営業秘密ラボ
CC-Linkの普及から考える知財戦略  ー知財戦略カスケードダウンへの当てはめー
見出し画像

CC-Linkの普及から考える知財戦略  ー知財戦略カスケードダウンへの当てはめー

営業秘密ラボ

<1.CC-Linkの概要>

CC-Linkとは、三菱電機が開発したオープンな産業用ネットワークであり、マスタ局とスレーブ局とがオープンフィールドネットワークであるフィールドバスで接続され、マスタ局とスレーブ局との間でデータ通信を行うものです(現在はスレーブ局という呼び名をデバイス局としています。「CC-Link協会2021年11月30日お知らせより」)


このCC-Linkの普及のためにCC-Link協会が発足しており、そこにはCC-Linkが以下のように紹介されています。


1990年代に入り、工場の自動化への要求の高まりと、生産ラインの複雑化に伴い、様々な機器をつなぐための産業用ネットワークに対する需要が生まれました。そこで誕生したのが「CC-Link」であり、以後CC-Linkファミリーは3段階の進化を遂げてきました。2000年に「第1世代」としてシリアル通信ベースの「CC-Link」、また2008年には「第2世代」として業界1GbpsEthernetベースの「CC-Link IE」を仕様公開し、データ量の飛躍的な向上とフィールドレベルからコントローラレベルまでの適用領域拡大を実現しました。さらに市場からのスマート工場への要求の高まりに伴い、2018年には「第3世代」として、世界に先駆けてTSN(Time-Sensitive Networking)を採用した「CC-Link IE TSN」を仕様公開しました。

CC-Link協会「オープンフィールドネットワークCC-Linkファミリー」

また、CC-Link協会の「国際標準化規格への対応」に記載されているように、CC-Linkは国際標準であるISO規格、IEC規格、又JIS規格等、様々な規格が認められており、標準化されています。
そして、企業がCC-Link協会にレギュラー会員以上で入会すると、パートナー会員規約にあるように、CC-Linkを使用した製品を開発、製造及び販売する権利を有することとなります。

1.規約の適用範囲及び変更
(1) 本規約は、会員が協会より「CC-Link ファミリー」技術(本規約第6条に定義されます。)を入手し、当該「CC-Link ファミリー」技術を使用する場合、又は当該「CC-Link ファミリー」技術を用いた「CC-Link ファミリー」の接続製品、開発ツール、推奨配線部品及び/又はツール(以下、これらを「対象製品」と称します。)を開発、製造、販売及び/又は使用する場合に適用されます。本規約では、「CC-Link IE」、「CC-LInk」、「CC-Link/Lt」、「 CC-Link Safety」を併せて「CC-Link ファミリー」と称します。
・・・
6.会員が有する権利及び会員脱退後も継続して有する権利
(1) レギュラー会員以上(レギュラー、エグゼクティブ、ボード)の会員は、本条第2項乃至第5項の権利を行使して対象製品を階春、製造及び販売する権利を有します。
(2) 会員は、協会が会員向けに作成した『CC-Link ファミリー」仕様書』といいます。)の提供を、協会から無償で受ける権利を有します。
(3) 会員は、仕様書及び仕様書に関わる関連技術情報(・・・)を、本規約の条件に従って使用する権利(レジスタード会員においては、仕様書の供給を無償で受ける権利)を有します。なお、この権利には、会員から第三者への再使用許諾は含まれません。
・・・
(5) レギュラー会員以上の会員は、協会が製作する「CC-Link ファミリー」に関わるからログ、インターネットホームページ等に、事故が開発、製造及び又は販売する対象製品の名称や使用を無償で掲載できます。ただし、掲載の方法、範囲、期間等については協会の規定に従うものとします。
・・・

「一般社団法人 CC-Link 協会」パートナー会員規約

パートナー会員規約には、会員はCC-Linkファミリー技術を用いた製品を販売する場合にはコンフォーマンステスト(適合性試験)を受けなければならないと定められています。このコンフォーマンステストは、CC-Linkを普及させるにあたり、会員企業が製造販売するCC-Link製品の信頼性の確保、すなわちCC-Linkのブランド維持のために必要なことでしょう。

7.会員が負うべき義務
(3) コンフォーマンステスト試験
① 会員は、「CC-Link ファミリー」技術を用いた「CC-Link ファミリー」接続製品及び/又は開発ツールを開発した場合、販売等により第三者による使用を開始する前に、協会が実施するコンフォーマンステストを受験し合格しなければなりません。
・・・

「一般社団法人 CC-Link 協会」パートナー会員規約

なお、CC-Link協会に入会するためには、法人であり、年会費等が必要になります。年会費はレギュラー会員で10万円、エグゼクティブ会員で20万円、ボード会員で100万円以上であり、それぞれの会員において年会費が高いほど、一製品当たりのコンフォーマンステスト料は安く又は無料となるので、CC-Linkファミリー技術を用いた製品を販売する法人にとってはさほど高い年会費ではないと思えます。

このように、CC-Link協会に入会した企業は、比較的低額と思える年会費等を支払えば、CC-Linkファミリー仕様書を入手でき、CC-Linkファミリー技術を用いた製品を製造、販売することが可能となります。
2021年12月末現在ではパートナー会員は4035社であり、現在も国内外で新規パートナーが増えており、このCC-Linkは国内だけでなく海外にも広く普及していることが分かります。

<2.CC-Linkのオープン・クローズ戦略>

CC-Link協会に入会した企業がCC-Linkファミリー技術を用いた製品を製造・販売することができるということは、CC-Linkを開発した三菱電機からすると競合他社を育てることになります。そうすると、CC-Linkは産業用ネットワークとして普及するでしょうが、三菱電機としてはCC-Linkを特許等によって独占する場合に比べて、収益を挙げることに工夫が必要となります。

そこで、三菱電機はCC-Linkを普及させるにあたり、事業戦略(知財戦略)としてオープン・クローズ戦略を用いました。参考資料である「三菱電機のオープン&クローズ戦略における秘密情報管理について」と「三菱電機のオープン・クローズ戦略」にはCC-Linkに対するオープン・クローズ戦略が以下のように記載されています。
(1)インターフェースに絞ったオープン化(パートナ獲得手段)
  ・CC-Link製品開発に必要なインターフェース技術に絞って公開
  ・標準必須特許として権利化(必要最小限、無償開放)
(2)コア技術のブラックボックス化(他社差別化手段)
  ・使い易さや高信頼化等、付加価値技術を周辺特許として権利化
  ・マスタ/スレーブ局の制御等、内部コア技術は非公開

また、「三菱電機技報 知財活動の変遷と将来展望」には、CC-Linkに対する知財戦略として、以下のように記載されています。
(1)国際規格化した伝送経路上に載る情報に関する特許を規格特許として無償開放する。
(2)規格化しない機器内部の制御に関する特許は周辺特許としてCC-Link協会加入パートナーにだけ開放する。
(3)高付加価値製品の製造に必要な差別化技術を他社に解放せずに技術の保護を図り、シーケンサなどのコントローラビジネスで高いシェアを維持する。

このように、CC-Linkに対する知財戦略としては、普及のためにオープン化する技術と、利益獲得のためにクローズ化する技術がその目的に沿って明確に分けられています。以下では、これらについてもう少し詳しく見てみましょう。

<2-1.CC-Linkのオープン化した技術>

CC-Linkのオープン化の目的はパートナ獲得であり、これがCC-Linkの普及を促します。

このために、CC-Linkのインターフェースに関する技術の標準化が行われ、IEC61158・IEC61784(工業用コミュニケーションネットワーク フィールドバスの仕様)ISO15745-5(産業用オートメーションシステムと統合—オープンシステムアプリケーション統合フレームワーク)といった標準規格としての承認を受けています。

また、オープン化する技術はCC-Link協会に入会することで会員が入手する仕様書に記載されています。この仕様書で開示される技術には、三菱電機の特許権に係る技術も含まれていると考えられますが、これも無償開放としています。このため、CC-Link協会に加入しない限り、仕様書を手に入れることはできず、CC-Linkに関する詳細な技術内容を知ることは難しいでしょう。
また、仮にCC-Link協会の非会員がCC-Linkに係る技術を実施して製品の製造・販売等を行った場合には、三菱電機は当該特許権を行使して侵害訴訟を提起するのでしょう。これは、CC-Link協会の会員を守ることにもなり、かつ不良な技術の排除にもつながり、CC-Linkのブランド維持にも貢献することにもなります。

<2-2.CC-Linkのクローズ化した技術>

CC-Linkのクローズ化の目的は当然、自社製品と他社製品との差別化であり、これにより三菱電機はCC-Linkから収益をあげます。換言すると、CC-Linkファミリー技術の全てが仕様書に記載されているわけではなく、最新の技術は三菱電機が特許権又は営業秘密としてクローズ化しているということになります。
また、CC-Link協会に入会したとしても、仕様書に記載されていない技術を実施し、当該技術が三菱電機の特許権の技術的範囲であれば、特許権侵害となります。
このクローズ化した技術によって、三菱電機はCC-Lnk製品に関して他社との差別化を可能とし、収益を得ることとなります。なお、CC-Linkは三菱電機が開発した技術であることから、他社に比べてCC-Linkに精通しており、技術的に優位性を保ち続けることは他社に比べて容易ではないかと思います。そうすると、三菱電機は他社に比べて優位性の高い製品を製造・販売し、収益を保ち続けることが可能でしょう。

<3.知財戦略カスケードダウンへの当てはめ>

次に、CC-Linkのオープン・クローズ戦略を知財戦略カスケードダウンに当てはめます。
知財戦略カスケードダウンの詳細については下記を参照ください。
・note記事:知財戦略カスケードダウンの概要
・パテント誌掲載:「知財戦略カスケードダウンと三方一選択」パテント Vol.74 No.4, p78-p86 (2021)
・知財実務オンライン(YouTube):「知財戦略カスケードダウンと三方一選択」
なお、いかに説明する知財戦略カスケードダウンへの当てはめは、筆者が独自に考えたものであり、三菱電機の戦略そのものではありませんし、三菱電機が行った実際の戦略とは詳細が異なっている可能性があります。

<3-1.CC-Linkの事業目的・戦略・戦術>

CC-Linkに対する事業目的・戦略・戦術を下記のように考えます。
<事業目的>
 CC-Linkを世界で使われる地位に高め、自社のFA事業をグローバルに展開
<事業戦略>
 自社開発のCC-Linkを普及させ、他社に市場参入を促すことで市場拡大
<事業戦術> 
 (1)CC-Link技術の標準化
 (2)CC-Link技術を実施するパートナーを獲得(CC-Link協会の設立)
 (3)他社製品と差別化するための技術をブラックボックス化

ここで、事業戦術として、CC-Linkの標準化やパートナーの獲得があります。標準化やパートナーの獲得は、市場の拡大を目的としたものであり、直接的な利益を得ることができる事業戦術ではなく、この事業戦術はCC-Link技術の非独占により達成できます。
一方で、技術をブラックボックス化することによる他社製品との差別化は、自社製品を他社製品よりも優れたものとするための事業戦術であり、直接的な利益に寄与するものです。この事業戦術は、特許化や秘匿化による技術の独占により達成するものです。
まさに、これがオープン・クローズ戦略なのですが、オープンにする技術とクローズにする技術とを見極めなければなりません。また、クローズにするのであれば、特許化する技術と秘匿化する技術との見極めも必要でしょう。これが以下で説明する知財戦略・戦術となります。

なお、上記資料から、三菱電機はCC-Linkの技術要素を下記の3つに分けていることが分かります。すなわち、三菱電機はCC-Linkに関する技術をこの3つの技術要素に分け、各々に対して公知化、特許化、秘匿化を選択し、オープン・クローズ戦略を実行しました。
 ①インターフェイス技術
 ②付加価値技術
 ③内部コア技術

<3-2.CC-Linkの知財目的・戦略・戦術>

まずは、事業戦術である「(1)CC-Linkの標準化」に対応する知財目的・戦術・戦略です。
<知財目的>
  CC-Linkの標準化
<知財戦略>
  標準化の対象となる技術の特許を取得し、規格特許として無償開放
<知財戦術>
  ・インターフェイス技術(フィールドバス)の特許取得
  ・インターフェイス技術の無償開放

知財目的である「CC-Linkの標準化」を達成するために、標準化の対象となる技術の特許取得を知財戦略とします。無償開放するのであれば、コストを要する特許取得は不要とも考えられますが、もし他社に当該技術の特許を取得されると、当該技術を自社主導で標準化できなくなります。また、自社で特許を取得することで、標準化できなかった場合には技術を独占するという方針転換も可能となるでしょう。このため、標準化という目的のために特許取得を行うという、知財戦略・戦術となります。
そして、標準化する技術についても、自社技術の普及のために最も適切な技術を選択する必要があります。
CC-Linkにおいて標準化した技術は、ネットワークプロトコルといった伝送経路上に載る情報としました。この技術を標準化した理由は、マスタ局とデバイス局とのメーカーが異なっても、これらの機器間での情報の送受信が可能となり、CC-Linkを採用する企業において機器のメーカーが異なることを意識せずに、当該企業にとって適切な機器を使用することができ、結果的にCC-Linkの普及に貢献するためでしょう。また、ネットワークプロトコル等は、他社と差別化し易い技術ではなく、このような技術を標準化することのデメリットも大きくないと考えられます。

次に、事業戦術である「(2)CC-Link技術を実施するパートナーを獲得」に対応する知財目的・戦略・戦術です。
<知財目的>
  CC-Link技術を実施するパートナーを獲得
<知財戦略>
  パートナーにのみ公開する技術(付加価値技術)の特許取得し、CC-Link協会への他社の加入促進
<知財戦術>
  規格化しない機器内部の制御に関する特許を周辺特許として取得し、パートナーに開放。

標準化によりCC-Linkの一部技術は無償開放されます。このため「パートナーの獲得」という知財目的を達成するためには、パートナーとなることにメリットを感じる技術をさらに公開する必要があるでしょう。そのために付加価値技術を特許取得し、その一部をパートナーに開放するということを知財戦略とします。
そこで、知財戦術として、規格化しない機器内部の制御に関する特許の取得を行います。機器内部の制御に関する技術は、特許出願しなければ公知とならない可能性が高いため、他社(パートナー以外の企業)との差別化に寄与すると思われます。だからこそ、パートナーの獲得に寄与する技術と言えるでしょう。また、CC-Link協会へ加入していない他社が当該特許技術を実施した場合には侵害となるため、このような他社の排除にもつながります。

次に、事業戦術である「(3)ブラックボックス化する技術によって他社製品との差別化」に対応する知財目的・戦略・戦術です。
<知財目的>
  他社製品との差別化
<知財戦略>
  高付加価値技術の独占
<知財戦術>
  使い易さや高信頼化等の付加価値技術を特許化
  マスタ/スレーブ局の制御等の内部コア技術を秘匿化

「他社製品との差別化」を知財目的とした知財戦略・戦術は分かり易いかと思います。自社製品と他社製品とを差別化する技術を独占することで、シャアを拡大して利益を得ます。
このため、CC-Linkの知財戦術として、使い易さや高信頼化等の付加価値技術を特許化し、マスタ/スレーブ局の制御等の内部コア技術を秘匿化が行われました。
ここで、内部コア技術は秘匿化しています。これは、他社が容易に製造することは難しく、かつリバースエンジニアリングによってもその内容が分からない技術であるかと思います。そして、このような秘匿化した技術で製造されたチップはパートナー企業に提供されているようです。一方で、特許化した付加価値技術及びパートナー企業に開放する技術は、他社も開発する可能性が相対的に高い技術かと思います。
すなわち、CC-Linkが普及している限り、三菱電機はチップをパートナー企業に提供することで収益を挙げることができるのでしょう。一方で、パートナー企業ではない他社やパートナー企業の製品と差別化可能な技術は特許化することで、パートナー企業又は自社の収益を挙げるということになります。

<4.まとめ>

以上説明したように、オープン・クローズ戦略を行った三菱電機のCC-Linkを例に、事業目的・戦略・戦術を明確にし、事業戦術毎に知財目的・戦略・戦術を立案する知財戦略カスケードダウンに当てはめました。これにより、事業を成功させるために知財が何をするべきかが明確になるかと思います。
具体的には、どのような技術をオープン化又はクローズ化するのか、さらに、クローズ化においては特許化又は秘匿化する技術を見極める必要があります。これを見誤ると、技術を普及させることができず収益も挙げることができない状態に陥ったり、技術は普及したものの収益を挙げることができない、とのような事態に陥りかねません。
このように、事業戦略に基づいて知財戦略を立案することで、自社開発技術の権利化、秘匿化、又は自由技術化を適切に選択できることを理解できるかと思います。また、適切に選択できないと、事業戦略を達成できないこととなります。このため、事業戦略を十二分に理解したうえで、知財戦略を立案することが非常に重要となります。

営業秘密ラボ ーブログー

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
営業秘密ラボ
営業秘密ラボのブログ(https://営業秘密ラボ.com/)で記載した記事をまとめています。 ブログは適宜更新していますが、noteは更新頻度は低め。 ツイッター(https://twitter.com/TradesecretLab)は思いつくままに。