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DIG 001-経営者が考える”働く場”を深掘り  WED株式会社 山内奏人さん


■What’s DIG?

スタートアップを中心に数々の企業のオフィス作りをお手伝いしているトレイルヘッズ。
オフィス空間とひとくちに言っても、単なる働く場にとどまらず、その企業が目指す姿、理想のチームや働き方、そして大切にする価値観がしっかりと込められています。
そんな「オフィス作りを通して見えてくる企業の価値観や美意識、哲学から未来像までを、経営者インタビューを通して掘り下げていこうという新企画「DIG」
インタビューは、トレイルヘッズの栗井がつとめます。普段はクライアント企業のオフィス作りにデザインディレクション/プロジェクトマネジメントとして携わっています。
これからの働き方を考えたい方、オフィスを創ろうと考えている方の参考になればと思っています。

初回のベンチャー経営者は、お金がもらえるお買い物アプリ「ONE」などを提供するWED株式会社の山内奏人さんにお話を伺いました。

▼プロフィール
WED株式会社 CEO 山内奏人さん
2001年、東京生まれ。6歳のとき父親からもらったパソコンで、10歳からプログラミングの独学をはじめる。2012年に「中高生国際Rubyプログラミングコンテスト」の15歳以下の部で最優秀賞を受賞。16年にはウォルト株式会社(旧ワンファイナンシャル株式会社、現WED株式会社)を創業。18年6月にレシート買取アプリ『ONE(ワン)』をリリース

WED株式会社 CEO 山内奏人さん

■オフィス作りで意識していること

Q.今回の物件含めてこれまで3回ご一緒させて頂きました。
改めて山内さんはいつもどんなことを考えてオフィスを作っていますか。

山内)
いつも「器(うつわ)性」について考えています。その器の中で何を生み出すのかが主体だと考えていて、その容器になりうる環境を「ちゃんと作ること」をいつも意識しています。

「器」は言い換えると「道具」だと思っていて、その場所や空間が何を生み出すのに最適な場所なのかを”定義しないこと”が大事だと考えてます。つまり、用途を規定しない空間設計が大事であると僕は考えています。

WEDのアイデンティティを考えるときにも意識していたのですが、「文化をあまり定義したくない」というカルチャーが僕たちにはあります。例えば日本っぽい、サンフランシスコっぽいような、どこかの場所をイメージさせるような要素をなくすことで、”自分達はどの文化にも馴染めるという態度”を示せると思っています。

コンセプトはBeautiful Chaos

栗井)
今回のオフィスにも今の内容がよく反映されていると思います。
まさに今回のコンセプトのBeatiful Chaosと山内さんの考え方がフィットしているなと。
文化を定義しない=目指しているものがあるというわけではなく、何者にも自分達はなれるということですよね。

山内)
まさにその通りですね。
元々会社の成り立ちとして、作りたいものを決めてから作った会社ではないというのはあります。実際にMission/Vision/Value(以下MVV)は会社として定義していなくて、僕らが、その時に一番作りたいと思ったものを作ることを重視しています。誰かに対して届けたいというより、自分達がその時作りたいものを作って、世の中に届ける。そういうカルチャーが僕たちにはあります。

栗井)
確かにプロジェクトを進行する際に、
他社の場合はMVVや課題感から目指す場所を紐解いていくことをすることが多いのですが、今回のプロジェクトではそのやりとりがほとんどなかった気がします。
「今、自分達はこういうものを作りたいです」というご要望に対して提案することが多かったですね。

山内)
そうでしたね。
ただ、うちの会社にMVVや目指す目的地はないですが、僕たちはこういう姿勢でものづくりをしたいという、ある種ボトムアップ的な言葉で態度や姿勢・宣言を示しています。今回もそこを意識して新たなオフィスを考えていました。

栗井)
なるほどですね。
段々と山内さんの空間に対しての考え方が見えてきたところで次の質問に進ませていただきます。

■働き方について

Q.今回作った空間において、メンバーにはどういう働き方を求めていますか。

山内)
大きく2つあります。
・リラックスしすぎず、緊張しすぎず、バランスの取れた働き方をしてほしい
・コラボレーションを楽しんでほしい

みなさん同じかと思いますが、コロナ禍の前後で働き方が変わりました。コロナ禍でフルリモートになりましたが、家はリラックスしすぎる環境なんですよね。一方で出社をするとオフィスは緊張感を持たせてしまう。どちらかに偏るのではなく「リラックスしすぎず、緊張させすぎない」という空間作りが、これからオフィスで働くメンバーには必要だと思っています。

またコラボレーションを楽しんでほしいと考えています。オフィスにくる目的はただ一人で働くことだけではない。僕たちの姿勢の一つとして、「一人ではできないことをしよう」というものがあります。オフィスにいる誰かとコミュニケーションを取り、積極的にコラボレーションをしてほしいですね。

可動式の家具を用いて働く場所を決め切らない

栗井)
山内さんのおっしゃる通り、コロナ禍で働き方とオフィスにいく目的が大きく変わりましたよね。実際に今のオフィスができてから社員の方の出社率は上がってますか。

山内)
以前と比べて、明確に出社率が上がりました。行く目的があるというのもあると思いますが、自分達の会社やその空間で働けていることに誇りを持つ人が増えた印象です。

栗井)
そうなんですね。社員の方も誇りを感じることのできる空間をお手伝いできて本当に嬉しいです。
少し話は変わりますが、社員の方から茶室が人気だと伺いました。今回のオフィスの中でも特徴的な場所の一つだと思いますが、実際にどういう活用をされているのでしょうか。

山内)
社員同士もそうですし、僕と社員とのコミュニケーションの場にもなっています。年々社員数が増えてきて、現場で全員と話す機会が減ってはいますが、この茶室ではその時間を作ることができます。例えば社員から茶葉をお土産にもらい、僕がお茶を立ててたわいもない会話ができる時間は大事だなと最近感じてます。そういう時間を作れるという意味でも、茶室をオフィスに作るのはいいことだと思っています。


コミュニケーションを促すために設けた概念を超えた茶室空間

栗井)
とてもいい時間があの中で生まれているのが想像できます。コミュニケーションの場としての活用という意味でいくと社外の方ともあの場所を使われることはあるのでしょうか。

山内)
そうですね。
採用の候補者を囲んで話したりする場としても活用しています。
茶室は本来、ホストとゲストの位置が決まっていますが、今回の茶室はその部分の概念を変えてみました。ゲストがホスト側、ホストがゲスト側になることで採用候補者(ゲスト)の座談会みたいなことがあの空間で生まれるようになりました。

こういう、作り手が想定しない使われ方を楽しむ”誤用””誤読”を僕たちはサービスを作る時にも意識していて、それがオフィスにも取り入れることができたいい例かなと思います。

栗井)
サービスを作る時に意識していることがオフィスにも出てくるって面白いですね。
茶室続きになりますが、前回の茶室は閉じていましたが今回は開放的なデザイン。この違いは何か理由があるのでしょうか。

前回手がけた茶室空間

山内)
先ほどの話とも繋がりますが、働き方の変化ですね。前回オフィスを作ったときはフル出社だったので、茶室は外部と遮断して、落ち着けたり、集中できたりと心身ともにフォーカスすることができる空間を生みました。
ただコロナ禍でコミュニケーションを重視するようになったので茶室の捉え方を変えました。壁で仕切るのではなく、中が見えるよう透明なカーテンを設置しオープンな印象に。社員からも視線がいくような場所に配置したり、移動できるようにしたりとかなり前回から変化したかと思ってます。

栗井)
なるほど、働き方の変化が茶室にもオフィスにも影響を与えているのですね。
外から見ていて、あの人が今お茶を飲んでいるから私も行こうかなと思わせられる仕組みになってますね。

山内)
ちなみに交流の意味では、オフィスでお酒を飲める時間を最近変えました。
以前は18時以降でしたが、今は16時以降にしています。せっかく出社するのだから、対面でできることに比重をおきたいですよね。

栗井)
素晴らしいですね、WEDさんと打ち合わせする際は16時以降にオフィスで行うように今後させてください(笑)
ここまで話を聞いてきて、WEDさんのサービスを作る時に意識していることがオフィスデザインに反映されているなと改めて感じました。ここで次の質問に移ります。

■オフィス作りとサービスの関係性

Q.今回のオフィス作りと、御社のサービスをつくる時の思想で、共通点はありますか?

山内)
まず僕らがサービスを作る上で意識しているのは、端的にいうとロジックよりも感情です。
先ほどもお伝えしましたが、その時に感じたことを大切にしています。
今回のオフィスコンセプト「Beatiful Chaos」は、境界と境界を曖昧にしていることがポイントですね。エントランスはダイクロイックフィルムを一面に貼り、反射し合うためどこまで空間が続くのかわからない印象を与えています。ワークスペースでは各スペースにアクセスするときに色のトーンやニュアンスを変えることで、間仕切りがなくても個室という概念を感じることができるようにしていたりします。こういう部分は、ロジックよりも感情を意識したかなと改めて思いますね。
ただデザイン検討期間はパースやイメージ写真でしか判断できないので、こういった感覚で作って受け入れられるかは正直チャレンジングでした。

境界を曖昧にした表現

栗井)
かなりチャレンジングなことをやりきったオフィスになったと僕も思います。
工事期間中から撮影まで、かなりテンションの上がるプロジェクトでした!家具も可動しやすいものにしたことで、常にアップデートできる、変わっていけるというWEDさんの姿勢を表現できたなと思います。

山内)
今やりたいことをやり切れたオフィスだなと思いますね。あとはプロダクト作りで意識している点も出せたと思っています。パーフェクトなものを作るけど、使い方は使い手に委ねることが大事だと考えています。使い手によっては戸惑うかもしれないけど、それが狙いのひとつでもあります。戸惑わせることで遊びが生まれるんですよね。考えさせたいんです。

栗井)
戸惑わせたいという点で言うと、今回はワークチェアではなく全てダイニングチェアを入れるとなった時は戸惑いました。
実際10種類以上のチェアをセレクトさせていただきましたが、社員の方々はどんな印象を受けていますか。

執務エリアにはデザインの異なるチェアが10種類以上

山内)
チェアにはやっぱり人気不人気はありますが、それも含めて楽しんでもらう・選択肢があることの楽しさやワクワクを感じてもらうという点ではよかったなと思います。その日だけでも別の椅子に座ってみようかなとか気分転換にもなると思いますし。ただこれは、フル出社ではなくリモートも併用しているのでチャレンジできたことではありますね。

栗井)
いや〜あれだけいいチェアが選べるって僕からしたら最高の戸惑いです。WEDさんのオフィスに出社させてください。
フル出社ではないからこそできたチャレンジが実はもう一つありますよね。執務空間の電源を無くしてモバイルバッテリーで賄うこと。
これはやりたくてもなかなかできないことだと思っています。

山内)
そうですね。最初の社員の反応としては少し抵抗がありましたし、反応も良くはなかったです。ただやってみるといいと感じてくれました。
電源から解放されることで働く場所が自由になりますからね。電源だけでなく、モニターも持ち運びできるようなものを使用していたのもあるので簡単に実施できた気がします。
モニターがデスク上に並んでいないと、みんなの顔も見れるので仕事もしやすいですよ。

執務エリア内には電源がなく、モバイルバッテリーを持ち歩いて働く

■今後のオフィスについて

Q.今後どういうオフィスを作りたいですか

山内)
物理的に規模のでかいオフィスを作っていきたいという気持ちを日々持っています。
僕たちはプロダクトやサービスを作りたい人が多いですからね。例えばですが、デジタルアートを物理的に体験できる空間とかそう言う話はしたりしてますね。今までのように作っていただくのはもちろんですが、自分達でも表現できるようなことをしたいと考えています。

栗井)
デジタルアート、ぜひ体感したいです。
WEDさんのこれからの見せ方を引き続きお手伝いできると嬉しいです。
最後になりましたが、貴重なお時間をいただきありがとうございました!

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