なんでもないという奴


なんでもないは、話したい気持ちが先行してる時にだけ、登場します。
でも、なかなか舞台袖から顔を出しません。
なんでもないはシャイなやつです。
ステージには立ちたいけど、
相手の反応を直接受け止める度胸がないやつです。
それと、
なんでもないはお客さんにウケてないと分かると、すぐにステージから身を隠します。
これ以上話してもお互い意味ないから、
何でもなかったことにして、
次の人に番を回します。
でも彼は、追いかけてでも話を聞きに来るファンを待ってるだけなのです。
ただの目立ちたがり屋の寒いやつです。
なんでもないは、なんでもないと言うことで、
なにか、特別で、すごい力を隠してるかのように振る舞います。
でもお客さんはみんな、彼がなんの力もなく不器用なやつだとわかっているんです。
彼自身もそれを分かれば、胸を貼ってステージに出てくることができるのに。

僕は彼のことが好きです。
僕が困った時、
勇気が出ない時、
彼がそっと手招きをして、
なんでもない、
と一言言ってくれます。

彼のせいでいえなかった言葉も、
彼のおかげで傷つけずに済んだ言葉も、
沢山あります。
なんでもないは、僕にとっては好きな言葉なのかも知れません。

でもやっぱり、
いや、なんでもないです。
またいつか、ステージの上でお伝えします。

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