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「本と大学と図書館と」-53- 政策の成果への疑問(Fmics Big Egg 2024年5月号掲載) 連載終了 以降は「メディアと本と図書館」としてnoteにて継続 

 少子化と人口減少への対策として,子育ての支援金制度が創設されます。対策の必要性も,支援のための財源確保も理解できます。支援される金額・方法と,徴収される金額はさておき,健康保険料に上乗せして自動的に徴収するのは,行政者と負担者にとっても簡便な仕組みです。といっても,将来の評価・成果の疑問は消えません。
 「政策」としての景気刺激策における,「成果」である消費を学術的に分析している,宇南山卓『現代日本の消費分析:ライフサイクル理論の現在地』(慶應義塾大学出版会 2023)があります。日本では「政策」を実施しても,大きな「成果」は期待できないと読めます。例えば,少子化対策の役割も期待される「児童手当」の大部分は貯蓄され,長期的に支出されるため,「児童の健全な育成及び資質の向上に資する」ことの評価は難しいとしています。「教育支援手当」のような具体的な行動を促す「ラベルづけ」が有効な手法のようです。
 さて,2000年以降の高等教育政策に伴う補助金が,知る限りで2つあります。詳細に資料を分析していませんが,私立大学の図書館を大きく変えたのは,私立大学等経常費補助金特別補助「教育・学習方法等改善支援」と,教育の質転換を志向する「私立大学等改革総合支援事業」の2つです。支援先の「ラベルづけ」は明確です。
 前者の「改善支援」(2003-2008)では,補助金の支援によるカウンター業務委託で,図書館の開館時間延長が普及し,学生の学習機会が一気に改善しました。後者の「総合支援」(2012-2015)では,アクティブラーニングのための什器等の整備での採択が数百件になり,アクティブラーニングや学修の場としてのラーニングコモンズが,図書館だけではなく大学施設内に整備されました。
 確かに,施設・設備・サービス時間の拡大は,教育の質向上の具体的なサービス向上です。紹介図書のような分析は難しくても,計量的な評価指標となり得る成績評価のGPAや,施設設備の利用人数の分析を試みることはできます。サービス利用者へのインタビューでも成果の概要は知り得ます。「新しい政策・施設・設備・サービスをつくりました。使ってみてください」だけでは,今更ですが,先と同様に成果への疑問がわきます。
 「学校の勉強は思考スキルの訓練だ。仕事や生き方パートナーを,それを使って選ぶ。君たちは何にだってなれるし,どこへだって行ける」という名言があります。行政者と教育関係者も,社会や学生から学び続け,疑問の解決に取り組み続ける人生をおくるべきでしょう。

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