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超短編小説『ナンセンス劇場』063

【謎の人物】

 それは1ヶ月ほど前のことでした。
 彼女が私にこう言ってきたんです。

「ねぇ、ちょっと目瞑って」

「え、どうしてだい?」

「いいから瞑って、お願い」

「分かったよ」

 私は言われた通りに目を瞑りました。
 そして30秒ほど経ってから彼女がこう言いました。

「目開けてもいいよ」

 私が目を開けると目の前に知らないおばさんが立っていました。

「あれ? あなた誰ですか? キョウコは?」

「・・・」

「いや、ホントにあなた誰ですか?」

「・・・」

 おばさんは何も喋らずただ立ち尽くしたままです。
 私はキョウコを探しましたがどこにも見当たりませんでした。
 あれ以来キョウコは見つからず、謎のおばさんは私のストーカーになってしまいました。


【村の英雄】

「さぁ皆さん、今日は素敵な方々にお越しいただいています。
それではご紹介いたしましょう、小人族の皆さんです!」

テレビに100センチに満たない5人の人間が映し出された。
全員大人でありジャングルの奥地に住む部族である。
普段は裸同然の格好で動物を狩って暮らしているのだが、今は服を着ている。
ジャングルに住む人々を招待するという企画で日本にやって来たのだ。
女性アナウンサーが小人族にインタビューしようとするが、小人族はソワソワと落ち着かない様子だ。

「あの、一体どうしたんでしょうか?」

通訳の人に訳してもらうと村の英雄がいないと言うのだ。
辺りを探してみると村の英雄はスタッフの中に紛れて立っていた。
村の英雄は1人だけ身長が148センチあるため、単なる小柄な男だと勘違いされたのだ。

「あ~、ごめんなさ~い!」

女性アナウンサーが慌てて村の英雄をこちらに連れてこようとするが、時すでに遅し。

「村の英雄に対してこんな扱いをする国にはもういることができないと言っています」

「本当にすみませんでした!」

「ここにいる全員に呪いをかけて村に帰ると言っています」

「そんな~!」



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