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小説「対抗運動」第6章5 キューバ

舞ちゃん「おいさん、外国へ行ったことある?」

おいさん「あるよ。なんで?」

舞ちゃん「フェアトレードのこと考えとったら、うちは外国のこと何にも知らんのに気がついた。あははは。」

おいさん「そうじゃね、チャンスがあったら行といた方がええね。思わん体験するけんね。おいさんは10年くらい前、ベニスに行く機会があったんじゃが、空港に着いたのが夜遅くで、ヤミのモーターボートみたいなので空港から市街地へ行ったんじゃ。そしたら、海の真中でボート止められて、ゴツイおやじが突然料金表つきつけてくるんじゃ。あっちゃー、白タクかいね、と観念した。けど、あんまり高ないんじゃ。どうも、向うの方が、こっちのことを、うさんくさいヤツじゃと思うて、ちゃんと支払いするか念押ししたんじゃろね。ははは。けど、本当に驚いたんは、着岸したときじゃ。自動小銃を持った黒装束の兵士が、闇の中から、何人も駆け寄ってきた。闇にまぎれて密輸でもあるんじゃろうね。」

舞ちゃん「怖いね。」

おいさん「怖かったよ。一昨年韓国に行た時も、自動小銃下げた兵士が5人ずつくらいで空港をくまなく巡回しとった。おいさんは、用事があって、ソウルをとりまく低い山地を歩き回ったんじゃが、至るところに塹壕があったんでびっくりした。見晴らしのええ小高いとこには、必ず歩哨がおったよ。山歩きしもって気が気じゃなかった。」

舞ちゃん「ふーん。どこにでも兵士はおるんじゃね。」

おいさん「舞ちゃん、日本の中にだけおったら、分からんことはいっぱいあるよ。意志の疎通も、外国でやると、驚くほどむつかしいよ。チャンスがあったら行といた方がええ。」

舞ちゃん「キューバへ行こかと思とんよ。今度、生協のツアーがあってね。キューバは有機農業が随分進んどるみたいなんや。うち、ダンスも好きやし。村上龍の『Kyoko』も何回も読んだ。」

おいさん「ほうか。今年、カストロ議長は広島に来たね。同じ社会主義国でも、北朝鮮と違うてキューバに行きたいいう人は多いじゃろね。おいさんもキューバ野球のファンじゃよ。走り高飛びのソトマイヨールもカッコええね。あとね、カルペンティエールいう作家の小説はええよ。『春の祭典』読んだら革命前後の雰囲気がようわかる。ヒロインは亡命ロシア人でバレーの先生なんや。気に入ると思うよ。」

続く
執筆:飛彈ゴロウ、2003年8月30日

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