見出し画像

小説「対抗運動」第5章2 ものの値段・・・「転形問題」

舞ちゃん「おいさん、考えたんやけどね、フェアトレードしょう思たら市民通貨が要るね。」

おいさん「・・・・・」

舞ちゃん「私が貯金使うて仕入れたら、何倍も儲けてしまうことになるよ。バングラデシュの人らは1カ月2000円位の賃金で働いとるんやから。」

おいさん「そうじゃね。国内で仕入れるより格安で仕入れることができるね。けど、儲かるかどうかはわからんよ。舞ちゃんが仕入れに使うたお金より高く売ることができんとね。売れるじゃろか。」

舞ちゃん「もうちょっと聞いて。私が言うとるのは、儲けのことやないんよ。フェアーな交換のことなんよ。おいさん、言うたね、経済は交換のことなんや、と。ほしたら、今の通貨使うとったら、絶対フェアーやない。最初から、バングラデシュの人らの何十倍も、何百倍もの価値がある通貨持っとるんやから。けど、両方が市民通貨やったらうまいこといくんやない?」

おいさん「舞ちゃん、おいさんも、それが今のとこ唯一の方法やと思う。ものの値段には大きなカラクリがあるけんね。皆、価値が等しいから交換するんや、と考えとるけど、逆なんや。交換した後で価値が等しかったと考えだすんや。違うものどうし、同じ価値があるかどうか、本当はわからせん。マルクスのおいさんは、人は意識しないがそう行なう、と言うとる。」

舞ちゃん「えっ?フェアー、いうんは同じ労力をかけとるものどうしを交換するんと違うん?」

おいさん「舞ちゃん、交換した後からはそういうことが考えられるけど、交換できるかどうかわからんのじゃから、交換する前に、そうは言えん。どんなに労力をかけても、交換できんと価値は生まれん。」

舞ちゃん「むつかしいね。」

おいさん「大問題じゃ。剰余価値、て聞いたことある?」

舞ちゃん「聞いたことはあるよ。価値は人の労働からしか生まれんけど、設備や資金を持っとる者が、人を雇って、賃金以上の生産を上げるから生まれるんじゃろ?」

おいさん「皆、そう考えとるけど、マルクスのおいさんが考えたんはちょっと違うんじゃ。複数の地域、産業分野、そして国もそうじゃが、複数の体系を考えんと剰余価値は解らんのじゃ。それぞれの地域で価値体系がちがう。じゃから、安いとこで買って高いとこで売ることができる。これが基本じゃ。舞ちゃんの言うのが剰余価値なら、完全オートメーションのとこでは人がおらんのじゃから、剰余価値は生まれんよ。また、おんなじ業界内でも、やり方を工夫したり効率よい設備をいち早く導入したりして、いままでより安く生産できるようになっても、ほかのところが追いついてくるまでは、これまでより多く利益をえることができるね。これも、複数の体系ができたからじゃ。進んだとこは、遅れたままのとこと違う体系を作りだしたんじゃ。」

舞ちゃん「だいぶ解りだした・・・」

おいさん「はっきりさせんといかんのは、剰余価値は一つの会社だけ見てもわからん、いうことや。そこが死ぬほど従業員を働かせとっても、剰余価値が多いか少ないかわからん。価値は確かに人の労働からしか生まれん。けど、人の労働がすべて価値になるんやない。交換されんと、つまり製品が売れなんだら、無駄な労働になる。剰余価値は、総体としてしか把握できん。たとえばね、自動車業界、とかね。業界全体でどのくらい、とはじめて言える。そして、それが、値段を通して、各企業に分配されとる、と考えられるんじゃ。ある会社は設備投資に成功しとるから、もっと安う売っても採算が取れるが、自動車の値段は大体相場がその時々で決まるけんね。ある会社は本当はもっと高く売らんとやっていけん。けど、そんなことしたら、売れんようになるけん、倒産してしまう。そして、倒産してしまう会社も出る。皆はこの現象を見て、どこが利益を多く出した、少なく出したと言いよるけど、本当は総体としての剰余価値が値段を通して分配されとるんじゃね。ほうじゃないと、なぜ、完全オートメーションに近なりよる会社から大きな利益がでるか理解できん。  
個別企業の利益は、総体としての剰余価値の分配なんじゃ。そして、このことは、本当は業界のことだけ考えたんじゃ、不十分なんじゃ。異なる業界の間でも同じ原理で剰余価値が分配されよるけんね。どうしてかというと、業界間の利潤率の差があったら、皆儲かる方へ投資して、あんまり儲からん方からは資金を引き上げるけんね。同じような利潤率に落ち着くまでこういう運動が続く。さらに、一つの国の中のことだけ考えてもアカンのじゃ。世界の経済はつながっとるけん、総体としての剰余価値を考えるためには、総体としての世界経済を考えんとアカン。そしたら、はじめて、なんでバングラデシュの100倍も200倍も賃金がもらえるんか、見えてくる。
けど、原理は同じじゃ。一つの自動車会社を一つの業界、あるいは国と置き換えるだけじゃけんね。」

舞ちゃん「おいさん、そんなこと全部考えないかんの?」

おいさん「そうせな、世界のカラクリは解らんのじゃ。わからんと、何で市民通貨じゃないとアカンか人に説明できん。」

続く
執筆:飛彈ゴロウ、2003年6月5日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?