本と大学と図書館と-3-引用分析とGoogle (Fmics Big Egg 2018年11月号)

 「もしわたしがきみだったら,細胞形質膜内に あるタンパク質の位置同定に役立つ,前田の濃度 別遠心分離法の技術を,その後,誰が使ったか調 べるため,『引用論文目録』から始めるね」と, ノーベル賞候補の細胞生物学者・カンター教授 は,教え子のジェリーに指示します。『カンター 教授のジレンマ』(カール・ジェラッシ著 文藝春 秋 1994 p.62)に,こうあります。

  この本は教授と弟子のノーベル賞受賞のドタバ タ小説で,改題改訳され,『ノーベル賞への後ろ めたい道』(講談社 2001)としても出版されてい ます。本の帯で「可愛すぎる学者」と表現される 大学の研究者たちが,研究し,その成果を学術雑 誌に投稿し,査読を経て掲載に至る学術情報流通 の実態も描かれます。ジェリーと恋人の化学者, 恋人の師匠とルームメイトの英文学者が 4 人で, 学問分野の「しきたり」について論争もします。 研究者の生態を赤裸々に描いた小説で,教員や研 究を理解するうえで,大学職員の必読書です。 

 『引用論文目録』とは,世界の大学ランキング において,論文の引用数を算出するデータベース 『Web of Science』のもとになった『Science Citation Index』(SCI)のことです。例えば, 「2010 年の前田論文の参考論文リスト」(A)は 2010 年以前の関連論文が遡って記載されます。 一方,SCI は前田論文を引用している 2010 年以 降の新しい論文とその参考論文リストの全部をデ ータとして搭載しているので,「前田論文を引用 している論文リスト」(B)を生成できます。

  (A)は 2010 年以前の古い論文,(B)は 2010 年以 降の新しい論文です。(B)から前田論文の展開を 追えます。これが引用分析です。(B)から前田論 文を引用している論文の数が「引用数」として算 出され,同様に他の研究者の論文の引用数も算出 されます。引用数の多い論文が,他の論文からの 評価を獲得した,その領域の重要論文です。

  Google Scholar でも引用数はわかります。SCI を更に知るには,『科学を計る:ガーフィールド とインパクト・ファクター』(窪田輝蔵著 インタ ーメディカル 1996)がお薦めです。 さて,検索エンジンで高いシェアを誇る「グー グル」のページランクは,リンクを引用と見立 て,Web ページ間のリンク関係によって Web ペー ジの重みを解析しています。その結果,検索語に 合致するだろう Web ページが上位に表示されま す。 

引用分析は,研究における関連論文調査からは じまり,大学ランキングの評価指標の一つとな り,更に,検索エンジンの表示順序の技術として も用いられるようになりました。情報技術が多方 面に展開する好例といえます。

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