ケケケケケケケハレケケケ→

ところで、私はハレの日が苦手だった。

ハレというのは、ハレの日ケの日のハレのこと。

ハレは儀式や季節の行事など特別なこと、ケが普段の生活、日常のことらしいです。

「だった」と過去形なのは、この頃ハレの日は大事だと思うようになったからだ。
新しい生活様式になり、規制も少しは緩和されている。
とはいうものの、ハレの日を存分に味わうことはできず、私の日々は相変わらずケが続いている。

「何でもない日々を大切に生きる」
この考えには賛成だが、何でもない日がこうも続くと、大切にできているかどうかさえ、分からなくなってくる。

海軍の皆様が金曜日にカレーを食べるのは、長い航海の中で曜日感覚を取り戻すためらしい。(諸説あるようです)

以前は他人事のように聞いていたが、今は
「うんうん!そういうのって大事だよね!ずっと同じじゃ、おかしくなっちゃうもんね!」と激しく同意している。
季節や人生の節目を感じるのって大事よね。

前置きが長くなったのは少し照れくさかったからで、昨日は私達夫婦の結婚記念日だった。
10年目は「錫婚式(すずこんしき)」というらしい。アルミ婚ともいうらしい。ダイヤモンド婚は60年なんだって。

錫(すず)と聞くと、思い浮かぶのが
「銀どころか、錫さえ出ねぇ」
という「天空の城ラピュタ」の1場面である。

鉱山の荒くれ者が錫を「さえ」と言うくらいなのだから、結婚10年は大したことなさそうだ。
でも、10年は10年。
思い切って海外、レストランでコース料理、記念の物。
年明けから、私はワクワクしていた。
でも、妄想で満足してしまう方だし、夫もハレの日が得意ではない。加えてこのご時世である。
冒頭であれだけハレが大事と言いながら、案の定、結婚記念日は何もしないまま終わろうとしていた。ちなみに夕飯は「かき玉うどん」だった。 

これには訳がある。
話は水曜日の夜まで戻るが、次女が熱を出したのだ。
一夜明けた木曜日、平熱に下がったものの念のため保育園を休ませた。私も仕事を休んだ。
あの感染症の諸症状はないものの、微熱が下がらず金曜日も休み小児科に行った。

「急に寒くなったので、風邪をひく子供が増えているのよ」

と、お医者様に言われ安心した。会社にも、病院で聞いた内容を報告しておいた。

この間、私の頭の中は例の感染症のことでいっぱいである。
木曜日は小児科が休診のため、1日ぐるぐる変なことを考えた。金曜の病院の後、ようやく錫婚式について考える余裕ができた。ホットプレートで焼肉をしようと思いつき、材料を買った。

ところがである。いや、こうなるだろうとは思っていたが、金曜日の夜に長女がバトンを受け取り、発熱街道まっしぐらになった。さらに、夫が喉が痛いと後を追う。

土曜日、夫と長女が病院に行き、風邪薬をもらってきた。
元気がない二人に対し、回復しつつある次女は暇を持て余し出す。散らかるおもちゃ、姉妹のバトル、幸い熱はないものの気だるげな夫。

そんな流れで私の心の鉱山は再び、銀どころか錫さえ出なくなった。
風邪で弱った胃袋にホットプレート焼肉は無理だろう。
銀どころか錫さえ出ねぇ。掘るだけ無駄である。
それで夕飯がかき玉うどんになった。 
長女の熱も下がった。やがて皆、元気になると思う。21時に全員が就寝。錫婚式はフィナーレを迎えた。

マメな人は半年以上かけて記念日の準備をするだろうから、以上はただの言い訳である。

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早寝のおかげで、今朝は4時に目が覚めた。
少し前に起きたのか、持ち帰りの仕事をしている夫に話しかける。

私「結婚10周年でしたね」

夫「そうですね」

私「特に何もしないまま、お互いに指1本触れないままですが、これで良いと思っているんですか」

夫「良いとは思っていませんが」

正座をして、かしこまったキスをした。結婚記念日はこれで本当におしまい。今夜はホットプレート焼肉ができるかもしれない。そしてケの日は続いていく。

今回も私一人が風邪を引かず元気だった。
丈夫さには自信があるのです、私。

丈夫さに慣れると、儚いものに憧れる。
自分自身に対してそうなのだから、お互いずっと顔をつき合わせていれば、マンネリになるのは仕方がない。
だから、少しハレを意識して、ケを生きて行こうと思う。

ケケケケケケケハレケケケ

いや、それだとメリハリがつかないから

ハレハレケケケハレケケケくらいで行こうと思う。

ケが続くとまるで笑っているみたいだ。
そして、ハレは合いの手みたいだ。

ケケケケケ、ハ!レ!
色々あるけれど、これからもそれなりに真面目に生きて行こうと思う。