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健やかに働き生きるために新しい"ふつう"を創造する『山の上のパン屋に人が集まるわけ』

青山ブックセンターに山積みされていたこの書籍。元パン屋経営者として気になるタイトルだけでなく、凝った装丁に編集者の思い入れを感じ、思わず手に取って一気に読んだ。

自分にとって健やかな働き方を探す

子どものころから独特な感じ方、考え方をしていた著者の平田はるかさん。なかなか周りに馴染めなかった。中学生から「働く」ことについて考え、働いて自分のほしいものを手にしていく。学校に馴染めない平田さんだったが、職場では自分の存在を認めてもらえるという実感を得ていた。

世の中の"普通"に従うことが我慢ならない彼女が辿り着いたのは、夫と暮らすために移住した長野県の山の上。彼女はそこでパンと日用品の店「わざわざ」を始めた。

長野の山の上のパン屋であることから、オープン当初からブログやSNSでの発信に力を入れた「わざわざ」。平田さんの日々の努力の甲斐あって、店名のとおり、わざわざやって来てくれるお客さんが増えていった。

現在では年商3億円という「わざわざ」。しかし、『山の上のパン屋に人が集まるわけ』を読んでも平田さんの経営をマネできるわけではない。書籍の中にも「経営に正解はない」と記されている。

この書籍から学べるのは、「健やかな働き方」。つまりは、生き方。
個人で仕事をするということは、あらゆることを自分でしなければならない。個人で仕事をしている人の多くは、マンパワー不足を補うため長時間労働をする。休みがないことも珍しくない。そこまでやっても、「まだだ。もっとあれもしないと、これもしないと」と、ワーカホリックになっていく。仕事が趣味みたいなものであれば健やかでいられるだろうが、そうでないこともよくある。

平田さんのすごいところは、自分や会社が健やかでいられる環境を、その時々によって見つめ直し、世の中の普通と違うと思われても、自分なりの普通を創り出し実践してきたことだ。普通や健やかの基準は人によって違う。自分が健やかでいられる働き方を考え、ときには人が離れていってしまうとしてもその働き方を信じて進めていく。そうして、「わざわざ」はひとつの価値観となっていった。

「街の人たちの健康的な暮らしに少しでも役に立てたらうれしい」と身を粉にして働き、ついには身体を壊して辞めることになった私には、気づきのある本だった。

自分の性質や考え方は変えられない部分がある。それを無理に世の中の常識や平均に合わせれば、それによって生まれた歪みにいつか苦しめられる日が来る。それをうまく受け流せる人もいれば、そうでない人もいる。

受け流せない人は、自分なりの健やかな働き方を探す、または、つくっていくしかない。というか、つくっていけばそれでいいのだ。

自分の性質をよく知ること。
自分に合わないことをできるだけ避けること。
仕事として何かしら納得(満足)できることをすること。
自分と向き合い、自分の思いを表現できるようにすること。

そうすれば、世の中の普通と違っている人も健やかに暮らしていける地盤をつくれるのではないだろうかと思う。

誰かに向けて書いた記事だけど、自分に向けて書いたのかなと、書いてみて思った。

文=一瀬立子

『山の上のパン屋に人が集まるわけ」👇




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