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小説「対抗運動」第2章4 大豆

おいさん「「舞ちゃん、きのう、日比谷は4万人参加やったよ。だいぶ迫力でてきたよ。舞ちゃんみたいな女の子もいっぱい来たよ。プラカードもええのんが多なった。おいさんはネモッちゃんの力作持ったよ。ブッシュ政権に献金しとる企業のロゴを星条旗の星の代わりにちりばめたやつじゃ。何人ものアメリカ人から聞かれたよ。何でこれらの企業をボイコットするんだ、と。おいさんがニヤニヤしとったら、隣で音楽やっとった川嶋センセが上手に説明しよった。皆、納得しよったよ。川嶋センセは堂々と英語あやつるけんね。それにしてもネモッちゃんのプラカードは抜群やったね。大きさといい、色具合といい。仰山、写真とられたよ。モンサントのロゴもこれでちょっとは有名になったかな。ター博士はね、楽隊でアコーディオンひきよったけど、これらの企業名を織り込んだ替え歌をつくっとったよ。ビートルズの曲でね。なかなかのもんやった。モンサントも入っとったよ。」

舞ちゃん「おいさん、田舎はまだまだや。友達にデモしょうや、いうとみな尻込みするんよ。まだ恥ずかしんやと。しょうゆのボイコットも、ふーんというだけや。原材料名のとこに脱脂加工大豆と書いてあるんは、モンサントのMGOを使うとると宣言しとるみたいなもんやから、うちらもボイコットせないかんのやけど。」

おいさん「舞ちゃん、ボイコットするためには他で買えんとあかんのや。大豆は情けないほど国内産が少ないんや。あと、丸大豆100%使用のしょうゆは結構高いよ。」

舞ちゃん「そんなん知っとるよ。ほいでもボイコットせんと、デモだけやったら無視されてしまうやん。」

おいさん「舞ちゃん、その通りや。けど、むつかしいよ。ボイコットと同時に大豆を農家につくってもらう運動も必要なんよ。ええ大豆がたっぷりあったら、しょうゆ作る企業もそれで作れるけんね。そしたら初めてモンサントへのボイコットが一つできるんじゃがね。新庄の農家は皆つくってくれよる。それは大豆トラスト運動が地道に育ってきたからなんよ。今、政府も助成金だしよるけどね。そんなんは一時のことじゃ。大事なんは、消費者が国内産が欲しいとはっきり言うことじゃ。情報公開のない遺伝子組み替え大豆は気持ち悪い。国内で、なるべく無農薬のを作ってくれ、買うけん、とね。商社は買いたたくけん、道理がわかった人は直接支援したほうがええ。大豆トラスト運動はそうやって盛り上がってきよる。ちょっとずつやけどね。」

舞ちゃん「おいさん、ほかのはどうなん?マイクロソフトなんかは?」

おいさん「それは、しげしげプラカード見よった人が皆こまっとったよ。アップルも評判ようないしね。うーんとね。リナックスがあるよ、と答えるとね、あれは操作がむつかしいんじゃない?誰でもが使えるん?こう言いよるね。まあ、ちょっとずつや。しかし変えていかんとね。オープンソースいうんは画期的なことや。情報公開が科学の原動力やいうんを思い出させてくれた。それを地道に宣伝していかんとね。知的所有権を保護するからこそ科学は発展する、こういう考えが今は最悪に作用しとるね。パテント取って儲けることばっかり考えとるけん、秘密だらけじゃ。ものすごく停滞しとると思うよ。情報公開が一番の科学発展の基礎なんやと、今は考えんとね。リナックスはマイクロソフトを追い抜くよ。科学いうんは非情なもんや。」

舞ちゃん「ふーん。」

おいさん「舞ちゃん、大学行ったらきっとカントを勉強するよ。理性いうんは非情なもんやとカントのおいさんは教えてくれるよ。皆が、その時々の事情で、一時は反対しても、ちょっとずつ乗り越えられていくんや、と。今の国連の元になったんもカントの考えや。皆、そんなんは空想やと、つい100年前、いや50年前は思うとったけど、今は無視できん。アメリカ政府は無視するといいよるけどね。たとえ今回強引に無視しても、後悔するんはアメリカ政府や。理性は怖いで。舞ちゃんもおいさんも、誰でも持っとる理性や。これは、ちょっとずつ理想を実現していくけんね。」

続く
執筆:飛彈ゴロウ、2003年3月10日

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