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旅鳥レポート:鳥と要塞

秋の始まりごろ、私は決まって海沿いに野鳥観察へ出掛ける。ちょうど渡鳥が到来し始める時期であり、冬鳥好きの私にとっては書き入れ時と言っていいほど本腰入れたい時期であるためだ。特に鴨類が豊富に見れる時期であり、彩り豊かな羽毛の大群が思い思いに活動する光景を見るたび、鳥の美しさの真髄を強烈に感じさせるのだ。
いや、そのことはまた鴨が訪れた時にじっくり語ろう。今はとにかく海での探鳥に集中しなくては。

今回、私は横須賀の最東端に位置する観音崎公園に足を運んだ。横須賀を含む三浦半島の沿岸沿いには、戦争遺跡が保存される場所がいくつも存在し、公園として整備されている。
近代の遺物に触れながら野鳥を探す。
なかなか悪くない週末の楽しみ方ではないか。

観音崎公園には戦争の時代に建てられた要塞遺跡が随所に残され、当時の面影をわずかに感じさせる。かつての砲台や弾薬保管庫などが雑木林に侵食され、人口の石と鉄の断層に有機的な植物が入り混じる異質な地形を作り上げている。一度人の手で改造された地形が時間と共に再生され、自然の景観をなす様は美しく歪でなんとももの悲しい。



耳を澄ませると、あたりからヒヨドリの囀りが聴こえ、静かな砲台跡の林間に響き渡る。ヒヨヒヨと聞こえる可愛らしい囀りがそよぐ樹冠の音と相まって、なんとも心地よい音色を奏でている。ところが、突然、緊張感のある高音の金切り声が周囲をピリつかせた。周囲の仲間に天敵がいることを知らせる特徴的な囀りである。
どうやら近くに彼らにとっての脅威がいるようだ。

樹冠の隙間から覗き込むように目をやると、仰々しく翼を広げ滑空するトビが隙間を横切った。下から見上げる私を鋭い目付きで吟味するように睨みつけ、その後、速度を上げて海辺の方へ飛び去っていった。私が食べ物を持たない無一文に見えたのだろうか。

頭上を滑翔するトビ。
向こうも私を認識しているのか、たまに目が合う。

遺跡群の森を抜けると、沿岸部の遊歩道へ辿り着く。冷たい海風に煽られ、鼻水を我慢しながら海を眺めていると、眼前に血気盛んに飛び交うミズナギドリの群勢が目に飛び込んだ。全体で見れば数百羽のなかなか大規模な群れが、沖合から沿岸部の方へ続々と流れ着いてきている。海中に魚群がいるのだろうか、一心不乱に水面にダイブし、乱気流のように飛翔する勢い激しさに、思わず意表を突かれた。

海鳥の壮大な食事風景は、豊かな海を象徴する自然の美と言えるだろう。

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