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最低賃金が30円上がる月給はどうなるか

 高卒就職問題研究のtransactorlaboです。
 前回に続いて賃上げの波が高卒賃金にどのような影響を与えるかの話です。

(タイトル画像は2022年7月の東京都高卒求人の度数散布図。縦軸は年間休日数、横軸は月給。赤い点は平均値118日18.9万円)

 過去3年間、最低賃金(正確には「地域別最低賃金時給」)は、だいたいどこの地域でも30円ずつのペースで上がってきています。3年間でほぼ100円近く上がった計算になります。

 この最低賃金の上昇は、時給制のアルバイトやパートで働く方々にとってはダイレクトに収入に影響するので実感がある方も多いでしょう。しかし、3年間で100円上がったといっても月給制で働く人にとってはとくにいいことはないと感じる方が多いのではないでしょうか。給料は少し上がったかもしれませんが、物価上昇のほうが強くて生活が楽になった感じはほとんどない。

 そもそも最低賃金とは、労働基準法が定める「雇用者はこれを下回る賃金で働かせてはならない」という最低ラインです。もし、違反したらその雇用者は最悪の場合30万円以下の罰金を科せられるというものです。

 私は数年来、高卒求人の研究をしていますが、そのなかで「高卒求人の月給平均は最低賃金月給の15%増し」という法則(?)を発見しました。
最低賃金月給とは、その地域の最低賃金時給に一ヶ月あたりの標準的な労働時間(157.3時間)をかけた金額です。

 週休2日制で年間52.1週だと、年間休日数は104.2日。365日を引いて12で割ると月平均労働日数21.7日となります。1日8時間から標準的な休憩時間45分を引いて7.25時間。最低賃金時給が860円の地域での最低賃金月給は以下のようになります。

860円×7.25時間×21.7日=135,299円

 これに1.15をかけると約15万5000円になります。だいたいどこの地域でも大量に高卒求人票を集めて月給の平均を出すと、最低賃金月給の15%増しぐらいに収まります。もちろん、びっくりするぐらいの高給の求人もありますが、平均すればだいたいそのようになります。

 高卒就職市場の求人倍率は3倍を超える超売り手市場の状態が続いていますが、賃金平均は最低賃金の上昇に沿う程度の上昇しかしておりません。一般に「高卒賃金は最賃に貼り付く」と言われる現象で、私がいつも「高卒就職市場の不健全性」と言うのもこれです。

 この高卒賃金が最低賃金に引っ張られる傾向が強いことの要因は、高卒求人情報へのアクセス権に関する独特のルールだと私は見ております。そのルールとは、高卒求人情報に接することができるのは原則、仲介者である教職員と求職者である就職希望高校生に限る、というものです。求人側は見ることができないのです。

 これでは、求人側の意識が「とりあえず最賃チェックをクリアすること」に意識が向くのが当たり前ですよね。

 高卒賃金は一般労働者の賃金体系のベースです。働く若者の所得向上には高卒求人情報の公開度を高めるようルール改正が不可欠なのであります。

 さて、最低賃金が30円上がると月給はどうなるか、ですが、前述の計算式にあてはめてみてください。

 30円×7.25時間×21.7日=4,719円

  月給ではだいたい4800円ぐらい。つまり、最賃チェックラインがそれぐらい上がるということになります。この影響を考えると、先ほどの最賃860円だった地域の高卒の月給平均は16万円ぐらいになると思われます。

 しかし、少子化の影響により求人倍率はさらに上がりますので応募を獲得できるラインはさらに2割増しの20万円近くになるのではないかと予測しています。

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