夏休み読書感想文『地面師たち』(新庄 耕 著、集英社)
この作品が映像化されることに納得感しかない。ここに書かれている内容はそのまま脚本といっても差し支えないと思う。自ら意識して物語を書くようになったせいか、その表現の豊かさをより鮮明に感じられる。私がときどきネットに放流している文章とは次元が違う。
登場人物のモノローグ、思考が台詞として表現される箇所はほとんどない。彼らの動作や表情といった情報で心の機微まで具に想像できる。素晴らしい役者がそのまま演技すればそれがドラマのワンシーンになり得る。試しにやってみるとわかる。「心の声」無しで小説を書けと言われると、とても難しい。
人物だけではない。同じく新庄氏の作品である『狭小邸宅』でも見られた胸にズンと来る内面表現に加え、景色や空間もまた質量を伴っているかのようだ。序盤の登山シーンなどは自分が主人公の拓海になったかのように、眼前に雄大な自然が広がる。その後の展開とは裏腹に大きな開放感まで覚えた。
一癖も二癖もあるキャラクターばかりが登場するのも大きな魅力だ。陰陽、温冷、善悪……さまざまな感情と属性が入り混じり、人間の深みというかコクみたいなものが存分に味わえる。サラリーマン的には青柳の顛末はたいへん胸のすく思いがしたし、辰のような仕事人の存在に救いを感じた。
今やNetflixのドラマが話題沸騰中、敢えて今さら宣伝する必要もないと思うが、やはり、原作も多くの人に読んでほしい。緊張感、スピード感が視覚から体感に変換されていく面白さを、是非みなさんにも味わってほしい。
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