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最高の上司Eとの思い出

仕事が上手くいくときほど上司に恵まれている。これは僕の実感だ。

僕自身の歴代上司を振ってみる。新卒で右も左も分からなかった僕に社会の厳しさと面白さを教えてくれた上司A、今でも反面教師として印象深い上司B、ベテランで知識も経験も豊富だった上司C... それぞれタイプは異なるものの、皆お世話になった偉大な人生の先輩方だ。

その中で「最高の上司は誰か?」と問われたら、間違いなく挙げたいのは上司Eだ。


Eは非常に楽天的で大雑把。実務ができる人かと聞かれると、正直微妙だったかもしれない。だが、細かいことは気にしない彼のスタイルが、僕自身の仕事の進め方と相性が良かったのだろう。マイクロマネジメントの正反対ともいえる放任主義のもと、僕は活き活きと働くことができた。

具体的にはこんなことがあった。

Eは申請の中身をほとんど見ない人だった。残業申請や有給申請といった申請はもちろん、仕事に必要な書籍や道具の購入申請まで、ほとんど気にせず印を押した。

Eのおかげで僕は、書籍を購入して勉強したり、新しいソフトウェアを部署に導入したりと多くの挑戦がができたのであった。上司向けのプレゼン資料もなければ、費用対効果を説明することもなく、Eの許可はおりた。あまりにあっさり申請が通ったので僕自身が困惑したぐらいだった。

Eはよくこんなことを言っていた。

「俺は君たちよりその辺のことは詳しくないからさ。承認するからあとは自由にやってくれ。」
「成果が出なけりゃ無駄遣いという人もいるかもしれん。だけど、やってみなきゃわからん以上試してみるしかないんじゃないのか?仮に成果がゼロでも経験はなくならない。それに、会社にとって痛い損失額でもない。」

このユルさというか適当さ具合が、他の管理職から疎まれてたりした、なんて話も噂で聞いた。管理職として、どのような姿勢が望ましいのかについての議論はここでは割愛する。


また、Eは失敗、とくにヒューマンエラーについて特に寛容だった。「人間は失敗した時に一番成長する」というのがEの考えであったらしく、失敗した時に叱責されたことはほとんど無かった。むしろ「もっと失敗しろ」「あんまり正確にやりすぎると楽しくないぞ」みたいなことすら言われた。

オペレーション業務を行っていると、どうしてもミスしたり忘れたりしてしまうときがある。そのときに作業者を責めることが無駄であることを、Eは経験から知っていたのかも知れない。


そんな素晴らしい上司であったEだったが、実は、僕がEから何か直接的に業務の指示をされた記憶はほとんどない。Eは管理しようとしなかったし、僕たちが作業レベルで何をどのようにやっているのかを知らなかったのではないかとさえ思う。

それでも、僕を含む部内メンバーの士気は高かった。Eがやらないことは自分たちでやるしかない。やりたいといえばEはやらせてくれる。必要なものがあれば申請は通る。その結果、僕のいた部署は他部署と比べて新規取り組みの数は桁違いに多かったし、売上の伸び率も高かった。

Eは活動内容について細かく知ろうとはしなかったが、結果を報告をすると必ず褒めてくれたのだった。「良いじゃん」「面白いじゃん」「次はどうするか楽しみだよ」そう言ってくれた。

振り返ってみて、「部下にモチベーションを維持させる」ことにおいて、Eは稀有な能力を持っていたのかもしれないと思ったりもする。


Eは僕にとって最高の上司だったが、立場が変われば印象は大きく変わっていただろう。

Eが部下だったら、同僚だったら...正直なところ、全く想像することができない。

ただし、これだけは言える。Eという上司を経験したことで、良い実務者≠良い上司ということを思い知らされた。良い実務者が出世すれば、良い上司になることができるのか。逆に、評価が決して高くない人であっても、上司になればその類の才能が発揮されたりすることもあるのかも知れない。


意図せず「ガチャ」によって人と巡り合う。これだから会社員は面白い。


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