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窓の外に描く 第9話「隠された絵」


3学期になった。

ジニは学校にやっぱり来なかった。
フィリックスは予定通りオーストラリアの高校へ進学することが決まった。

卒業式まで残り一週間となった。

ジニともう一度話さなくてはと思いつつも、自分の転勤が決まってしまったので美術室の片付けや書類の整理で忙しくしていた。
金曜の放課後の職員会議の後に、ジニの家に会いに行こうかと考えながら、美術室の掃除用具入れを開けた。

中から、キャンバスに描かれた風景画が一枚出てきた。
美術室の窓辺と、その手前にコーラが置かれている構図で描かれていた。
ジニだ。
いつの間に描いていたんだろう。

美術室に散らばっていた水彩絵の具やアクリル絵の具を手当たり次第に取って描いたような色の置き方だった。
乱暴に描いたように見えながらも、細部は細い筆に持ち替えて描いたあとがあった。クレヨンやパステル、油性マーカーも使われている。
美術室に登校したその日に、たまたま手元にあった画材で描き足していったのだ。


全く気が付かなかった。私は、ジニを見ていたつもりで、やはり何も見ていなかった。
ジニは二学期の間、ずっと1人でこっそりと絵を描き続けていたようだ。
人が来たら寝たふりをして、掃除用具入れに隠して。

ジニの絵は、窓辺とコーラの輪郭ははっきりと描かれていたが、まどの外の風景はぼかして描かれていた。教わってもいないのに、こんな技法も使えるのかと感心した。


フィリックスに電話して、一緒にジニの家に向かった。
だが、ジニは家に居なかった。

「バン先生、ジニ、もしかしたら近くの公園にいるかもしれない。」
フィリックスがそういうので、公園へ向かった。
フィリックスの予想通り、ジニは公園のベンチに座っていた。
「ジニ!会いたかった!」
フィリックスが言った。

「あぁ。フィリックス。久しぶり。」
ジニはそう言って、フィリックスとは目を合わせたが、こっちは見なかった。
「ジニ、元気だったか。」
その質問には答えずに、ジニはこう言った。

「先生。美術準備室に忘れ物したから、取りに行っていい?」
「忘れ物?……ああ。ジニが描いた窓の絵か?」
「なんだ、見たんだ。それ。完成してないけどあの絵。」

「今から僕たちと一緒に取りに行こうよ!先生学校の鍵持ってる?」
フィリックスが言った。
「ああ。持ってるよ。今行けば誰もいないし、取りに行こうか。」

ジニが了承したので、三人で学校へ向った。

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