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名医

「原因はわからないんです。お腹が膨れて苦しくて」と患者が話し始めるのと同時に、ハンスは管を相手の腹に刺す。ゆっくり液体が流れる。「圧迫感が消えました!」患者は喜ぶ。

抽出した液体を、ハンスは瓶に詰める。橙色のは1番、黄色いのは2番、レモン色のは3番の瓶に。人によって色が違う。でもきっちり3種類に分かれる。それがハンスには不思議だ。

ハンスは液体を酒場に運ぶ。だんまりの姪っ子、ゼルマが働いている。彼女はどこまでわかるのかわからない。ハンスは毎回同じ説明をする。

「それぞれ、グラスの線が引いてあるところまで注ぐんだよ。1番、2番、3番、ね。そのあとで炭酸水を入れてね」

3人の体液でつくったカクテルを、この店では「朝陽」という名前で売っている。光に透かすと美しい。飲まれるのはほとんど夜なのに。

病院に来る患者にはこの店の客が多い。きっと、ゼルマが液を注ぐ順番を間違えてしまうからだろう。

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