読書感想文 『つけびの村』 高橋ユキ著 (小学館文庫)

これがノンフィクションなの!?まるでテレ朝のサスペンスドラマ、あるいはテレビゲーム『サイレントヒル』の世界に入っていくような、違和感と狂気が隙間から漏れ出す集落の描写。冒頭から一気に惹きつけられました。

古い集落のおぞましい風習に狂わされた人々の末路だとか、猟奇事件の謎解きミステリーだとか、いろいろな展開を勝手にイメージしましたが、それらは大間違いでした。本作はセンセーショナルな事件を通じて、人間の普遍的な性癖(えっちな意味ではない)に踏み込んでいく作品だと、私はそう思います。

限られた人間関係と情報源に頼って生きるしかない人々がどうなるのか?情報量が増え、メディアも発達し、価値観も変わった。それでも取り残される人は生まれ続ける。クローズドなコミュニティの中で先鋭化していく意見やモノの見方をまるでそれが真実であるかの如く世の中に向けて発信する人々もいますが、限界集落の中で生きる住民と重なるところがあるように感じました。

とは書いてみたものの、改めて読み返すと例えば会社の飲み会、当人のいないところで、その人についてどんなことを話しているか?振り返った時に自分でも思いたある節がたくさんありました。一部の限られた世界のことではなく、日常にありふれる何気ない噂というものの性質を改めて考えさせられます。

限界集落で起きた怪事件から最後は読者自身が発信している『噂』について気づきを与える、素晴らしい作品だと思います。ポケットサイズの文庫本なら持ち運びもカンタン!興味を持たれた方はぜひお手に取ってほしいと思います。


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