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そっと撫でた背中から伝わる悲しみ -ボウキョウによせて- 第七話

1.3 

 俺がもっと慎重に決断していれば。もっと麗愛に寄り添っていれば――

「土地の話をしてる時……『跡継ぎもまだ生まれてないのに』って言ったのが、嫌でした、我慢できませんでした。あたし達の苦労なんて知らないくせに……って」

 小刻みに震えながら、目に溜めた涙をこぼさないようにしながら、お袋に向かってゆっくり言葉を選ぶ麗愛を目の当たりにして、ハッとした。麗愛が抱いてきた苦しみは、俺のものとは比べものにならないものだったのだ。俺は、それに気づいてやれなかった。その苦しみを、分かち合っていたつもりになっていた。愕然とした。

 麗愛が許せなかったというお袋の発言だって、いつもの口の悪さが出たくらいにしか捉えてしまっていた。でもそれじゃダメなんだ。もっと、麗愛の声に耳を傾けるべきなんだ。

 こちらは南葦ミトさんが連載されている長編小説「ボウキョウ」第七話から発想を得て書いた二次創作物です。

 今回は主人公の中村充希の伯父、康の視点でミニサイドストーリーを書きました。(麗愛:中村充希の伯母)

⌘ 

 「ボウキョウ」サイドストーリーの創作は、これまで第一話から第六話まで公開していましたが、今回の第七話分は、前回の第六話目からなんと五ヶ月も経っての更新となってしまいました。

 するすると書けなかった理由は自分で分かっています。ボウキョウの中で、この第七話が私にとって一番大切なお話であり、迂闊に書き進められないと感じていたことが大きな一因でした。

 しかし昨日の11時半頃、大きな地震が起こりました。震源地は、また福島県沖。東日本大震災を彷彿とさせるその揺れを感じながら、筆を止めている場合ではないという気持ちに駆られました。

 福島第一原発では、今回の地震によって使用済み核燃料プールから少量の水が溢れたそうです。現時点では大きな事態に繋がってはいないというニュアンスの記載がありましたが、手放しで喜んでいいことではないと受け止めています。

 ミトさんの小説を手がかりに、昨日のことを、あの日のことを、いつまでも忘れないでおくこと。無関心でいないこと。周りに伝え続けること。これからもそうしていこうと思うのです。


「ボウキョウによせて」とは

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ここまでお読みいただきありがとうございました。 いただいた御恩は忘れません。