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フライパンの底の焦げの落とし方(ただしステンレスに限る)

今年の8月で閉鎖されたcakesで「なにがイチバンですか?」という連載をしていました。この連載は調理道具や調味料などを解説し、僕(樋口)が独断と偏見でイチバンをオススメするもの。いずれはnoteに移行すると思いますが、フライパンの回の話の続き。

連載時の趣旨は「フライパン選びはよく「フッ素樹脂加工(テフロン)」か「鉄製」、あるいは「ステンレス」や「セラミック」という具合に、素材の議論になりがちですが、じつは重要なポイントは別にある……というもので、ステンレスとアルミのクラッド鋼のフライパンをおすすめしました。これはIHの使用も想定したものです。

ガスコンロのみであれば別にアルミ+フッ素樹脂加工のフライパンで充分なわけです。我が家のキッチンでは和平フレイズからAmazon限定で発売されているフライパンが活躍していますが、普段の料理であればこちらで充分。

実際には熱源の大きさとフライパンのサイズが重要です。例えば26〜28cmのフライパンであれば家庭の熱源でも充分に対応できますが、それ以上の大きさになると加熱ムラが大きくなってきます。プロのキッチンのガスコンロを覗くと2連になっているコンロをよく見かけると思いますが、そうしたコンロでなければ大きい鍋底に対応できないのです。

ステンレス×アルミのマイヤーの26cmフライパンを中火で1分加熱したのが写真の状態。側面の温度が高いものの、比較的、温度ムラはありません。一方、20cmのフライパンを加熱するとこんな感じ。

中心部分と側面の温度差が大きいのがわかると思います。(火を弱めればいいのですが)

鉄のフライパンの場合は?

せっかく温度を写真に撮っているので鉄のフライパンも撮影してみましょう。

鉄のフライパンの弱点が加熱ムラであることは、以前にもお伝えした通り。しかも、この加熱ムラ、なかなか消えないのです。cakesの連載でも触れましたが『マギーキッチンサイエンス』を著したフードライターのハロルド・マギーさんは2008年10月7日のNYTimesの記事(『What’s Hot, What’s Not, in Pots and Pans』)で

「重い銅と軽いアルミニウムの鍋は、均等に熱せられたヒートマップを作った。ステンレスとアルミニウムの多層鍋もかなりうまくいったが、鉄鋳物の鍋は小さな領域が焦げ、加熱ムラがあった」

と書いています。温度を計ってみると鋳物では中心と外の部分で約38℃の差があったようです。この温度分布のムラを減らすためには予熱段階でフライパンを動かす必要があります。鉄のフライパンのメリットは扱いさえ間違えなければ「ほぼ永久的に使える」ということ。コストパフォーマンスを気にする方にはオススメできます。

高価なフライパンを買う必要性はあるのか?

さて、高価なフライパンを購入する必要性はあるのでしょうか。我が家で最も高価なフライパンである銅のフライパンを熱してみました。

同じように加熱していきます。

マギーさんの実験の通り、ほとんど温度ムラがないことがわかります。高いフライパンはやはり高性能なのです。(amazonで売っているアルミ+フッ素樹脂加工のフライパンもほとんど温度ムラがないのですが)

一方、モダニストキュイジーヌの著者のネイサン・ミアボルトは

(IHを使えば)イケアの10ドルのフライパンを使っても、高価な銅製調理器具を使ってガスコンロで料理するのと同じくらいすばらしい仕上がりになる

と書いています。この話が本当なのか、IHを使ってさきほど温度ムラがあったマイヤーのフライパンを熱してみましょう。

ほとんど温度ムラがありません。ミアボルトの言う通り、IHを使うのであれば安価なフライパンでも温度ムラがなく、均一な焼き色が得られるのです。

マイヤーではなく、アイリスオーヤマのフライパンを使っても同様の結果。

なので連載ではIHを前提とした場合、ステンレス+アルミのクラッド鋼のフライパンをオススメしたわけですが……

で、ここからが今日の本題です

補足なんですが、もうひとつステンレスのフライパンをオススメする理由がありまして、それは鍋底のメンテナンスがしやすいということ。

フライパンは長く使っていると、こんな風に底に跳ねた油などが焦げとして堆積します。熱効率も悪くなりますし、なにより美しくない。それを防ぐには使用後に鍋の裏側をきちんと洗うことですが、それをサボるとこんな感じに。

金たわしでゴシゴシ洗うよりも焦げとり洗剤を使うとかんたんです。

焦げとり用の洗剤は主に界面活性剤+水酸化ナトリウム(一応、劇物です)で、焦げを溶かしていきます。使いやすいように濃度がついています。

焦げ面に歯ブラシなどで薄く塗布します。

ラップをして30分ほど放置。

あとはスポンジで流すだけです。テレビの通販番組よろしく、焦げがかんたんに溶け落ちます。

これでOK。この焦げ取り剤、ステンレスや鉄に使えますが、アルミニウムやホーローなどは使用不可です。(溶けてしまうので)フッ素樹脂加工も痛むので内側にはつけないように注意しましょう。この焦げ取り剤が使えるだけでステンレスの鍋って選ぶメリットが大きいと思うんですよね、という余談でした。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!