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山下英治さんの第四詩集「小川のせせらぎのように」から溢れる音楽のこと

 山下英治さんの第四詩集「小川のせせらぎのように」。彼の詩集の帯文を書くため、いただいた草稿を眺めているとあることに気づく。それはこれまでの詩集より、様々な音と音楽に溢れているということ。
 特に音楽については、具体的な曲が引用されている詩が三つも存在しているのだが、こういった作風は第四詩集から初めて見ることができる。


 私はこの三つの詩に出てくるそれぞれの曲が、第四詩集を大きく形つくる要素となっているのではないかと考えている。そこで今回は、それらの曲との出会いについて、英治さんにお伺いすることとした。


詩「小悪魔」の一曲目

――この「小悪魔」には、「That’s on me」というフレーズが繰り返されていますね。読んでいてとても印象的でした。曲名と作者を教えてください。

英治さん:曲名はそのまま「That’s on me」。作者はMac Millerです。


――この曲を知ったきっかけはどういったものなのでしょう?

英治さん:今年の5月頃に、アマチュアのミュージシャンの方がこの曲をカバーして弾き語るヴィデオを見ました。メロディーを聞いた時、これは詩に出来る、と思いました。


――なるほど、インスピレーションが湧いた、という感覚ですね。私の場合は何かに触れてパッと構想が浮かび上がるという経験が少ないので、少し羨ましく感じます。


詩「うたたね」の二曲目

――「うたたね」では、「I’ve been here before」というフレーズが出てきました。

英治さん:はい。Matthew Halsall作の、「Been Here Before」という曲です。こちらも5月頃に出会いました。NHKのFMに、世界の快適音楽セレクションというラジオ番組があるのですが、その再放送を聞いたのがきっかけです。


毎週月曜日午後4時からのゴンチチのラジオ番組「世界の快適音楽セレクション」(NHK-FM)


――詳しく教えてくださりありがとうございます。英治さんは毎日ラジオで聞いた曲のリストをTwitterで投稿されていますよね。普段から音楽に囲まれて過ごされている様子が想像できます。

英治さん:この曲については、透析中に聴いて、一番印象に残ったので帰ってからすぐ調べましたね。ただ、この曲目を詩の中に入れようとふと思い立ったのは、「うたたね」を制作していた時です。



詩「交響曲第5番嬰ハ短調第4楽章アダージェット/マーラー」の三曲目

――この詩に関しては、曲名がそのまま詩のタイトルとなっていますね。

英治さん:はい。この曲は、ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「ヴェニスに死す」のテーマに使われていて、気になって少し調べたんです。
 様々な演奏を聴く中で、サイモンラトル指揮のベルリンフィルのヴァージョンに出会いました。非常に感銘を受けて何度も何度も聴きました。それほどまでに感動したんです。その体験を詩にしました。


――なるほど。その体験を丸ごと詩に書き起こした作品だからこそ、曲名が詩のタイトルになっているのですね。ちなみに、普段詩をつくられている際、どのような音楽を聞かれますか?

英治さん:詩を作っている時にかかっているラジオなどを聴いてますので、その時々で違います。ただマーラーの詩は詩を作るためにYoutubeを何度か聴きこみました。


詩集から溢れ出す音楽について

――今回の英治さんの詩集には、様々な音やメロディーを彷彿とさせる一節がありますね。もしこれまでお尋ねした三曲の他にも、モチーフとなっている曲などがあれば、是非教えてください。

英治さん:詩「せせらぎ」ではボサノヴァをイメージして取り入れています。一方、「メロディーラインを見つめて」では詩のタイトルからメロディーという言葉がありますが、特にどの曲という事はありません。


――そうなんですね、実に興味深いです。ボサノヴァを掛けながらもう一度「せせらぎ」を味わいたくなってきました。「せせらぎ」のように、あるジャンルの曲調をイメージした詩というのは、他にもありますか?
 
英治さん:詩「眠り」では、「静かなジャズピアノの音色に/包まれて/眠りがそっと/襲ってくる」とあります。特にどの曲と言うのはありませんが、ジャズと限定はしています。
 詩「春の海」で出てくる音楽は、クラブなどでかかっているハウス系の音楽をイメージして書きました。


――またしても読み返したい詩が増えました。今回お聞きしたことで、普段からラジオなどを介して幅広い音楽に触れることは、新たな発想を生み出すきっかけのひとつになることを学びました。英治さん、ありがとうございました。



 

 英治さんが音楽と共に日々を過ごされた時間の積み重ねが、まるでコップに注がれる水のように溜まってゆき、様々な音やメロディーに溢れた第四詩集が出来上がった。今回のインタビューを通して私はそう感じ取った。

 詩集「小川のせせらぎ」を手に取られた方は是非、今回登場した三曲や様々な音楽を背景に、それぞれの詩を味わっていただければと思う。



 これまで書いた英治さんの詩集に関する文章は、こちらでまとめてご覧いただけます。英治さん、マガジン作成ありがとうございました。


ここまでお読みいただきありがとうございました。 いただいた御恩は忘れません。