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〈音楽ガチ分析〉ベートーヴェン「月光ソナタ-第1楽章」

▽ほかの楽章はこちら▽

今回は初のクラシック音楽分析です。
ベートーヴェンのピアノソナタ第14番 「幻想曲風ソナタ」、通称「月光ソナタ」を見ていきます。
メロディらしいメロディがない不思議な曲で、しかもクラシック音楽なのにかなり挑戦的な転調を頻繁にします。
本記事は無料で読むことができ、midiファイルもご自由にDLしていただけます。
※ 今回は普段と違うソフトを使って分析したので、いつもと形式が違います。

【総評】
楽式は複合三部形式とされているが、小規模なソナタ形式とした方が妥当と思われる。楽曲全体を通して、上声部のメロディに起伏がなくリズムも大きいため旋律感がかなり希薄。アルペジオの最低音がほぼ断続的にメロディをオクターヴ下で重ねており、そのおかげで動きのない旋律でも厚みがある重厚な響きとなっている。また、低音位もたいへん起伏のない音型なので、メロディを食わずにじっとりと下で支えている。多くのシーンでメロディ・低音位ともにオクターヴ重ねられているため、音響は大変分厚く重たい。その間でアルペジオが密集配分の和音をずっと奏し続けていて、乏しいリズム感を補いつつ、かなり自由かつ意外な転調を行うことで、和声的面白さを曲に与えている。すなわちこの曲のうまみは、少なくとも美しい旋律ではないだろう。直截に示される和声から漂う茫洋感がこの曲の主たる構成要素であり、そんな茫洋とした一様な音像の中だからこそ、意外な転調や第1主題の「付点8分+16分」のリズム、強烈なavoidを含む第2主題といった素材がきらめきを持つ。

和声的には、ナポリのII(-II)が常に効果的に用いられる。これによる旋律の変位音も上記のきらめきの要素である。メロディや低音位には半音進行が比較的多く、重厚で暗い響きに寄与している。属和音(V)は頻繁に短9の和音(V7(b9))として用いられる。それを根音省略したdim7の和音も同様に良く用いられ、直截なdim7のアルペジオは好んで使われる。また、Iの2転に関与してVsus4の和音も倚和音としてよく使われる。

ピアノの技法の観点から見ると、メロディとアルペジオを共に右手で奏させることで3つの声部があるかのように聞かせていて面白い。ただ、右手で共に奏せるようにした結果メロディの起伏がなくなった可能性もある。

ソナタの第1楽章は、古典的には軽快で明るいものが一般的だったが、この曲はベートーヴェンが意図的に慣習を打破したものとされている。


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