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老子と学ぶ人間学⑦老子とSDGs

成功は達成より、維持する方が難しい。

運もアイデアも商材も、
期間限定と自覚して、
調子に乗らず、謙虚な態度に徹し、
タイミングと欲望をコントロールすることが、
成功維持の条件だ。

1.老子の無為自然

老子といえば、無為自然。
無欲を提唱しているように思うかもしれないが、
そうではない。

老子のいう「無欲」とは、
キリスト教的な欲望を罪悪視し
それを罰する「禁欲的」なものではなく、
自己と宇宙(環境)を一元として考える
自立的な考え方だ。

欧州主導のSDGsは、極めてキリスト教だ。
国連の壁にプロジェクションマッピングで
お祝いする事自体、
老子がみたら違和感を感じるだろう。

人間は欲望の中で生きている。

それこそ無為自然、自然の姿。そのため、
欲望を全体主義で抑制することは、人工的で、
強要することは、もっと人工的。
外から強要しても、持続可能にはならない。

欲望は、生きるエネルギー源なので、
無理に抑圧すれば、
欲求不満になり、ストレスは溜まり、爆発し、
更なる欲望を誘発する。

環境破壊の根源は、肉体は有限なのに、
人間の欲(精神)は無限なことにある。

そのため、より利便性を求めたり、
強い刺激を求めたり、
名声や使いきれない財力を求めたりと、
欲望は肥大化する。

解決法として、老子は、
肉体と精神を同調させるべきだという。

つまり、肉体が老化したら、欲望も老化させる。
それこそ、自然の姿だからだ。

強靭な身体の若者が
二酸化炭素を排出するのは仕方がなくても、
老人が自然と共生した生活に戻れば、
脱炭素化は可能だろう。

だが、一度肥大した欲望を抑制するのは難しい。
一度覚えた贅沢、利便さ、豊かさを棄て去ることは、
西洋思考では不可能に近いかもしれない。

西洋思考には、豊かさを分配する考え方はあるが、
自我を見つめ直し、豊かさを棄却する概念がない。

西洋思考は、自己の他に神(全知全能の神)が存在し、全知全能の神が自己の意思より優先するという他力的一神教的思考である。

禅や老子などの東洋思考は、宇宙を一元生命体と捉え、個の中に宇宙があり、自己と宇宙・自然は隔離することはない、自立的思考だ。

2.肉体と精神の不一致

無限の欲望を助長しているものとは何か。
道徳経第12条を読んでみよう。

五色は人の目をして盲なら令む。
五音は人の耳をして聾なら令む。
五味は人の口をして爽わ令む。
馳騁畋猟は人の心をして狂を発せ令むる。
得難きの貨は、人の行いを妨げ令む。
是を以って聖人は、腹を為して目を為さず。
故に彼れを去てて此れを取る。
(老子道徳経 第12条)

あふれかえる色彩は、
目の感覚を麻痺させる。
喧噪な音楽は、聴覚を麻痺させ、
人工的な味付けは味覚を麻痺させ、
狩猟やギャンブルは人の心を麻痺させ、
高価な金品や空間は人の行動を麻痺させる。

自然に感応する感覚を大切にしたい人は、
感覚を麻痺させてはならない。
そのためには、刺激的な生活とは距離を置き、
内なる生命の喜びを感じとれる
空間に身を置くことだ。
そこにこそ心の平和があるのではないか。
(山脇超訳)

国連がプロジェクションマッピングで
SDGsを祝った愚行が、これを読むとわかるだろう。

3.貪欲な赤ちゃん

赤ちゃんは、お腹がいっぱいになると、
お母さんの乳首を口から外し、眠ってしまう。
もし赤ちゃんが、貪欲に、
お母さんの乳首を吸い続けたらどうなるか。

お母さんは衰弱し、倒れてしまうだろう。
それでも許さず吸い続けたら、

生命のエネルギーを喪失する。
吸い付くものがなくなった赤ちゃんは、
どうなるか。

赤ちゃんを人間、
お母さんを地球、母なる大地に置き替える。

私たちは、貪欲な赤ちゃんだ。
お母さん(地球)が悲鳴を上げているのに、
ガムシャラに吸い付いている。
これ以上吸い続けると、命を失うかもしれない。
既に体温が上がり、細菌やウィルスに弱い身体になっている。
それでも吸い続けている。

健やかな赤ちゃんなら、
お腹がいっぱいになると安心して、眠ってしまう。
生命を維持するという基本的な欲望が満たされれば、それ以上のものを望まない。

だからまたお腹がすけば、新しい乳が飲めるのだ。

老子は我々に、健やかな「赤ちゃん(嬰児)」になれという。

営魄を載せ、一を抱きて、
能く離れること無からん乎。
気を専らにし、柔を致して、能く嬰児たらん乎。
(道徳経 第10章)

刺激的な映像を見せ、音楽を聞かせ、
味付けの濃いジャンクな食べ物を与え、
高揚する空間に身を置くと、
感覚が狂い、欲望のブレーキがきかなくなる。

この欲望をいかに巧みに亢進させるか、
それが、アメリカ型ビジネス手法だ。

フェイスブックが、社名を「メタ(Meta)」に変更した。

インターネット上の仮想現実空間「メタバース」に未来を見出し、事業の軸足を移そうとしている。

肉体は有限で、精神は無限であることを、
ザッカーバーグ氏は熟知している。

メタバースという仮想空間に移動すると、
精神(欲望)は更に肥大化し、
肉体は弱体化するだろう。

メタバースの時代とは、
肉体と精神の乖離の時代。
陰陽学的にいうと、陰陽乖離の新時代だ。

例えると、
太陽と月が乖離する時代、
昼と夜が乖離する時代、
男性と女性が乖離する時代。

だが、陰陽は絶対に乖離しない。
常に1対なのだ。
太陽と月、昼と夜、男女のように。

陰陽をいかにバランスをとっていくか。
そこにビジネスヒントがあるかもしれない。

4.脱成長経済

人新世の「資本論」の中で、斎藤幸平氏は、脱成長経済を唱えていた。
環境破壊による気候危機と超加速化する資本主義の中で、「持続可能で公平な社会」を実現するための唯一つの選択肢が、減速主義、「脱社会コミュニズム」であり、資本主義そのものを徹底的に批判することから始める必要を訴えていた。

脱成長、減速主義、
今の日本経済そのものではないか。

足るを知らざるより大なる禍は莫く、
得んと欲するより大なる咎は莫し。
故に足るを知るの足るは、常に足るなり。
(道徳経 四十六章)
満足を知らないことほど、
大きな禍はなく、
際限なく欲しがる人間ほど、
不幸な人はいない。
「足りている」という気持ちが、
日常の何気ない事で感じられる人間こそ、
幸せである。

10欲しいが、5で我慢させるという
禁欲的西洋思考ではなく、
5で自ら足るを知るという、考え方こそ、
東洋思考だ。

また、老子は、
本来いるべき場所を失わない者こそ、長寿だ。
とも言っている。

その所を失わざるものは久し。
(道徳経第三十三条)

SDGsビジネスという言葉を老子がみたら、
腹を抱えて笑うだろう。

矛盾だらけなのだから。

一般社団法人数理暦学協会
山脇史端


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