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【発売記念 無料公開!】『崖っぷちだったアメリカ任天堂を復活させた男』 序章「岩田聡氏との別れ」③

DS, Wii, Switch…
岩田聡氏と二人三脚で進めた任天堂の世界戦略の舞台裏とは

ニンテンドーDSやWii、Nintendo Switchを世界市場に送り出した、元アメリカ任天堂社長の著書『崖っぷちだったアメリカ任天堂を復活させた男』

こちらでは、任天堂元社長である故・岩田聡氏との知られざる秘話をつづった、序章「岩田聡氏との別れ」を期間限定で無料公開します。

前回まではこちら


岩田氏とのかけひき

岩田氏と私はビジネスについて深く語り合い、時に意見が折り合わないこともあった。だが話し合いを進めながら、私たちは必ず解決策を出し、それが会社にとって素晴らしい結果となっていた。
私が自分の考えを押し通したと言ったほうがいいのかもしれない。ただし粘り強く、かつ相手の気持ちを汲みながらこれを行った。私はビジネスを〝柔術〟みたいなものだと考えている。アイディアを押したり引いたりしながら、周囲の支持を集めていくうちに、自然と弾みが付いてさらに前に進む。

岩田氏が最初にガンの診断を受けて、最初の手術を行ったのは2014年夏のことだ。彼がまだ入院中に、私は世界戦略会議に出席するため日本に行くことになった。せっかく出張で行くのだから、岩田氏に見舞いに伺っていいですかと尋ねてみた。メールでやり取りする際、彼は「結構です。日本ではそういうことはしない。ビジネスパートナーは互いに病院を見舞うことはないから」と返事をしてきた。だが私は行くと言って聞かなかった。夏が終わってからはしばらく日本に戻る予定がないので、会いに行きたいと説明した。彼
がどんな容態なのか知りたかったのだ。
岩田氏は来なくていいと押し通し、「レジー、会社から私を見舞いに来た人はいない」と再び書いて寄こした。私はビジネスの用件で訪問するつもりはない。こう返事を送った。
「失礼ながらミスター・イワタ、私はNOAの社長としてではなく、友人としてあなたを見舞いたいのです」
この最後の一押しによって、彼は笑って折れてくれた、そう思いたい。私に根負けしたと悟ったときに、彼はかすかに笑みを漏らしたものだ。彼は態度を和らげて、見舞いを許可してくれた。

この旅を手配してくれたのは古川 俊太郎(ふるかわ しゅんたろう)氏で、彼はその後任天堂の第6代社長となる。このとき古川氏は企業戦略の代表で、京都で岩田氏の右腕として活動していた。古川氏はヨーロッパで数年過ごしていたから英語はペラペラだ。古川氏は私をホテルに迎えに来て、岩田氏の病室に案内してくれた。病院までの車中で、古川氏は私の訪問がどれほど異例であるか念を押した。ほんの数日前まで、岩田氏は任天堂からの誰の見舞いも許可しなかったそうだ。私が見舞いをすると決まってから、彼は態度を和らげてその2日前には、会社からの他の見舞い客も受け入れていた。

岩田氏は私の見舞いをすごく喜んでくれた。彼の奥さんと娘さんもそこに居合わせていた。ビジネスパートナーの見舞いというよりも、友人のプライベートな見舞いとして迎えてくれたわけだから、私は嬉しかった。
岩田氏の病室に行くのはとても面倒だった。京大病院が設立されたのは1899年、任天堂が設立された10年後のことだ。任天堂の創業一族である山内家の寄付により病棟を増設するなどして、何度も改築が行われた。英語で書かれた標識がほとんどなく、新病棟から旧病棟までの通路も入り組んでいて、どうにか病室にたどり着けたのは、古川氏が付き添ってくれたおかげだ。

病室に入ると、岩田氏が病院のガウンを着て満面の笑みを浮かべて立っていた。私は岩田氏を見ていつも通り、握手をした。そのまま打ち解けたプライベートな会話に入り、彼の回復具合について聞いた。元気そうだ。顔は赤みがかっていて健康状態は良好であるように窺えた。髪はいつものように櫛を入れて、真ん中で分けている。いつもより少し長めで、小さな楕円形のメガネをかけていたせいで、1960年代のジョン・レノンが日本人だったら、こんな感じだろうと思わせる。
小柄な奥さんを紹介し、英語がまったく話せない彼女の通訳を務めてくれた。20代くらいの娘さんも紹介してもらった。彼女は私と会えてすごく喜んでくれた。「レジー、娘は君の大ファンなんだ」と岩田氏。「本当ですかミスター・イワタ。ご家族の中に私のファンがいるなんて」と私は返した。
岩田氏はクスクス笑って、通訳をしてくれた。おかげで、娘さんと私は軽い冗談を交わすことができた。彼女は携帯電話を取り出して、この病室で一緒に写真を撮ってくれませんかと言う。これを聞いて岩田氏は笑い、お願いできないかと私に言うのだった。
私はもちろんいいですと答えたが、問題が1つあった。私は背が高いが彼女は小柄なため、私たち2人をフレームに収めるのが難しかったのだ。いたずらっぽい笑みを浮かべて目を輝かせ、岩田氏が助け船を出してくれた。娘さんの携帯を取ってカメラマン役を引き受けて、2人の写真を何枚か撮ってくれた。写真を見て彼女は満足げだった。


要するに02 相手をよく理解すれば最大の成果を上げられる
私は人間関係がもたらす力を信じている。岩田氏は私の上司だっただけではない。私のビジネスに対する洞察力を評価してくれただけではない。彼は友人であり彼との友情があったからこそ私は任天堂で成功し、人生においても成功することができた。
だからといって、ビジネスにおいてみんなと仲良くすべしということではない。
つまり、相手をよりよく理解するほど、共同作業でより効率よく最大の成果を上げられるということだ。相手の素性、観点、経験を理解するほど、問題がよりよく解決できるようになる。これは上司部下の関係や同僚同士の対等な関係にも当てはまる。
ビジネスで必要なのは3つの種類の関係だ。まず、以前にあなたと同じ仕事をやり遂げて、その仕事の仕方を教えられるコーチだ。相談できるメンターも必要だ。伝えにくい点を代弁してくれて、代わりのアプローチやアイディアを提案してくれる。最後にサポーターだ。サポーターは周囲にあなたのことを好意的に語ってくれる......特にあなたがいない場でもあなたを評価してくれるから、なおさらありがたい存在だ。


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