデンプンが溶出しましたが、茹で上がりの食感はほぼ同じ。硬水を使っても、軟水を使っても仕上がりに差はなく、どちらでもいい、という結論でした。 続いて行ったのは『出汁』です。「硬水を使うとうま味が出ない」という前情報に反して、うま味の強さに関してはあまり差がなく、むしろ硬水に由来する独特の味が大きく影響することがわかりました。ま

グラノーラのチップス

21世紀料理教室です。ふだんの家庭料理とは違う雰囲気の料理(というか家庭ではあまり作らないであろう料理)を紹介するシリーズです。 レストランに行くと食事のはじまりにアミューズが提供されます。ビールやスパークリングワインとつまむためのスナック類が多いですが、このグラノーラのチップスもその一つ。 元ネタはMind of a chefという番組で見かけたDavid Kinchのレシピ。ミシュラン三つ星を獲得したManresa(現在は閉店)の定番アミューズだそう。朝ごはんの定番の

〈ノンアルコール研究〉発酵ラボ(番外編)インスタントコンブチャの作り方

ぽつぽつと書いている発酵ラボのシリーズで、コンブチャを解説しました。 コンブチャで活躍する微生物は主に酵母と酢酸菌です。酵母によって独特の風味が出てくるのがコンブチャの特性ではありますが、大事なのは酢酸菌の働きで、出来上がった液体は結局、お酢の一種ではあります。コンブチャをつくるのは楽しい行為ですが、時間がかかったり、雑菌の混入のリスクがあったりと自分で飲むならいざしらず、人に飲ませるのはちょっと気が引けるもの。そこで今回はわざわざスコビーの力を借りずに、インスタントなコン

アスパラガスの下処理は折るのが正しいのか?

店頭にアスパラガスが出回りはじめました。アスパラガスの大まかな性質などはこちらの記事を読んでいただきたいところですが、今日は下処理についての話。 アスパラガスは不思議な野菜。新鮮なアスパラガスが甘いのは4%ほどになる糖分のお陰ですが、収穫後も成長を続け、糖分を消費していきます。この変化は収穫後24時間が特に強く、温度と光で加速します。つまり、アスパラガスは鮮度が一番ということ。 時間が経ったアスパラガスは繊維が硬くなってきます。ちなみにホワイトアスパラガスはグリーンアスパ

水で料理は変わるか〜豆腐編〜

水で料理は変わるかを検証するシリーズ。 水と料理の関係を考察するのは今にはじまったことではなく、雑誌のバックナンバーを漁っていると専門料理1996年の11月号の特集「水について考える」に検証「水は料理の味を変えるのか」という記事を見つけました。なかで水のテイスティングや出汁の検証を行っているので、気になったのは「豆腐を水につけて味の変化を調べる」というもの。 興味深いのは水につけることで豆腐の味が変わった、という記述です。なかでも そんなに変わるとしらたら、これは面白い

水で料理は変わるか〜ストック編〜

水で料理はどんな風に変わるかシリーズです。 前回は出汁について検討しました。 日本料理の出汁は軟水が基本ですが、動物性の素材を煮出して抽出するストック=フォンはどうでしょうか。ここは一つ、コントレックスと水道水で比較検討してみましょう。 ストックのとり方はモダニストキュイジーヌの圧力鍋を使ったアプローチを基本としました。 鶏手羽は小さく切ります。この一手間が重要。小さく切ればそれだけ味の抽出効率がよくなるからです。 ぜいたくに手羽肉を使いましたが鶏ガラでもいいでしょ

水で料理は変わるか〜出汁編〜

前回、パスタを硬水と水道水(軟水)で茹で比べましたが、その続きです。 今日は出汁をとってみます。出汁は軟水がベストというのが定説。そもそも日本の水は基本的に軟水。あえて硬水で抽出することでどのような差が出るかを調べてみましょう。 水はコントレックスを使います。 1%量の昆布だしを60℃で1時間抽出しました。 水道水は透明なままですが、コントレックスを使うと途中でアクが浮いてきます。このアクの主成分はおそらく硬水に含まれるカルシウムと昆布のアルギン酸が結合したものでしょ

パスタは水で変わる? 変わらない?

料理本をパラパラとめくっていたところ、パスタを茹でる水に硬水を加えているレシピを読みました。理由としては「ゆですぎを防ぎ、プリッと仕上げるため」と書かれています。「パスタ 硬水」で検索してみたところ、様々なサイトで「硬水で茹でたほうがおいしい」という記述が。これは実験してみる必要がありそうです。 硬水の代表として市販のミネラルウォーターでも硬度が高いコントレックスを用意しました。 コントレックスの硬度は1468mg/L。東京都の水道水の硬度は(各浄水場によって違うのですが

フライパンの底の焦げの落とし方(ただしステンレスに限る)

今年の8月で閉鎖されたcakesで「なにがイチバンですか?」という連載をしていました。この連載は調理道具や調味料などを解説し、僕(樋口)が独断と偏見でイチバンをオススメするもの。いずれはnoteに移行すると思いますが、フライパンの回の話の続き。 連載時の趣旨は「フライパン選びはよく「フッ素樹脂加工(テフロン)」か「鉄製」、あるいは「ステンレス」や「セラミック」という具合に、素材の議論になりがちですが、じつは重要なポイントは別にある……というもので、ステンレスとアルミのクラッ

(ネタバレ注意)料理における視覚の影響「オレンジとビーツのゼリー」

「目で食べる」という言葉があるように、視覚は料理の味に大きく影響します。 例えばこちらの記事では丸いプリンが四角いプリンよりも〈甘く〉感じる事例を紹介していますが、食べ物は口に入れる前に眼から入った情報が先に脳に伝達されるので、その「味の予想」が実際の味にも影響を及ぼします。 具体的にはINRAのGil Morrotとボルドー大学のFrederic BrochetとDenis Dubourdieuの共同研究では54人のテイスターを対象に、赤く着色した白ワインを試飲させたと