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よい群像劇について、あと、世界を変えるのは正論じゃなくて物語じゃないかと思うことについて:『愛の不時着』

Netflixで配信されているドラマ『愛の不時着』全16話を観終わった。

これを観るために2020年生きていてよかったと思うくらい、とても素晴らしい作品だった。

私はことあるごとに泣いているため、私が「泣いてしまった」と言ってもなんの迫力も出ないんだけど、恋愛ドラマそこまで興味ない~という私の恋人まで泣いていた。これはただごとではない。

このドラマに詰め込まれている要素は多すぎて(ラブコメかと思いきや、サスペンスでありアクションでありロードムービー感もある)、いろんな切り口があると思うけど、今回は自分の話に引き寄せた2つのテーマについて、興奮さめやらぬうちに書いておこうと思う。
(ちょっとネタバレも含む気がするので、注意してご覧くださいなー)

①よい群像劇について

私の人生の目標は、自他ともに認める最高傑作の物語をつくることだというのはたびたび書いているのだけど、その物語はできれば群像劇にしたい。

なぜなら、私は現実でも物語でも、「チームが織りなす化学反応」を愛しているからだ。

激しく身バレのおそれがあるのであんまり大々的に描けないなーと思うのだけれど、中学・高校・大学のそれぞれの部活(吹奏楽&オーケストラ)には面白い人がたくさんいて、それぞれの人たちが化学反応を起こしてさらに爆発的に面白かった。その渦中にいられて私は本当に幸せだった。

あの幸せな感じを、どうにか結晶にして世に出せないだろうか?そうしてとっておくことはできないだろうか?と永遠に考えていること、これが、私が創作を続けている理由のひとつである。

創作で輪郭を与えたら、私が死んでもあの瞬間の輝きのかけらをとっておくことができる。

(ちょっと『ダルちゃん』のレビューで書いたことにも通じるかも↓)

ということで、優れた群像劇を見るたびに「なぜこの作品ではキャラクターが生き生きと感じられるのだろう?」ということを考えている。

『愛の不時着』でキャラクターが生き生きしているのは、(各話90分ほどあって最終回に至っては2時間ほどあって、それぞれのキャラをじっくり描けた、ということもあるが)、そのキャラの性格に芯を通す演技を、俳優さんたちがばっちりしているからだと思う。仕草や姿勢なんかもそうだし、ギャップの利かせ方が、絶妙なの。

例えば、メインカップルの北朝鮮将校リ・ジョンヒョク率いる中隊のメンバーの一人、ピョ・チス

↑これは出演俳優さん(ジュモク役のユ・スビンさん)があげてるオフショットですが…一番左がチス役のヤン・ギョンウォンさん。

突然やってきた怪しげな韓国の女(主人公のユン・セリ)に、中隊のメンバーの中で一番つっかかってくるのがこの男。しつこくしつこく憎まれ口を叩いてきて、資本主義は腐敗している、北朝鮮の方が優れていると、いろんな例を挙げて主張する。
勤務中飲酒するわ、酒にのまれて秘密はしゃべっちゃうわ、ソウルに潜入した際には妙な服を着ていきってるわで、ダメダメなのかと…思いきや。

真面目に戦闘したらめちゃくちゃ強いし、仲間を逃がすために自分が囮になるし、セリが韓国に戻る際の別れの挨拶に自作の詩を贈ってくれるし…

ええーーーちょっと…
すきーーー!

(中隊のメンバー、みんな大好きです)


スーツ回が最高でした…

(中隊メンバーで一番の年下、ウンドンはスーツでもかわいい)


例えば、リ・ジョンヒョクの敵役の依頼を受けて、ジョンヒョク宅の盗聴をしているチョン・マンボク
(盗聴してる人のあだ名が「耳野郎」っていうのが強烈だった。北朝鮮では、盗聴は日常的に行われてることらしいです
彼は、本当はこんな仕事はしたくないのだが、家族を貶めると脅しをかけられて、葛藤を抱えながら盗聴を続ける。

でも周りの人も彼の後ろめたい職業のことを知っていて、息子が同級生に「やーい、お前の父ちゃん、耳野郎~」てな具合に、いじめられたりしちゃうんだよね…。

だから彼は、いつも背中を丸めている。

泣くときも、誰かと目を合わせないようにして、小さく小さくなってすすり泣くの。
そんなマンボクさんだからこそ、ソウルで羽を伸ばすシーンがかわいくて愛おしかった。

↓ネタバレありですが、マンボクさん役のキム・ヨンミンさんのインタビュー、とてもよかったです。

例えば、リ・ジョンヒョクの婚約者ソ・ダンのお母さん、コ・ミョンウンは基本的にずーっと叫んでてマウンティングしまくってる。
だからこそ、愛する人を亡くした娘に落ち着いた声色で真摯に話しかけるシーンや、ジョンヒョクのお母さんのもとを訪ねていって真面目に婚約破談を切り出すシーンが輝く。

(ちょっと脱線:16話完走したあとでいろいろ読んでて知ったけど、この方、『パラサイト』のお母さんなのですな!!びっくり!そしてダンのおじさんも『パラサイト』のあの人だったのか!!全然印象違うからわからなかった!)

キャラクターの人となりは、台詞以外からも浮き彫りにできるんだなーって、改めて思った。
このドラマは脇役の人たちの演技もものすっごい光ってるので、ぜひ見てほしい!!!
サブカップルのダンさんとク・スンジュン、村の女性たち(特にミョンスンさん)、室長、タクシー運転手さんとか、みんな大好き~~!!!

②世界を変えるのは正論じゃなくて物語じゃないかと思うことについて

これまでいくつかの漫画で描いてきたように、私は外国にものすごい興味のある人間である。それで外国語学部に進学したし、あちこち海外旅行に出かけている。

いろんな国出身の友達がいるし、外国の人にも(日本の人のように)いろんな人がいる、●●国の人はみんないい人、とか、〇〇国の人はみんないやな人、とか、そういうことはない、と学んだ(まあ、国民性というか、傾向はあったりするけど)。

だから、「中国人にはほんと困る」とか、「あー韓国の血が入ってるらしいもんね(←大体、侮蔑する内容とともに言われる)」とか、そういう話を聞いたり見たりすると、いつもたまらなく悲しい。

中国人の友人は、私の修論をたくさん助けてくれたのに。
韓国人の友人は、ソウルの自宅に招いてくれて、お土産まで準備してくれていたのに。

でも、

「中国や韓国にもいろんな人がいるよ、いい人も悪い人もいるよ」って反論することは、

とにかく、無力だ。

まったくきれいごとでしかなく、相手に実感を持って刺さることは、絶対にない。

しかし、物語は、違う。

素晴らしい物語は、柔らかに誰かの世界の見え方を変える力がある。
フィクションの世界の登場人物でも、「私が知ってる or 好きなあの人」が住んでいる国、だと思うと、見え方が全然違ってくるのだ。

ピョ・チス役のヤン・ギョンオンさんは、こう語っていた。

Q.北朝鮮の人物を演じてみて、北朝鮮に対する認識にも変化がありましたか。

ヤン:政治的なことはよく分かりませんが、とにかく北朝鮮も人が住んでいるところだと思うようになりました。もちろんドラマの中での話ですけど、社宅でマ・ヨンエの夫が捕まっていき、住民が彼女の家に薪や料理を持っていくじゃないですか。そのシーンを見ながら、あちらも人が住む所だと思いました。

<インタビュー>ドラマ『愛の不時着』の“北朝鮮軍のF3”、中隊長ヒョンビンについて語る」より引用

あと、作家の温又柔さんが、Twitterでこう書かれていた。

私たちの人生は有限であり、持てる関心の範囲にも限界があるとは思う。

でも私は、私の経験から生み出せるものを少しずつ磨いていって、「なんとなく外国人は怖い」と思っている人に少しでも他の国の人を身近に思ってもらって、私を助けてくれた人たちにわずかでも恩返しがしたい。

そんなわけで、留学生との思い出や海外旅行の思い出を、漫画やエッセイにしているわけなのである。

例えばリオデジャネイロはたしかに治安の悪いところだけれど、そこには私にチョコを分けてくれる人とか、踊りながらポンデケージョを売ってくれる人もいたわけで。メキシコシティには誘拐された人を捜索するポスターがあちこちに貼られていたけれど、率先して道案内してくれる人がいて、仲間と楽しげに掃除の仕事をしている人たちがいたのだし。

なんか、そういうのが、ちょっとでも届くといいなあ。

<おまけ>
私には、よい映画やドラマを観ると他の方の感想や出演者等のインタビューをがしがし読み漁る癖がある。

noteの中で、特にこちらのレビューがめっちゃめちゃめちゃよかったので、ぜひお読みいただきたい。特に、結婚だけが幸せな結末なのか?って話、よかったーー(私はダンがチェロしょって歩いていくシーンが大好き!!!)。「境界線」の持つ不思議な力についてとか、創作する人のヒントになることがたくさん書いてあると思う。

(ただし、ご本人も書いている通りだいぶネタバレはあるのでお気をつけいただきたい。同じく沼さんがもう1本あげられている不時着関連の記事もとてもよかったのだが、タイトルから盛大にネタバレなので、1本だけリンクしておく)。↓

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